血生臭すぎる茶番
えっと、どうしてこんなことになってるんでしょうか?
いつの間にか始まっていた茶番に付き合わされて少女は戸惑っている。
何かやらかすとは思っていたが、まさかこんなことをするとは…。
思い返してみれば、新しいおもちゃ(と呼ぶにはあまりにも高額だが)を手に入れてはしゃいでいたこと。
普段は絶対に行くことの無い有原関係のパーティに素直に出席すると言ったこと。
それらを考えてみれば当然の…いやいや! それでもありえないでしょ!
思わず心の中で首を横に振って誰にもともなくツッコミを入れていた。
少女が逃げ遅れた人々と一緒に居たのはたまたまで、突如始まった実兄の困った病気によるショーに面食らって動けないでいただけだ。
まあ…多少は興味があったからあえてその場に居たということもあるのだけれど。
とはいえ目の前で始まったことはショーと呼ぶには些か血生臭すぎる。
いくら透火が年齢のわりには凄腕とはいえ、やはり兄(とその病気の仲間達)が作り出したスーツとの差は圧倒的だった。
目の前で荒く息を吐きながら何とか自身の獲物で倒れるのを防いでいる透火と違い、その前でファントムこと卿哉は腕を組んで仁王立ちをしている。
「クソッ!」
透火が斬りかかる。
数メートルの距離を一瞬で詰めて、素人の自分には見えないほどの速さで木刀を振り下ろすが、ファントムはそれを難なくかわして彼の腹部に拳を叩きむ。
「ぐっ…うぅ…あああぁああ!」
それに耐えて今度は地面ごとえぐり倒すように切り上げるがそれを腕で受け、今度はヒラリとした動きで回し蹴りを当てた。
そのヒョロリとした細い肢体の動きだというのに透火は後方に飛ばされて仰向けに倒れこむ。
実力差は歴然だった。
正確に言えばスーツの性能のおかげで卿哉と透火では圧倒的に開きがあるのだが。
先日のシゴキ染みた決闘は透火にしてみれば本当に手を抜いていたのだということをあらためて知れた。
しかしいまはあの時とは逆に、いやむしろ逆と呼ぶにはあまりにもバランス悪く透火は痛めつけられている。
「ふむ、よく持った方だと褒めてやろう…だがしょせんはこの程度だったということだな…ふふふ、なんだろうな…笑いがこみあげてしょうがない」
お兄様、もはや完全に悪役ですわね。 正直、引きますわ。
目の前に繰り広げられる暴力よりも兄のノリノリの悪怪人ぶりの方が彼女にとって痛々しくてしょうがない。
「さて最後までパーティに張り付いていた皆様方、もはや宴は終わりました。さっさと帰ってもらうとしましょう…おっと、その前にお嬢さんはこちらに…」
「きゃっ!な、何を…」
最後の客達が逃げ出す中、最後尾に居た麻里沙をファントムが捕まえる。
『落ち着け…俺だ。このまま外に出れば色々と面倒だからこのまま俺と一緒に居なくなってもらうぞ?なに、あとで途中で紳士的に解放されたと言っておけばいい」
「お兄様、やってることがアレすぎて、それ信じてもらえそうにないんですが?」
小声での会話は誰にも聞こえていない。
すでに客達は逃げ出し、いつの間にか主催者である中年男も居なくなっている。
華やかな会場の中で居るのは二人だけのはずだった。
「おい…その手を離せ」
「中々しぶといな。だが安心しなさい、私は紳士だからね、決して危害を加えないいうことを約束しよう…ああ、紳士なのだからね!」
言えば言うほど滑稽でしょうがないんですけれど。
もはや苦笑を心内に留めることは出来ず、麻里沙の硬質な表情に浮かび上がってしまう。
だがその一言が火をつけたようで、ユラリと立ち上がった透火の目に炎がともる。
「うるさい!いいから僕の妹からその手を離せといっているんだ、この悪趣味の変態め!」
怒りで燃え上がった透火の言葉は同じように相手に火をつけた。
「へ、変態だと…この超絶格好良いファントムスーツが変態だと…そしてまだ俺の前で兄だと名乗るのか…許さんぞ」
「ちょっ!…お兄様!これ以上は…」
さすがにこれ以上はやり過ぎだ。
透火が大怪我をすれば自分達の味方になりうる人材が長期離脱する可能性があるので、自分の計画に狂いが出るかもしれない。
普段は冷酷なまでに冷静な麻里沙の顔にも焦りが出てくる。
「大丈夫だよ、麻里沙、僕のことを信用しておくれ」
「いや、そういうことじゃなくて……!もう立たないでください、私は大丈夫ですから!」
「聞いたとおりだ。おとなしくしていなさい、君はもう十分戦った、何も恥じることは無い…少しだけ認めてやってもいいくらい…」
「本当はこんなことしたくないんだ…だって凄くダサいから…でも、守るためには…しょうがない…くそっ…あの時に好奇心なんかださなければ…だが…ある意味有り難い」
「…?錯乱しているのか?よろしい、いま楽にしてやろう!眠れ!今宵!しばし…な!」
ファントム(卿哉)が走り出して透火に迫る。
さすがに殴り倒す気は無い。 今のこの状態では軽く押しただけで倒れるだろうから十分に手加減してやろう。
まあこのスーツを変態と言った分を少し込めて…な。
ファントムが拳を突き出す。
その刹那の瞬間、透火の口がブツブツと動いていた。
ファントムはそれを正確に聞き取れた。 高性能メットの機能の一つである超集音機能によって…だが、その意味はわからなかった。
敵は、少年は、いや透火は確かにこう言ったのだ。
『マキシマムフラッシュチェンジ』と。
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