第4話

   間章 アナスタシア・ブリアレオス




 アナスタシアは聖騎士パルテノスの少女達と一緒に浮遊都市アルカディアの上空に躍り出ると、四方を見渡して状況を確認した。

 高度千メートル程度の空を飛行する浮遊都市アルカディアの下には広大な大地、すなわちアトランティスという名の大陸が広がっている。

 現在、アトランティスには魔物キメラと呼ばれる敵性生物が大量にはびこり、人類はその活動領域を大幅に制限されていた。

 なお、魔物キメラとは怪物の魔王テュポーンと破滅の魔女エキドナと呼ばれた二柱の邪神達が五千年以上前に創造した怪物の総称である。その種類は大別して二つ。

 一つは獅子に似ている四つ足歩行の怪物で、個体名をネメアーという。そして、もう一つは人型シルエットをしている二足歩行の怪物で、個体名はスパルトイ。

 大きさや強さに個体差があるが、いずれも黒く禍々しい影のような質感で、生命感は欠片もない。ひどく無機物的で、自然界の生物に酷似しつつも禍々しい姿をしている。

 これら魔物キメラとまともに相対できる人類の戦士こそ、神話聖装アポカリプシスを装備した聖騎士パルテノス達だ。防衛が難しい村落や小都市を放棄し、大都市に人口を集めることで都市国家ポリス化を進め、各都市に聖騎士を派遣して防衛対象を限定することでなんとか対応している。


浮遊都市アルカディアの付近に魔物キメラはいない? どこに……)


 アナスタシアは上空から見渡して浮遊都市アルカディアの周辺に魔物キメラの姿が見当たらないことに気づくと、続けて探索範囲を周囲数キロへと拡大し、付近をくまなく見晴らした。

 ちなみに、太陽はまだ知らないが、神話聖装アポカリプシスと契約した者は動体視力や身体能力が大きく向上する。今のアナスタシアは数キロ先で動く人影を補足することすら可能だ。


(いた! 地上型のネメアーね!)


 アナスタシアは西に三キロほどの距離に存在する都市国家ポリスの城壁に、四つ足歩行の怪物達が群がっている姿を発見した。現地に駐留している聖騎士パルテノスの部隊が既に交戦状態に入っているのが窺える。

 聖騎士団の拠点である浮遊都市アルカディアの役割は空を飛べる都市国家ポリスという機動力を活かして各地を巡回し、謎に包まれている魔物キメラの生態を調査し討伐を行うことにある。なので、襲われている都市があれば援軍に直ちに援軍に向かう必要がある。


「どうやら西の都市が魔物に襲われているようですね。浮遊都市に救難信号が届いて警報が鳴ったのでしょう。現地の聖騎士を助力します。付いてらっしゃい!」


 アナスタシアは女の子達に指示を出すと、途端に急加速して西の空へと飛翔した。他の女の子達も光の翼を羽ばたかせて後を追いかける。

 しかし、飛翔する速度は圧倒的にアナスタシアの方が速い。単身、ものの数十秒で三キロ先の都市上空にたどり着いてしまった。


(この辺りは安全地帯だと思っていたのに!)


 すっかり油断しきっていた。アナスタシアは歯がゆそうに顔を曇らせる。


(大型種や飛行種はいないようね。一気に片付けてみせるわ!)


 アナスタシアはそう決めると――、


「顕現なさい、断魔の天剣、ヘカトンケイル!」


 そう叫んで、右手をかざした。

 すると、彼女の手元に一振りの剣が現れる。アナスタシアは顕現した剣をしっかりと握りしめると、眼下の都市を囲う城壁の外に向かって急降下を開始した。そこには、現地の聖騎士パルテノスと対峙する黒く禍々しい獅子らしき怪物がいて――、


「汚らわしい! 消えなさい!」


 アナスタシアは落下の勢いに任せて、剣を振り下ろす。

 すると、獅子の頭部はバターのように切り落とされて、地面に転げ落ちた。分断された獅子の頭部と胴体は、すぐに黒い霧となって霧散する。


「アルカディアからすぐに援軍が来ます。私が前に出るわ。貴方達は戦線を下げて守りを固めなさい!」


 アナスタシアは付近にいる現地の聖騎士パルテノス達に素早く命じると、消滅した怪物には視線も向けず、周囲へ視線を走らせた。城壁へ押し寄せようとしているスパルトイの群れを次の標的に定めると、強く地面を蹴って加速する。


「行くわよ、ヘカトンケイル!」


 アナスタシアが叫ぶと、彼女の周囲に複数の剣が顕現し、ふわりと浮遊した。剣は一斉にスパルトイの群れへ飛翔していく。と、同時に、アナスタシア自身も敵に突っ込んでいく。その戦い様は実に雄々しく、優美ですらある。

 上空には遅れて到着した女の子達が集まっていて、地上で戦うアナスタシアの勇姿を見下ろしている。しかし、ややあって――、


「私達も邪魔しないように、アナスタシア総団長に続くよ!」「了解!」


 少女達も城壁の外へ舞い降りて、魔物キメラ達に戦いを挑みだした。

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