scribble 窓の外 —2

「校正?」

 ハルの質問に、俺は黙って頷いた。

 部員にとっては今が正念場。自分の全力を費やした、今できる最高の作品を、みんな本気で提示してくる。その労力と釣り合えない俺に、逃げた俺に、できることといえば、みんなの最高傑作を悔いのない形に留めることだけ。

 校正、装丁、製本、頒布、会計、俺の仕事は〆切後から。戦士に平和が訪れてから。

「諒輔は今回も出さないの?」

 突然そう言われて、俺は思わず隣を見た。

 ノートに視線を落としていたハルは、立ち上がって、それを俺に突きつける。開かれたページは、いちばん新しい一編の置かれたページ。

「出すつもりで書いたでしょう」

 ああ――一体どこまで見透かされているんだ、俺は。

「最後のチャンスでしょ?」

 ハルは首を傾げる。それは揺らがない事実だった。この『迎春』で俺が引退だということも。もし『迎春』に載せてもらえるなら、という気持ちで俺がこの詩を書いたことも。

「――お前がそれについて何か言うのは、はじめてだな」

 論点を逸らす俺は卑怯だ。

「そうだね」

 ハルは動じない。それは俺も知っていた。

「出さないと思う」

 俺は正直に答えた。

「俺には俺の仕事がある。それに、部員たちの作品を読んでいて思う。『初夏』と『晩秋』から引き継がれてきた、その年の色ってものがある。唐突に『迎春』だけに出すのは、馴染まない」

 ハルが微笑む。

「そう――で、本音は?」

 ――あの部誌に、文芸部室に、俺の居場所はない。

「今のが本音だよ」

「そう」

 ハルは俺にファイルを手渡すと、野球部の中に戻っていった。同じデザインのジャージといえど、上着を脱いだ坊主頭の男子たちの中で、元々薄い色の髪を長く伸ばしたハルは、すぐに見分けがつく。

 あいつもよくやるよなぁ、なんて思いながら、あいつが俺の他にもうひとつ持っている文芸部内へのコネクションを、濫用してくれていないことを願った。


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