第6話
放課後の始まりを告げる鐘がなってから、もうかなりの時間が経過してしまった。外で部活動をしている生徒たちも練習後の断章や、片付けなどを始めている。そんな中で僕は、神谷さんと別れた後に、暫く学校を散策していた。学校内を見て回ると、学校という場所は、とても楽しめる場所であろうと胸を膨らませることができる場所であると、そう思えた。みんなにとっての日常は、いつか、日常ではなくなってしまうのだということを想像もせずに、まったりと生活しているのだろうと考えていると、僕に訪れたみんなと同じ日常にはいったいどれほどの時間があてがわれているのだろう。
明日また、こんな風に日常を笑って過ごせるのだろうか。
そう思いをはせながら学校中を歩き回り、迎えの車を探した。学校付近で止まっている黒い車が一台あり、その車から僕の母親がゆっくりと顔を出した。車から降りて、僕のほうに気が付くとぱたぱたと駆け寄ってくる。「今日はどうだった?」と僕に声をかけると、僕の手から学校のカバンを取り上げる。
「楽しかったよ。とてもね」そう返すと、母は「そっか」と安どの表情を見せ、僕の横に並んで、二人で車へと戻る。車に乗車し、母は手慣れた手つきで車を自宅へと走らせ始める。道中に母は、今日学校であったことを中心に僕と会話を交わしていく。時折、体調の面も心配してくれるのは、やはり病院から離し自分の目から離れた場所での生活に不安を感じているからだろう。それを少しでも減らするために、僕は無理をしてでも学校での生活を楽し気に、覇気のあるように話す。
母は、僕の様子を見て、気分を良くしているのが見て取れるほどに、上機嫌だった。
病室に通っていたころの母とは比べられないほどに、温かい印象を与えてくれるようになっていた。いつもどこか寂しげだった母も、こうして、僕が病室から飛び出したこと、学校に元気よく通っていることに対して、どこか安心しているのかもしれない。あんなにやつれていた顔も、今ではすっかり年相応のハリのあるものになっている。
自宅付近にたどり着いたことを知らせるカーナビの音声が流れる。運転している母親との会話をしているだけで、すぐに時間は過ぎていったようだ。車を自宅の車庫へと停める。僕が下りようとするよりも先に、母は一度車から降り、助手席に乗せた僕のカバンを手に取り先に家のほうへ戻っていってしまった。
病院から退院した直後はここが自分の自宅だと認識するのには時間を要してしまった。
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