第4話
僕にはわかっていた。
僕にとっての最高の出会いというのは、きっとほかの人にとってはただの出会いであると。
新しく始まった僕の学校生活というのは、波風立つことなく、ごくごく普遍的な静寂としたものとなっていた。しかし、それは僕の求めていた恋愛の始まりそのものだ。
放課後に友人と肩を並べながら帰ったり、チームメイトたちと部活に青春をぶつける。こんなことが、とてもかけがえのないものになるとはだれも考えもしないだろうが、きっとその時に培われた感情は一生ものになることだろう。
そんな中、僕は担任の教諭に職員室へと呼び出され、担任の眼前に立たされていた。
「あのね。ある程度の教養は持っているという話だったのに、この小テストどうして白紙で提出したのかな?」
そういって、我がクラス担任の女教諭は、僕の名が書かれた一つも回答されていない小テストプリントを持ち、少しばかり険しい顔をしながら僕に問いかける。
「補修を受けたくって」
僕は、笑みを浮かべながらそう答えると、先生ははぁを大きくため息をついて見せた。
「あのね。補修は受けたくて受けるものじゃないの。わかってるわよね?」
「もちろん」
「ああ、もう。いいわ、じゃあ神谷さんもだから、明日の放課後に補修だって伝えておいて」
「喜んで」
先生が頭を抱えながら頼みごとをしてくれることを、待ってましたとばかりに返答する。彼女一人が毎度のように補修を受けるメンバーに入ってくることは、テスト前の彼女と彼女の友人たちの会話が聞こえてきたので知っていた。彼女なりに事前に勉強していることは、小テストが実施される日の様子から見て取れ、しかしながら、その努力は結果に表れてないようだ。
勉学に対して不真面目な生徒というわけではない。授業中も慌ただしく黒板の内容をノートに記し、先生の話もしっかりと聞き逃さぬようにきりっとした表情を見せている。居眠りをすることもなく、何か教材を忘れることもなく、いたってまじめな生徒である蓮が、成績だけは芳しくないようだ。
先生から僕の解答用紙を返却されると、僕はすぐに職員室を退室した。そして、自分の荷物を取りに教室へと足を運ぶ。その間には、部活中の生徒たちの掛け声や笑い声、演奏された楽器の音色が、心地の良い気分にさせてくれていた。この何でもない音が、少し前の僕にとっては夢の世界での話であったことが信じられなくなっていた。日常に組み込まれるまでの期間というものは案外早いもので、それに合わせるかのように体も自然と軽くなっていた。
教室へと戻ると、件の女の子が一人自分の机に突っ伏し、小さく寝息を立てていた。
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