第5話
彼女の隣の席である僕は、彼女を起こすことがないように音を立てずに恐る恐る自分の机へと向かっていく。
机にたどり着いたところで、彼女は剥くりとけだるそうに体を起こす。
「ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」
僕がそう問いかけると、彼女は眠り眼をこすりながら、ううんと首を横に振る。
「最近寝れてなくって……」
はははと照れながらそう笑う彼女は、うんと体を伸ばす。
「こんな時間までどうしたの?」
体を伸ばしながら、僕に質問を投げかける彼女。
「先生に呼び出されてね。この前の小テストの補修だってさ」
「お、意外とおバカさんなんだね」
いたずらな笑顔を見せる彼女につられて、僕も笑みが漏れる。
「君も補修を受けるようにって言われてたよ? 僕と同じだね」
「ほんとに? やだな~」
あからさまにがっくりと肩を落として見せる。明らかに芝居くさいそのしぐさに、補修を伝えられることに対して慣れがあるのだろうとそんなことを考えてしまうが、どこか彼女の表情にはそれ程までに嫌がっているようには見えず、むしろ、少しばかり嬉しそうに映った。
「珍しくないの? 補修を受けるのは」
「受けない方が珍しいくらいかな。でも、今回は久々に一人じゃないからね。いつもよりは、うれしいかな」
君のおかげだね。と冗談めかした表情で、僕に笑いかける彼女。一時、僕が返答しないでいると、彼女は慌てたように「ごめん。冗談だよ」と取り繕うとしてくる。そんな慌てた表情がかわいらしく見えた僕は、たまらず笑い出してしまい、余計に彼女を困惑させてしまう。
冗談だと笑って見せると、彼女はもうと言って頬を膨らませ怒った表情を見せる。それに見た僕がさらに笑い続けると、僕に合わせるようにして彼女も笑い出す。二人でひとしきり笑いあった後、笑い疲れた体を休めるかのように少しばかりの静寂が訪れた。
「そろそろ帰らなきゃ」彼女はそう言って、机の横にかけてあった自分のバッグに手をかける。そして、「君は帰らないの?」不思議そうにそう問いかける。
「僕はもう少しで迎えが来るから。それまで残るよ」
「そっか。じゃあ、私も一緒に待つよ。補修でもテストやるから勉強しとこ?」
「いいの? 帰らなくても」
「うん。今日はバイトもないから。大丈夫だよ」
「そっか」僕はそう呟いて、自分の席に腰掛ける。それに合わせ、彼女は自分の机を僕の机に横付けし、前回受けたテストの用紙を僕らの机の間に広げ、彼女と相談しあうようにして、補修に向けた対策を練り始めた。
そんなゆったりとした時間はそう長くはなかった。
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