女王の友達作り③

 

「友人とは兄にも困ったものだな」


 誰も居ない生徒会室で窓の外を見ながら麻里沙の兄でも在る卿哉は半ばあきれたように呟いた。


「ええ、どうも宗雄兄様は瑣末のことを気になさるので弱りましたわ」


 頬に手を当てながらため息を付く。 その前には濡れたような綺麗で長い睫毛で憂いの表情をした美しい少年が立っていた。


 その人こそがアスター学園の副会長にして、麻里沙の双子の兄である有原卿哉である。


「そもそも友人とは対等の関係同士でなければ成立し得ない。だが我等と対等な存在など居るはずが無い……難儀なことを言う」


「お話くらいはする人はいますけど、クラスメイトの人たちは下心が露骨過ぎて会話をしているとどうにも疲れてしまうんですよね」


 麻里沙は頭の中で自分と関係を持ちたがる同姓のクラスメイトたちを想像する。


「一緒にお昼ご飯を食べましょう」とか「よかったら今度私の家に来てください」という誘いを毎日のように受けるが、その度に彼女は「ごめんなさい、色々としなければならいことがあるので」と断り続けている。


 子供の頃から、彼女ら兄妹たちを利用、あるいは懐柔しようと様々な人間たちに接することが多かったことでそういう人間を見抜ける特技を持つようになってしまった。


 まあ、半分くらいは卿哉兄様が目当てですので、可愛いと思えば可愛い考えとはいえますけど。


 彼女の兄である卿哉はスラリとした体型で手足も長く、まるで少女漫画の理想を体現したような見た目をしているので、当然のことながら女生徒達から好意をもたれやすい。


 妹である麻里沙から見ても卿哉程の美しい男性は滅多にいない。


 成績もよく、人当たり(その内心はともかく)も柔らかいことを考えればクラスメイトたちが夢中になるのも理解は出来る。


 けれど…。 頭の中はアレなんですよね。


 血を分けた肉親であり、尊敬もしているが、彼女がどうしても唯一理解しきれないその子供っぽいというか、夢想的というか、とにかくそんな精神的特長を考えるとため息が出るのを禁じえない。


「兄の言うこととはいえ、あまり気に病むな。所詮は人に猿の真似などできんのだ。無駄なことをしても詮無いことだぞ」


 兄は妹のため息の理由を誤解しているようだが、麻里沙もまた兄の言うことには同意でもあった。


「けれど涼子さんにも友達居ないの?って言われるのは…その…癪というか…はっきりむかつくんですよね」


 卿哉の前でしか言えない言葉でそう表現するのを窓越しに見て彼女の兄はフッと笑う。


「まあそれは確かに腹がたつが、言わせておけばいい。所詮は凡夫の言うことよ」


「う~ん、まあ…そうなんですけど…ね」


「そんなことよりも昨日はくだらん用事で宗兄のところへ行けなかったが…その…どうだ?宗兄は嘆いてはいなかったか?頼りになる弟が居なくて困るとか…」


「いいえ、全然そんなこと言ってませんでしたけど?」


 その言葉があまりにも予想外だったのか、驚愕の表情を浮かべながら振り返る。


 そして信じられないかのようにツカツカとかけよって机にバンと両手を机にたたきつけながら、


「う、嘘だ…。この卿哉が…有原卿哉が…この世界を混沌に陥れることさえ容易な俺が居ないのだぞ…さぞかし…兄も嘆いて…」


「いいえ、むしろ卿哉兄様が居ないと余計な心配をしなくて気持ちが楽だと…」


「う、嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ!そんなことがありえるはずが無い!」


 驚愕を通り越して狼狽するように頭を振りながら彼女の兄は彼女の言葉を信じようとしない。


 その様子を見ていて楽しくなってきた麻里沙は、


「いえいえ、むしろ卿哉はしばらく居なくてもいいかなと……」


「やめろーー!それ以上聞きたくない!」


 耳を塞いで、そのまま壁に向かって座り込んでしまう。


 いけません。 やり過ぎましたわ。


「兄様、さすがにさっきの言葉は嘘ですわ…宗雄兄様もさすがにそこまでは…」


「…………」


 座り込んだままションボリとした瞳でチラリと麻理沙を上目遣いで見る。


「あっ、でも今日は卿哉じゃなくて麻里沙が居てくれてよかったなとは言ってました」


「jfヵじゃsdlっじゃおおあわじ!」


 言葉にならない声で叫ぶ卿哉を微笑ましく見ながらも麻里沙は先日宗雄から言われた言葉を胸の中にまだ残していた。


 友人ですか、まあ居ないよりかはいいかもしれませんけどね。

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