第3話

 十年に一度の月封の儀式。


 それは全国に広がる蒼海家の重鎮達が集まるという事でもあり、それら重鎮達を受け入れる本家ではまさに戦場の体をなしていた。


「この器はどこに?」「各部屋の掃除はすんだか?」「違う!倉庫の中の極上品を全て出せと言っただろうが!」「食材の準備を怠るなよ!麓の業者全てに連絡を取り出来るだけ最高の食材を集めろ!」



 屋敷のあちらこちらで飛び交う怒号…嬌声、誰かが走る音。 本家の人間にとっては十年に一度来る最悪の日である。


 それはまだ十七の歳で時期当主の座にある月代もまた同じであった。


「月封の儀式の前にする準備会の段取りなのですが……」「まず御当主様からの御言葉の後に月代様が挨拶を……」「準備会の時に着る御召物はこちらでよろしいでしょうか?」


「ああ疲れた!こんな大変なことやるなんていくら十年ごとでも嫌になってくるわ!」


 次々と来る月封の儀式の前にしなければならないことの嵐に、嫌気が差した月代がはしたなく胡坐をかく。


 服装は儀式の際に宗家しか着れない最高級の布地に色々と刺繍や紋様が走らされた着物を着せられているが、今は前帯もはずされダラリと下に着た白い着物がはみ出ている。


「お婆様の時もこんなだったのですか?」


 月代が一段高い位置できっちりと正座をしている老婆に話しかける。


「……私の時はもっと大変だったさ、何しろ準備に一週間はかけて、その間に準備だ、作法だ、清めやらで、てんやわんやだったものさ」


 この老婆こそ、蒼海家宗家代表であり、全ての分家を束ねる当主蒼海鈴音であった。


 すでに現役を引退しているが、未だ分家本家問わず影響力が残っており、彼女の決めたことに表立って反対するものはいないという独裁者でもある。


「うへえ!私だったら当主辞めてるかも……」


 冗談っぽく言う月代に鈴音が鋭い目つきで睨む。


「月代、蒼海家宗家を継ぐお前が軽々しいことを言うものではないよ」


 ぴしゃりと簡潔だが叩きつけるような一言に月代も小さくなって一言「ごめんなさい……」と謝る。


「わかればいいんだよ。それにしてもお前はやや軽率なところがあるね……こないだも妖の前に出て危ういところだったと聞いておるよ」


「……すいません、でも錬は悪くないんです。錬は私を止めました」


「ああ、わかっておるよ。日間や他の者達がお前をかばう意味で錬がそそのかしたと言っておったが……お前は賢い子だからそれに気づいているだろうとは思っておったよ」


「……はい、私のミスでした……その……錬と二人で倒せば少しは皆も変わってくれるかと思いまして……」


「お前が皆から無能と呼ばれている錬をどうにかしようと思って先急いだことはわかっているよ……それがかえって錬の評価を下げることになってしまっているのを気にしているのだろう?」


「は、はい……でも錬は気にしたそぶりもしません……それでさらに罪悪感強くなって……」


「錬……可愛そうな子。あの子には罪などないというのにな」


 老婆は静かに搾り出すように言葉を出す。


「あの……お婆様…お婆様自ら一言仰っていただければ、皆も従うと思うのですが……」


老婆は黙って首を振る。


「それは出来ないのだよ……月代。もし私がそれを言ってしまえば不憫な孫をえこひいきしたと皆に映り、一族の結束に陰が指す」


「で、でも……それなら……錬を私の従者にした時だって……」


 尚も食い下がる月代を老婆が止める。


 それ以上は月代も言うことは出来なかった。




 ほぼ同時刻。 有藤の屋敷の中で怒声が響き渡っていた。


「日輪!神聖な月封の結界陣をあの無能な小僧にやらせたそうだな!」


「錬様は有藤家の人間です。その方がやるのは当然ではありませんか!」


「有藤?あの無能な小僧がか!あんな役立たずとの許婚の約定はとうに覆したと言ったはずだ!あの無能で陰気臭い顔を見ると……おお……怖気が振るってくるわ!」


「私は認めていませんし、錬様も認めておりません、それに御当主であるお婆様も承知はしていないはずではないですか?」


「お前らの意思など関係あるか!御当主様への約定の廃止はそのうち時期を見て言うつもりであった。だが実際には約束はすでに覆されてもはやお前ら二人は何の関係もないわ!」


 父親の言葉にぐっと一瞬黙ったが日輪は尚も真剣な顔で言い返す。


「御当主であるお婆様のお言葉がなければ私は認めることは出来ませぬ!」


「おのれ!まだ言うか……この馬鹿者がー!」


 父親が平手で力いっぱい日輪の頬を引っ叩く。 それでも日輪は気丈にも頬を赤くさせながら言い放つ。


「私は犬や猫ではありません!この人が駄目ならあの人でと言われて気持ちをコロコロ変えることはできません!」


おのれ!まだ言うか……」


 畳の上にシャンと背筋を伸ばして正座する娘の顔を何度も平手で叩くが、日輪は決して顔をそらさず、痛みに耐えながら父親を見つめ続ける。


 あまりの痛々しさに家人達が目をそむけるが、屋敷の主である日輪の父親に誰も逆らうことは出来ない。


 ただその父親の腕をそっと掴んで止める男がいた。


「父上……今さら一度作った結界をもう一度作りなおすのは不可能です。今度ばかりは錬の作った結界のままで……後で私が確認しておきますから。日輪は儀式の間までどこかに閉じ込めて置いてそれから考えればよろしいかと……」


「う、うむむ……陸か……。仕方がないか……、よし日輪を何処かに閉じ込めておき、錬に使いをだせ」


 父親は興奮したように部屋を出て行き、後に残された日輪が静かに目の前の男を見上げる。


「日輪……こっちにおいで、氷で腫れをひかさないと……立てるかい?」


白く美しい肌に、柔和な表情のまるで女性のような顔立ちをした陸と呼ばれた青年が優しく日輪を立たせる。


「兄様……」


「全く強情なのもほどほどにして置かないと、とりあえず可愛い妹が殴られ続けるのを阻止できてよかったよ」


優しく頭を撫でながら陸が微笑む。 日輪は一言「ひっく…」としゃくり上げると陸の胸に顔を渦ませて小さい声で泣き出す。


「兄様……私……私……」


 自分の胸の中で泣き続ける妹を陸が優しく抱きしめ続ける。


「大丈夫…僕が後で父上に取り成してあげるからね」


「私……動物では……ありません」


 尚も喋ろうとする日輪の背中をポンポンと優しく叩きながら、


「本当に日輪は錬のことが好きなんだね……少し妬いてしまうよ」


 日輪が顔を赤くして慌てて離れる。


「あ、あんな人……す、好きではありません!た、ただ……まるで動物のように相手をコロコロ変えられるのが嫌なだけであって……その……お婆様の許可さえあれば……別に……私は……」


ゴニョゴニョと言う日輪の頬を両手で包んで、陸が笑う。


「ほら泣き止んだ。大丈夫、そんなことは思っていないよ……日輪にはもっと似合う男がいるさ、今は部屋に戻って寝なさい。氷は忘れないようにね……ほら、いい子だ」


 まるで幼児をあやす様に日輪を部屋に連れていき、自分も自室へ戻る途中でふと立ち止まり窓から外を見る。


 窓の向こうには錬が住む従者用の屋敷が見える。


 錬は里に来た当初は有藤の屋敷に住んでいたが、錬に何の能力もないことがわかると反対する日輪の意見を押し切って従者用の屋敷に住まわせたのだった。


 もっとも反対したのは日輪だけで、とうの錬はさっさと少ない荷物をまとめて出て行ってしまったが…………。


 蒼月の地に夜風が吹く。


もう春とはいえ、山に吹く風は冷たく、木々を揺らす音はまるで葬られた妖の恨み言のように領内に静かに流れる。


 その中で陸はしばらく錬のいる屋敷を見つめ、その後に封石のある方向を見て、廊下を進んで行った。


 これから儀式で起こる騒動を暗示するように一際強い風が蒼月を走り、封石がゴトリとだが微かに動いた。





「ふーんわかったよ」


 気の抜けた返事をして錬が台所で自作のお菓子の前準備をしている。


「……それだけ……ですか?」


 有藤からの使者は静かに問いかけた。


「う~ん?何が?」


 使者の腹の中でドクンと憤怒の念が湧き出てくる。


 わかったよ……? 日輪お嬢様が……あのお父上様に逆らったことのないあのお嬢様があんなに反抗したことをこの人はそれだけで済ますというのだろうか!


 しかもお嬢様がよかれと思って頼んだ結界陣も有藤でない者がやったとしたら大変な問題になる故、こちらでやったことにしておくという、失礼な命令もこの男は手も止めずにあっさりと返事をして聞き流した。


 有藤からの使者である彼は、日輪の二つ下で、かつて日輪の従者も勤めていた。


 しかし許婚がいる娘が近くに子供とはいえ男を近くに置いておくのは錬様に申し訳が立たないと言って、十歳の時に彼は日輪から離されたのだった。


 本当は泣くほど嫌だったが、日輪自ら手を取って、


『お前はよくやってくれていたわ、だからこれはお前が悪いわけじゃないの……私は私の筋を通す為にお前と離れるの……お前が私の為に働いてくれたことは決して忘れない。だから泣くのはやめてどうか笑顔でいてちょうだい』


泣きじゃくる自分の頭をそんなに歳が変わらない日輪お嬢様が涙ぐみながらそう言ってくれたから自分は離れられた。


それがお譲様の為だと思ったから……悲しみを断ち切って自分は笑顔で『はい』と答えたというのに……。


 目の前でゲレンデだかメレンゲだかをせわしそうに混ぜている男の背中を見つめながらいっそのこと死んでしまえばいいのに……いや、殺してやりたいとさえ彼は思った。


「……怖いこと考えるなよ」


 白いふわっとしたものをかき混ぜながら主の許婚が背中を向けたまま喋る。


 何故? 背中を向けているのに……いやその前に自分は何も喋っていない……。


「な……何が……でございましょうか?」


 一応無能とはいえ宗家を継ぐ予定の月代様の従者なので彼は敬語で答える。


「声聞けばわかるよ。何か怒ってるってことくらいさ……」


 白い物をかき混ぜ終わったのかコトリと流し台に置いてこちらをゆっくり振り向く。


 相変わらず何を考えているのかわからないどんよりとした顔だった。


「日輪のことだからどうせ大声で反対したんだろう?自分は動物じゃないとかなんとか言ったんじゃないか?」


「し、知っていたのですか……」


「いいや……そんな話をいきなり、しかもこんな夜中に持ってくる以上有藤の屋敷で何かあったんだろうと思ってな……全く、有藤の親父様もわざわざそんなこと言わなくてもわかっているというのに……まあ、有藤だけが行われなければいけない月封の儀式の結界陣を俺がやったんだから当たり前か……」


 次の準備を始めたのか今度はチョコレートを取り出して細かく割り始める。


「な、何故……そこまでわかっていて結界陣を……?」


「そりゃ、日輪がやれって行ったからさ……変に断ると余計ムキになると思ったからやったんだけど、いま思うと……、もう少しやりようがあったよな……ゴメン」


 そういって錬が使者の少年に頭を下げる。


 少年はそこでまた驚く。


 仮にも御当主様の一族……しかも日輪様の元許婚が自分のような小間使いに頭を下げるなんて……。


「しかし有藤の親父さんも言い方もあるだろうに……急に解消するって言ったら日輪が反発するのは当たり前なのにな?」


あっ、この人何もわかっていない……。 日輪様が強硬に反対した理由を……。


「長々と失礼しました。報告の義、確かに報告致しました」


 少し呆れながら、使者としての退去の口上を伝えて立ち去ろうとすると、


「あっ!ちょっと待ってくれるか?これやるよ」


 冷蔵庫の中からケーキのようなものを二つ取り出してくる。


「な、何ですかこれは?」


「いや明後日の月封の儀式当日に出そうと思った試作品なんだけどさ……余ったからやるよ」


「いりません……失礼ながら錬様は他に考えることはないのですか?」


「無いな……何しろ無能だからな」


 ムッとして思わず言ってしまったが、返しに驚いて何も言えなくなってしまう。


「別に驚くことはないだろう?俺が倒魔の能力がない無能だってのはここじゃ知れわたってるんだからな……」


「で、ですが……あまりにも率直な…というか誇りというものはないのですか?」


 聞き返す少年に、錬はチョコレートシフォンの生地に生クリーム、飾りつけとしてどんぐりを乗せたケーキをラップに包みながらまじめな顔で答える。


「誇りね……そんなものは無いかな。何かが起きたら動く、駄目なら逃げる。心静かに……焦らずに……。それでも駄目ならただ死ぬだけさ……」


 今までの錬の声のトーンとは違い、淡々とまるで人形のように答える。


 少年は何も言えずに呆然と立ち尽くす。


「ほら……持っていってくれよ」


 振向いた錬がニッコリ笑ってラップに包んだケーキを二つ渡す。


 その変わりように何か薄気味悪さを感じながらも少年はそれを固執する。


「受け取れませんよ……第一、そんなもの持って帰ったら私が怒られます」


「そうか……実は一つは日輪の物なんだが、それでも駄目か?一応元許婚としてケーキくらい贈っても差し障りないだろう?」


「うっ……」


 思わず絶句する。


 実は少年はこれからしばらく日輪の世話をすることになっている。 傷心の妹にせめて昔馴染みの従者をと……陸の心づかいだった。


 しかしもしこのまま有藤の屋敷に帰って日輪様にお会いしたとき必ず錬様の屋敷に行った事を聞かれるのは間違いないだろう。


 何故ならこういうときに連絡係を務めるのが少年の仕事だからだ。


 だから日輪はそれを確信して少年に尋ねるはずだ。


『錬様は何と申していました?』と少年は敬愛する主に嘘はつけないので正直に答えるしかない、しかしそれは主を傷つけることになる。


内心それが心苦しくて何だかんだと理由をつけていて、とうとうこの時間になってしまってから錬に報告をしにきたのだ。


しかしそれももう限界で自分は有藤の屋敷に戻って日輪様に報告しなければならない。


自分の報告に涙するであろう日輪に、実は錬様からケーキをと言われましたが断っておきましたと報告することは出来ない。


 ましてや黙っているなどという不忠なことも出来ない、少年は黙って錬からケーキを受け取って屋敷から出て行った。


 途中立ち止まり、主の元許婚のことを思い出す。


 無能だと聞いてはいたけれど、なにやら不思議な人だ。


 信じられないくらい鈍感でありながら妙に鋭く、そして悲しく怖い人でもある。


 自分のような小間使いにはおよそ理解できない人間ではあることはわかった。


 そこでふと思った。


 あの人を理解できる人などいるのだろうか? 日輪様も……月代様も……遠くでしか見たことの無い御当主様でもあの人を理解することは不可能なんじゃないだろうか? 最後に見せたあの笑顔、ニッコリと温かそうに笑う瞳の中は何かわからないものがどっぷり入り込んでいるように思えた。


 背筋に何か寒いものを感じ、少年は主がいる屋敷へと帰っていった。


 手には二つのケーキを手にして……。





「そう、錬様はそう言っていたの……」


 屋敷に帰り、予想通り問われた少年は子供ゆえの誠実さではっきり答えた。


 日輪は悲しい顔を見せたが、少年が錬から持たされたケーキを見せられると微笑んで、


「それじゃ見つからないようにここで食べましょうか……」


 手に持ってパクリとかじりついたそれは意外に美味ではあったが、何かいいようのない違和感を感じる味だった。


 そっと少年は日輪を見上げる、彼女は何も言わずただ静かに元許婚の作ったケーキを静かに食している。


 ケーキを口元に運ぶその仕草を見て子供心に何かいけないものを見てしまったように思え、彼は急いで残りを口に入れ、日輪が食べ終わるまでずっと俯いていた。


 二人でケーキを食べ終えて少年が飾りとして乗っていたどんぐりをかじろうとすると、


「良かったら…私にくれるかしら?」


 恥ずかしそうに手を出してきた。


勿論少年は快くどんぐりを日輪の手にころりと転がして渡す。


「嬉しい…お前と錬様のプレゼントね」


 そういって無邪気に笑いかけてくる日輪に少年は、主の許婚に感じた違和感を心に残したまま引きつった顔で笑うことしかできないのだった……。





月封の儀式の一日前になると、本家の忙しさは戦場を越えて、もはや超能力者同士の戦いのようになる。


 つまり言葉は発せずとも次々に従者達が自分達がすべきことを理解し屋敷中を走り回るのだ。


  無言でありながら急がしそうに動き回る人間は少々不気味ではあるが、もともとこの蒼海本家にいる人間は上は勿論下ですら霊的能力や身体能力に秀でている者達が集まっているのだから当然なのである。


でなければ全国にある津々浦々の支部から本家に推薦できる筈が無い。


 その中で例外として常人並の能力しかない錬は従者やお手伝いさん達の邪魔にならないように封石のある場所へと一人立たずんで撫でている。


「こんにちわ……錬。結界の再点検かい?熱心だね」


「陸さん……こんにちわ。単純に屋敷の中に居ると邪魔だからここにいるだけですよ」


「そうかい……ところで白紙の件、聞いた?」


 これは当然、許婚の約定を白紙に戻す件のことである。


「ええ……今さら言われなくても……ねえ?」


「ははは……父上が頭に血が上ってしまってね、わざわざ界を君の家に送ったわけさ……」


 昨日の少年は界と言うのか……。 陸が心中で呟く。


「しかしそのことで日輪が強情になってしまってね、今日は家で謹慎させられているんだ」


「そうですか……それでは陸さんから身体をご自愛するよう日輪さんに伝えておいてください」


 錬が陸にニッコリ微笑む。


「……嫌な顔、だね」


「そうですか?自分では満面の笑みのつもりなんですが」


「うん、君はやっぱり他の者達とは違うね……とても不愉快だ」


 ざわざわと風も無いのにあたりの草が揺れる。


 春も近くまで来てやや気の早い虫達が先ほどまで飛んでいたというのにいつの間にか居なくなっていて、まるでここだけ冬になってしまったかのように凍り付いている。


「妹は泣いていたよ……許婚の解消は認めないとね」


「そうですか」


「また、そうですか……なんだね」


「それ以外に何と答えろと?」


 まるで二人を中心に竜巻が発生しているかのように草木が激しく揺れている。


「君は本当に不愉快な男だね……。特にここ数週間はそれを隠そうともしないくらいだ……一体何を考えているんだい?」


「別に……俺のような無能者が考えることはすごく単純なことですよ。陸さんこそ何やら深いことを考えているようですが?」


「そうだね……君には確かに能力が無い。この蒼海の者なら誰もが通る系統判断の義で史上で唯一の無系統という結果がでたからね」


「ほら……そうでしょう?」


「確かに君は無系統と判断されたが、実は僕はそれに疑問を持っていてね」


「というと?」


「系統判断の義はまず対象者の中にさまざまな系統の波長を流してその反響で判断するものなんだが……解せないのは君がどの系統を流しても全くの無反響だったということだ」


「それは俺に何の能力も無かったことのでは?」


「いや実はそうじゃない……実は僕は一般の人間に系統判断の義をしたことがあるんだ」


「それは……また……」


「実は普通の人間でもそれぞれ系統があってちゃんと合っている系統の波長を流すとちゃんと反響するんだよ。もっとも本当に微かなんだけどね」


「………………」


 錬は黙って陸を見つめている。 その瞳は何とも言えない奇妙な印象を陸に与えた。


「そう考えると全く反響音が聞こえない君はおかしいと思わないかい?ここからは僕の推測なんだけどね、君にどの系統が反響しなかったのは系統がなかったんじゃなくて、反響できないほど君の能力のキャパが広かったんじゃないかと僕は睨んでる。どうだろう合っているのかな?」


「陸さん……一般人に系統判断の義をするのは禁止だったのでは?」


「話をはぐらかさないで貰いたいな……。可愛い妹の許婚とはいえ、許されるものじゃないよ?」


「元、許婚です」


 ピシリという音がして、陸の後ろに巨大なムカデのような生き物が発生する。


「さすがは蒼海の歴史上最高の式紙使いの陸さんだ。ちなみにそのムカデの名前はなんていうんですか?」


「蛭子だよ……よく覚えておいてくれよ、君を殺すかもしれない子なんだ」


「ムカデなのに蛭……ですか。さすがは陸さんはセンスが違いますね」


「歯の浮くような追従は命を縮めるよ」


「そうですね……それじゃ喧嘩はもうやめましょう。ほら封石の大妖様も呼応していますよ」


 確かに封石は微かにまがまがしい瘴気を発している。


 やはり封印に綻びがでてきているのか。


「そうだね……少し大人気なかったね、今日のところはやめよう。それじゃ……また今度」


 陸は式紙である蛭子を文字通り紙にもどしてその場を離れる。


 陸の姿が見えなくなってから錬はやっと一息ついてその場に座り込む。


「また今度ってどっちの意味だよ……失敗したら俺、死ぬかも……そう思いませんか?」



 誰かに問いかけるように呟いて、また一息ついた……。



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