蛇の誘い
「お兄さん、身体、すごいね。」
「ん?あぁ、鍛えてるしな。ありがとう。」
「へぇ、やっぱり。素敵ね。」
身体を触る。女はゴツゴツとした筋肉に触れ、とても満足していた。
男もいきなり声をかけられて驚きつつも、女性の美しさを見て、単純に褒められたことに喜びを感じていた。
「こんなに筋肉ついてたら喧嘩とかも強いでしょう?」
「ボクシングしてるしな。今まで負けなしだよ。」
「凄いわね、うん。とってもいい」
「ありがとう、お嬢さん。俺もまさかこんなに綺麗な女性に話しかけられるなんて思わなかったよ。」
2人はとても楽しそうに談笑しはじめる。初対面ではあるが、お互いにこの時間を楽しんでいるようだ。夜も更け、お酒は回っている。男にとって、こんなに綺麗な女性に出会えることは今後ないと思ったのだろう。せめて身体だけでもと、肩に手を回してにこりと微笑んだ。女も、その行為の意味を捉えたのか、ニコリと微笑み返した。
2人はお店を出て、近くのラブホテルへと足を運ぶ。男も女も、下心を隠せないのか互いにほくそ笑む。男はあくまでも冷静に。女は淫靡に。
部屋に入り、シャワーを浴び、事に及ぶ。熱を帯びた身体が互いの劣情を誘う。そして、二人は繋がった。互いに腰を振り、絶頂に向けて動き続ける。
……その時だった。女が今までに見せなかった悪魔のような笑顔を浮かべたのは。
「ねぇ、お願い……首を絞めて……殺して……♡」
「……えっ?」
「殺して!その腕で!ねぇ、お願い!このまま殺して……!」
女が男よりも強い力で腕をつかみ、首まで誘導する。力を込めろという意で笑顔を向ける。女の顔が明るくなればなるほど、男は力が抜け、気がつけばその女の狂気に恐れおののいていた。
男はあわてて振り切り、その場を急いで逃げる。その様子を女は恨めしそうに見ていた。
「……やっぱり所詮その程度か。」
女は軽く呟く。
興は覚めた。つまらない顔をして、脱いだ服の抜け殻をまた被り、街へ戻る。
いつか自分を殺してくれる、そんな男を求めて。
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