page22 走り書き(scribble)
page22 走り書き(scribble) ―1
「今日、ミーティングじゃなかったの」
影が落ちた。
見上げると正面にハルが立っていた。
「なんで諒輔がここにいるの」
俺は黙って顔を背ける。ハルはため息をついて隣に座った。
「こっちだって、暇じゃないんだよ?」
「だったらいちいち抜け出してこないで仕事に戻ればいいだろ」
「残念ながら、諒輔のメンテナンスも野球部マネージャーとしての大事なお仕事なんでね」
不貞腐れたままの俺に、ハルは自分が着ていた野球部のジャンパーを掛けた。
「話すならさっさと話せ」
俺は顔を上げてグラウンドを見渡した。目の前で、野球部員たちが汗を流している。
小さい頃から中学卒業まで続けていた野球で、俺は戦略タイプとしてそれなりのレベルまで登り詰めていた。結局辞めてしまったが、去年からここに座りながら、ハルを介してコーチのいない野球部にアドバイスをしていたら、たまに冗談で監督なんて呼ばれるほどの仲になってしまった。
まあ、それも、俺の知識じゃなく、ハルの人付き合いの上手さが功を奏したようなものだけれど。
部活に所属していながら、野球部がなかったら、俺は本当に独りになってたよなあ……と、二年になってハルと離れてしまった今のクラスを思い浮かべながらそう思う。つるんでいるのはだいたい野球部のやつらだ。
ハルには世話になりっぱなしだ。
いつかお返しをできたら、とは思うのに、いつまで経っても。
「ミーティングしてたんだけどさ」
ああ、駄目だ。声が掠れてきた。これは風邪のせいだ、風邪のせい、決して涙が零れそうなんかでは、
「とうとうやっちゃった」
ハルは何も言わない。でも、ちゃんと聞いてくれているのを俺は長年の付き合いから知っている。
「今までしんどかったんだぞって。俺がいなくなったら好きにしろって。そんなつもりじゃなかったのに、もっと後腐れなく居なくなれたらよかったのに、」
三角座りをした膝の間に顔を伏せる。
「今までの我慢が全部無駄だ」
「それはどうかな」
そこでようやくハルが口を挟んだ。
「無駄だろ」
「分かんないよ」
今日はそんな必要もないと思って、部室の窓を開けてこなかった。部室が今どうなっているかは分からない。
「諒輔さあ」
突然頭に衝撃が来て、俺は頭をあげようとした。が、できなかった。
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