第2話

「じゃあ、そろそろ昼休みにします。次は同じ席で13時30分から始めるのでそれまでに席について準備をしておいてください。挨拶はじゃあ、岸田 零紀君お願いします。」

「起立…きをつけ…礼…」

クラスの中で悪目立ちしていた男子、岸田零紀が言った。

「ありがとうございました」

クラスの全員が言った。

「あ、雪菜ちゃん。お昼ご飯一緒に食べていいかな?」

俺は聞いた。

「いいよ。どこで食べる?」

雪菜が聞く。

「ていうか、ここでよくない?まあ、空席がだいぶあるから何人かここに来るだろうけど」

「うん、そうだね」

「ここ、空いてるか?伊藤」

「んー、あぁ、お前か。空いてるよ」

「じゃあここで食うわ。自分は岸田零紀って言います。レイって呼んでくれると嬉しいです。」

「霧島雪菜です。よろしくお願いします」

「あぁ、俺とこいつ高校も同じなんだよ。こいつがこっちまでついてきてさ」

岸田が自慢げに話す。

『はぁ、また始まったよ』

俺はそう思った。

しかも、雪菜は少しいやそうな顔をしている。

いつものことだ、岸田は自分の話をしたがる。

「それでさ、雪菜ちゃん。TRPGってどういうやつなの?」

「えっ?霧島さんTRPGやってるの?」

「まぁ、少し。たまに友達とやるくらい」

「へえ」

岸田が雑な対応をしたところで

「えっと、さっきも言ったと思うけどTRPGはプレイヤーがある程度決まった物語これをシナリオっていうのだけどこれ自分の作ったキャラクター、例えば、探偵だったら探偵っぽくしたり医者だったら対応するスキルにポイントを振り分けてそれを演じる。そして、物語を完成させるっていうゲームなんだよね」

「へえ、そうなんだ。面白そうだね」

「今度一緒にやってみない?あ、でも人数が足りないかも」

「それならあいつら誘てみるわ」

岸田が少し離れて座っていた男子に声をかけた。

「大丈夫だって。てかさあと一人誘ってサークル造らん?」

「そこはお任せする岸田君」

「わかった。」

「あ、そうだ雪菜ちゃん。連絡先交換しない?」

「いいよ」

そういうと彼女はRINEというSNSの友達追加に必要なQRコードを画面に表示していた。

俺はそれを自分のアプリで読み取ると、画面には黒というアカウントが表示されていた。

「これ?」

画面を見せながら俺は聞いた。

「うん」

「はい、追加したよ」

そうして俺は無事連絡先を交換できた書いてるの?」

「いろいろなジャンルを書くっていうのは言ったよね?その中でも俺は主に恋愛ものをメインに書いて、それをネットのサイトに投稿してるちょっと待ってね」

そういうと俺はスマホを取り出し投稿しているサイトのURLを彼女のRINEに貼り付け送信した。

「RINEにURL送っておいたからよかったら後で読んで」

「ありがとう」

ちょうど岸田が戻ってきた。

「俺も小説書いてるけど俺は高校の時に県大会で入賞したんだよ。それに比べてあいつは全くかすりもしないっていうから読むほどのモノじゃないよ」

「結局、それってっこのことだろ?過去の栄光を棚に上げて人を見下すのは上に立つものとしてなんていうか器が小さいんじゃない?俺だったらそんな奴が勝者だって認めないな」

カチンときた俺は思わず言い返していた。

「それでも俺が勝者でお前が敗者っていうのは揺るがない事実じゃん。俺は賞をもらっているからお前より小説の才能はあるね」

ふと、一瞬冷静になると彼女はなんていえばいいかわからないというような表情だった。

「まあ、賞をもらったのはお前ってのは変わらない事実、でもそんなのは過去の栄光。そんなに過去の栄光に縋り付いて馬鹿だと思わないの?俺はあの日から努力して小説を書き続けた。そして今ではウェブ小説作家としてランキング上位を常に維持してる。これが今の俺だ。しょせん過去は過去だ」

そしてスマホで俺はある画面を見せた。

そこにはランキング一位の表示と作品の平均評価9.5という表記があった。

「え、そんなお前に才能はない賞をとれなかったんだからそういうことだろ?」

「伊藤君すごいね。私、絶対読むね。それで応援する」

「ありがとう雪菜ちゃん。これで分かった?過去は過去だって。これが俺の半年の努力だよ」

岸田は何も言わずにその場を立ち去った。

「雪菜ちゃんさっきはちょっと感情的になって言い合いになっちゃってごめん。これは今後のために必要なんだ。過去との因縁を断ち切るために必要だった」

「うん、伊藤君がどんだけ努力していたか分かった気がするよ」


「みんな、席ついて始めるよ。号令は伊藤裕也君お願いします」


「きりーつ、気を付け―、礼」

「よろしくお願いします」

俺はこの時、かすかに何かを感じ取っていた。

彼女への友情に近いようで遠い感情を…

果たしてそれは何なのだろうか。

今はまだそれはわからなかった。

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