解けぬ女

その女は、毎日同じカフェテリアのほろ苦いチョコケーキを食べている。

座る席もいつも一緒。店のマスターがその女が来ることを見越して、朝イチはその席に人を入れたがらない。

今日もその女はやって来て、いつも通りチョコケーキを注文し、食べ終えたらお会計を滞りなく済ませて店を出るのだった。



その女には恋人がいた。とっても素敵で自慢の恋人であった。今日はそんな素敵な恋人に、紹介したい人がいるの、と声をかけている。気に入ってくれるかしら。そんな思いを募らせて、恋人の元へ向かうのであった。



「真希、お待たせ。」

「勇翔!おはよう。待ってないから大丈夫よ。」

「そっか、なら良かった。」

「うん。ねぇ、行きましょ。」

「あぁ、真希がどんな人を紹介してくれるか楽しみだよ。」


そう言って街を歩く。高いビルが女と男を見下ろしている。でも、女にとってその街は、自分をより輝かせる舞台に過ぎなかった。

目的のレストランにつき、彼女が予約していた旨をレストラン側に伝える。それを聞いた従業員は、綺麗なテーブルへ女たちを案内していった。しかし、女はその場所が不満である。

「すみません、あそこの外が見える席に変更してください。」

「えっ、あちらですか?」

「誰もいないしいいでしょ?いいわよね?うん、いいわ!ね、勇翔、あっちに行くわよ。」

従業員の了承を聞く前に、勝手に席に座る。その行動に男は眉をひそめたものの、何も言われなかったため無言でついて行くのであった。

「まだ来てないみたいだから、ちょっと待っててね。」

「分かった。」

二人でしばらく談笑していると、花と袋を抱えて男がやってきた。



「やあ、おはよう。真希さん。そちらの方は……弟さん?」

「おはよう、聡さん。とりあえず、そちらに座って。」

「……?どうも。」

「あぁ、はい……。」



男二人は互いに腹を探るように見つめている。なぜ呼ばれたのか、なぜこの男を紹介したいのか、なぜ女はこんなにもニコニコしているのか。考えれば考えるほど分からなかったが、そんな思いは女の説明によって消え失せた。


「あのね、この人は私の恋人なの。恋人なら、私が愛した男が他にいても受け入れてくれるよね?」


それを聞かされた男の反応はいつも通りだった。なんだよそれ?!ふざけんな!怒る、呆れる、もうお前のことなんか知らないと言い放ち、私の元から消えていく。


なんで?おかしいでしょ?だって、私の愛する男は1人に絞れないもの。だったら、複数人を同時に愛してそれを互いに報告する方が誠実なんじゃないの?私、おかしい?

ねぇ、どうなのマスター。


「貴女は何もおかしくないよ。」

「そうよね、あの人たちがおかしかったんだわ。」

次の日、いつもと同じように席につき、ほろ苦いチョコケーキを頬張る女が例のカフェテリアにいた。女はとてもわがままである。

物事に妥協したくない。私は沢山の人を愛すの。そして沢山の人に愛されるの。

そんな思いを受け入れてくれるのはこのマスターだけ。あぁ、やっぱり私、貴方しかいないのかしら。そう言えば最近体調も悪いし……1人に絞るべき?マスター、貴方と二人で添い遂げる方がいいの?


実はこのお店のチョコケーキはとても甘い。ほろ苦いチョコケーキに入っているのは……。

マスターは、ただただ女ににこやかに微笑むだけであった。

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