page3 路地と街灯
page3 路地と街灯 —1
マフラーをしっかり巻いているのに、寒い寒い。わたしは肩を竦めて風を凌いだ。
もう二月だというのに、ちっとも気温が上がらない。日の出る時間も一向に伸びない。春はまだだろうか。
いつもの通学路。学校と駅を繋ぐ道は住宅街で、ちょっとした坂になっている。学校が丘の上。麓が大通りで、それを渡れば桜名駅はすぐ。ローカル線だけれど、小さくて可愛くてわたしは好きだ。なだらかな坂を下る。周りは桜名生ばかりだけれど、街灯は少ないのでそんなに騒々しい雰囲気にはならない、暗い道。
ちらりと左上を窺う。部長の黒いネックウォーマーは、表情を読むことを拒む。ただでさえ仮面のように生きてるのに、これ以上拒まれたらもう諦めるしかない。そうでなくても真っ暗で見えないというのに。
部長がスマホを開いて、一瞬顔が照らされた。さっきの伏目と紅い頬は、職員室に鍵を返してくる間にすっかり元通りになっていた。そのままスマホを操作しながら歩く部長の、斜め後ろをわたしはついていく。危ないですよ、とは思いながら、口に出せずに歩く。ちらりと見えたところによるとSNSアプリの画面で、誰とお喋りしているのだろう、と思うけれど、それはわたしとは全く関係のない話だ。わたしが踏み込める場所ではないし、踏み込もうとも思わない。
ただ、わたしを帰り道に誘っておきながら、わたしのことは一切無視して歩いていく部長に、寂しさぐらい感じることは許されるのではなかろうか。いや、楽だけれども。無理に会話を強要されるよりは、このまま駅に着いてしまうのも悪くない。
何かが変わるのかと思ったのに、どうやらそういうわけではない――
「海原」
唐突に部長がわたしを呼んで、
「ひゃい」
噛んだ。
「はい」
恥ずかしい。しかし部長はそれについては全く言及しなかった。むしろ突っ込んでください。
部長は、わたしを呼んだくせにしばらく――不安になるほど長い時間首を巡らしたあと、
「部活、楽しい?」
と聞いた、
……何その質問。
「……楽しいですよ」
以外の回答を許さない質問。
まあ、嘘をついたというわけでもない。みんなで小説や詩を書いて持ち寄って本にするという活動自体は魅力的だし、部長がいないときの部室は基本的に楽しい――じゃなかったら毎日来れないし、正直、文芸部辞めてる。
「そう」
部長が相槌を打ち、そして、会話が終了した。
……本当に、部長は、何でわたしを誘ったのだろうか。わたしにとっても、そして部長自身にとっても、利益があるとは思えない、気まずい空気を我慢しながら歩き、駅に着いたら解散するだけの時間。
「俺ってそんな怖い?」
だったら、暗い夜道とはいえ駅に向かう生徒はまだたくさんいる時分、いつもどおり別々で帰った方が……え?
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