2.最初の先進科学者

「みなさん、私の研究室へようこそ。先進科学者アドヴァンスト・サイエンティストのテレスです」

「アリスでーす!」

 またも黒板の前にはアリスとテレス博士が立っている。

 前回は先進科学者アドヴァンスト・サイエンティストについての内容だったが、さて今回は——


                  ◇


「ねぇ博士、前回は色々と大人の事情のお話で終わっちゃったけど、ちゃんと続きを聞かせて下さいっ!」

 などと、一歩も引かないぞ的な面持ちのアリスに、テレス博士は苦笑を浮かべるばかりである。

「はいはい。でも、その前にもっと大切なことを話しておかなくっちゃ、ね」

 アリスの視線を浴びながら、テレス博士がチョークを掴む。

 かっかっかっと文字が書かれる音に遅れて、アリスがそれを読み始める。

「さい、しょの……先進科学者アドヴァンスト・サイエンティスト?」

「そう。最初の先進科学者アドヴァンスト・サイエンティスト


 だが、アリスが口を尖らせた。

「はかせぇ、そーやって、アリスをはぐらかそーとしてるんでしょー!」

「違うわよ、アリス。ある意味、これからする『最初の先進科学者アドヴァンスト・サイエンティスト』のお話がとっても重要なことなのよ」

「ホントーですかぁ?」

 斜に構えて疑いの眼差しのままのアリス。


 テレス博士は手を当てたまま腰を曲げ、アリスに目線を合わせる。

「ホ・ン・ト・よ! ……それじゃぁ、アリスに質問ね? その『最初の先進科学者アドヴァンスト・サイエンティスト』って誰だと思う?」

「あわわ! いきなりの難問ですかぁ? ……んーと、つまりはその当時の科学常識から逸脱した研究や発表した人ってことですよね? ……うーん、逸脱? ……あ! もしかして、天動説優越の時代に地動説を唱えたガリレオ・ガリレイ? それとも、ニコラウス・コペルニクス? ……あ、でも、ニュートンが『万有引力の法則』を発表したときもライプニッツの一派から異端扱いされてたし……」

「あら、アリスにしては中々いい着眼点じゃない。……でもね、その誰でもないんだなぁ、これが」

 人差し指を振りながら、テレス博士はしたり顔だ。


「えー! 違うんですかぁ! ……んーもー、わっかんなーい! はかせぇ、教えて下さいよぉ!」

「仕方がないわねぇ。それじゃ、これ!」

 テレス博士がパチン、と指を鳴らすと、黒板の半分が一気に白くなり、そこに一枚の写真が映し出される。それは年代物の白黒写真であり、そこには舌を出した白髪の男性が映っている。

「……えっ? うっそだぁ! これって、あの……イー・イコール・エム・シーじじょう、じゃないですかぁ!」

「誰が関係式を言えっていったのよ! 名前を言いなさい、名前を!」

「……あ、あるべると・あいんしゅたいん」

「ハイ、よくできました! ……と、いう訳で、『最初の先進科学者アドヴァンスト・サイエンティスト』はアルベルト・アインシュタイン博士でした!」

「……それだけですか?」

「そうよ?」

「アリスは全然納得できましぇん」

「どうして?」

「……だって、相対性理論を提唱して、『現代物理学の祖父』とまで言われてる人が、狂科学者マッド・サイエンティストにさえ間違えられる先進科学者アドヴァンスト・サイエンティストで、しかも一番最初だなんて、おかしすぎますよぉ!」

「ま、気持ちは分からないでもないけど、事実は事実。……あ、そうそう、その特殊相対性理論と一般相対性理論だけど、ある文献によると、アインシュタイン自身が『コウモリからヒントを得た』とか言ってたらしいから、その素養は十分だと思ってるけどね、私は。……ま、実際のところ、アインシュタインが先進科学者アドヴァンスト・サイエンティストだって、決定的な理論と事実があるんだけどね」

「えっ! そんなのあるんですかぁ? 博士ー、だったらそれを教えて下さいよぉ!」

「ハイハイ、分かったわよ。……と言いたいところだけど、今日はもう時間切れ。次の機会に話してア・ゲ・ル」

「ぶー! またいーところで時間切れなんだからぁ!」

「そんな顔しないの。……それじゃぁみなさん、ごきげんよう」

「仕方ないかぁ……。みんな、まったねー!」

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