第8話
自分の部屋というものは、病室とは違って居心地の良いもので、ぼうっとしている時間すらもゆったりとしているような感覚があった。
病院内での生活では、多数の隣人が薄壁一枚を隔てて各々の時間の過ごし方をしているために、すぐそばに誰かがいるという感覚がぬぐえずに少し落ち着きが得られなかった。そうした乾いた日々よりは、何事もなく普通の生徒らしい生活が送れることに対する喜びで充実していた。
明日の授業の予習をやること、今日あった出来事を思い返すこと、クラスメイトから送られてくるたわいもない連絡、それらすべてを楽しむだけで就寝しなければならない時間へとなってしまうこの日々。そして、明日への期待を膨らませつつ就寝する。
今日もまた日々の日課を終わらせ、就寝する。
朝起きると、親の僕を呼ぶ声が聞こえてくる。僕は、制服に着替え、歯磨きや朝の支度を終えてからリビングへと向かうと、スーツ姿の父とエプロンを外したたんでいる母が二人食卓へとついていた。僕のいつも座る位置にも両親と同じ料理が並んでおり、僕もいつもの椅子へ腰かける。
「そろそろ出かけるよ」そう言った父親は、眼前で合掌し、足元に置いてあったビジネスバッグに手をかけ、勇み足でリビングを後にする。母親は食事を勧めながら、行ってらっしゃいと声をかける。
父親は僕が家を出るよりも30分は早く出勤する。それを見送った僕と母親は、母親の運転で学校まで車で送ってもらう。学校につく時間は登校時間が終わる30分前をめどに家を出るため、他の生徒よりも少しばかり早くに家を出ているだろう。学校までは、自転車で20分ほどかかるのだが、僕の体を案じて母が車で送ってくれる。車投稿しているのは僕ただ一人である。
僕が食べ終わるころには、母は服装を改めすぐにでも出かけられるように準備を終わらせている。食事を終えた僕は、カバンを手に取り、母の車に乗り込む。
学校へたどり着くと、母に行ってきますと声をかけてから車を出る。そうして、学校の裏門から自分の教室へと向かう。
教室の扉を開けると、いつも一人自分の席で寝息を立てている神谷さんがいる。その彼女の寝顔を見ながらカバンから教材を取り出す。
よく寝ているなという印象が強い彼女。今日は、頬に茶色い砂汚れを付け、いつも以上に髪型は荒れていた。
「バイトお疲れ様」そう僕がつぶやくと、彼女は「えへへ」と寝言を言う。それがおかしくて笑ってしまっていると、クラスメイト達が続々と登校してくる。挨拶をしてくれるクラスメイトには挨拶を返しながら、僕は学校が始まるのを楽しみに待った。
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