第7話

 自宅として紹介された一軒家。建てられてまださほど年数のたっていないであろう家で、真新しさを持っていた。

 2階建ての3LDKの木造住宅。モデルルームによくあるような風貌で、僕の自室にあてがわれたのは二階の角部屋の6畳の部屋だった。

 白のレースカーテンがすでに窓口を覆い隠し、新しく購入されたであろうベッドに、入学式の日に学校から渡された教科書がずらりと立て並べてある机。どれも使用された痕跡は少なく、僕が担任するにあたって購入されたものであることをうかがわせる。

 退院してから数日がたち、この部屋での生活にもやっと順応してきた今日。学校から帰ってきた僕は机の上に持ち帰ってきたバッグを置くと、来ていたブレザーを脱ぎ椅子に掛け、ばたりとベッドの上に寝転がった。ポケットから携帯を取り出し、カレンダーの今日の欄に今日あった出来事を打ち込んでいく。これが、退院してから身についた学校から帰ってきてから続いている一連の動作である。

 本日もまた同じ動作を繰り返していると、放課後に訪れたひと時の神谷さんとの時間を思い出し、不意に笑う。

 たのしかった。そんな感想がポロリと口を割いて飛び出し、薄っすらと笑みを浮かべながら、今日あったことに思いをはせる。

 それからしばらくして、母親が晩御飯の用意ができたことを伝えにドアをノックした。僕はそれにこたえ、手早く用事を済ませ部屋から退室しリビングにへと向かう。リビングには、母親と父親が二人並んで着席し、反対側には一人分の食事が置かれた場所がひとつあいている。三人分の食事が食卓を埋め尽くしており、食べきれるかどうかが不安になってしまう。しかし、いつもであればどうして過食が進み、多いように感じられる食事をぺろりと平らげてしまう。

 短い短髪に黒縁眼鏡をかけた父親は、細めの見た目であるのにもかかわらず、食の進みが早い。そんな父は、食事中に車中で母に聞かれたこととほどんど同じことを僕に質問してくる。僕はそれに対して、笑顔を絶やすことなく簡単に答える。母もまた笑顔のまま僕らの会話を聞いている。

 今では通常の家庭の会話とはいかないまでも、ある程度のコミュニケーションをとれるまでになったものの、僕が退院したてのころはそうはいかなかった。ぎこちない会話に加え、沈黙の時間が長く、両親の表情もどこか堅かった。父とは、入院中あまり交流がなかったために、余計に気を使わせてしまったのかもしれない。そればっかりが、僕の気がかりになっていた。それも今では、少しばかり解消されたため、ほっとしているというのが正直なところだ。


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