第2話

 初めての登校日は、どこか高揚感があり、僕自身浮かれていた。

 初めての制服に、初めての通学路。これからこの服を、この道を歩んでいくことが当たり前になるのだと思うと、心が躍る。

 新たな通学路になる道は、ドラマやアニメで見ていてように歩いているだけでトラブルが起きるような、そんな楽しさのある道ではなかったことに肩を落としつつ、学校へと向かっていく。学校に近づいていくにつれて同じ方向に歩みを進めるものの人数が増えていく。現実味を帯びだしたことに対して、おおっと感嘆の声が漏れる。


教室に案内され、2年B組の教室へと入っていくと、仲の良い友達同士で会話をしていた生徒たちが、一斉に僕の方へ視線を向ける。教卓に立っている担任教師が、生徒たちに教卓側へ視線を向けるように声をかけると、続けて僕に自己紹介をするように促した。

「初めまして! 本田健太です!」

僕は、目一杯の期待を込めて自分の名を告げる。担任が、僕の簡単な事情を生徒たちに向けて説明していく。担任の声をよそに、僕はある人物の姿を目に焼き付けようとしていた。

担任の話などに興味はないと言わんばかりに、教室の一番奥の机に突っ伏して、ここまでいびきが聞こえてしまいそうなほど、気持ちよさそうに眠っている女子生徒。その生徒の姿を見ていると、思わず笑ってしまいたくなってしまう。彼女の普段の姿を知るためだけにここに来たといっても過言ではない。今回の、最初で最後になるであろうこの旅路を決めてくれるのは、間違いなく、眠り起きる様子さえも匂わせないこの女子生徒なのだ。

もしも、僕が天才の文豪であるのだとしたら、きっと彼女のことを心からべた褒めすることであろう。自身の語彙を全て用いて。

天才でも、普通の学力すらも持ち合わせてはいない僕が、この旅に名をつけるとしたら、彼女の名を用いるだろう。

『巴』と。

(神谷巴さん。あなたに、またこうして会うために、ここまで来ましたよ)

そんなことを心の中でつぶやいてしまうと、即座にこの考えが気味の悪いものだと思えてしまい、嫌な笑いがこみ上げる。


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