第3話

 僕にとって、彼女との出会い方は最高のものだった。それは、ドラマや映画に負けないほどに感動的な展開を予感させてしまうようなものだ。 

 僕がお世話になっていた病院に、知り合いの誰かが入院しているのだろう彼女は姿を見せた。基本、病室を抜け出すことを許可されていない僕は、何か隣の病室がにぎやかになっているなという情報しか得られていなかったが、どうしたんだろうと考察しているとき、彼女は知り合いの病室と間違えて、僕の病室へと入室してきてしまった。

「ごめんごめん。トイレの場所わからくてさ~」そう言いながら彼女は、かわいらしいハンカチで手を拭いながら扉を開ける。

「どうも、初めまして」

 僕は厭味ったらしい言葉を彼女に、卑しい笑みを浮かべながら返事をする。あれ、と彼女が病室を間違えたことに気が付くまでに少々時間を要し、「ごめんなさい」と言ってすぐ様病室を後にしてしまう。

 なんだ、と僕ががっかりしていると、すぐさま彼女は戻って、「あの。よかったらこれ食べてください。びっくりさせちゃったお詫びで」そういう彼女は、フルーツバスケットいっぱいに果物が詰め込まれているものを重そうに持っていた。

「大丈夫ですよ。自分のお知り合いの差し入れなのでしょう?」

「あ~。いや、そうなんですけど、おばあちゃんに食事制限かかってるの知らなくって」

「なるほど、僕は残飯処理というわけですね」

「そこまで言わなくっても」

 も~とふくれっ面を見せる彼女。そんな表情を見せられてしまっては、失笑してしまう。

「私、神谷巴って言います。えっと……」

「僕は、本田健太です。神谷さんですか、次からは気を付けてくださいね?」

「は~い」そういって苦笑い、バスケットを入り口わきの棚の上に置く。

「それじゃあ、戻りますね。ごめんなさい、迷惑を掛けました」

「いいえ、大丈夫ですよ」

 彼女は退室する際に、僕に向けてぺこりと頭を下げた。

「僕にも制限はあるんだけどね」

 彼女に言いそびれたことを絞められたドアに向けて、つぶやいた。

 かわいらしい顔をした神谷巴。見る限りでは僕と同じ世代の女の子であると推測できる。


 それから、彼女は隣の人のお見舞いに来るたびに、ちらと僕の方にも顔を出してくれるようになった。そんなに会話は弾んでいたとは思えなかったが、彼女が来る日を待ち遠しいと思えてしまう自分がいることに気が付いた。そして、それが気が付いてしまってからというもの、僕の日常はがらりと様子を変えてしまった。

 彼女の話を聞いていくうちに、同じ年齢であることや学校の名前、友人関係などが察せるくらいにはなっていった。

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