おそろい

「ねぇねぇ晴人、この指輪お揃いにしようよ!」

「いいよ、琴音」


今考えると、前兆は沢山あった。

俺の彼女の琴音は、ちょっと背の低い普通の女の子。高校1年の時に告白して以来、俺と琴音は仲良く付き合っていた。

琴音の明るい性格は、昔からいろんな人を惹き付けているようで、小学校時代からの友人が沢山いるようだった。そんな中で俺と付き合ってくれるなんて……いつ考えても嬉しい。そう思っていた。


ただ……琴音はびっくりするくらいペアルックが好きらしい。服、帽子、鞄、靴。色んなものをお揃いにしていった。最初は恥ずかしかったけど、大事な彼女のためならいくらでもペアルックにできた。

琴音も、俺がお揃いのものを着ると喜んでくれる。たまに違う服が着たいけど……。着るものをいちいち選ばなくていいから楽だし。そうやって幸せな日々が続くと思っていた。


あれは忘れもしない。俺がバスケ部の部活で指をボールにぶつけて左手の薬指を脱臼した時。いつもは一緒に帰るのだが、その日の放課後は病院に行かないとと先に帰るように連絡していたんだ。幸い、脱臼自体はそんなに酷いものでもないのですぐ治って帰宅した。指に巻かれた包帯を見ながら、あー日常生活やりにくいなぁって思ってたくらいだった。


次の日の朝、いつも通り琴音の家の前で待っていると、笑顔で琴音がやって来た。

「おはよー、晴人!」

「おぉ、琴音おはよう。昨日はゴメンな」

「ううん、大丈夫だよ。」

そう言うと、琴音は笑顔で左手の薬指を見せてこう言った。

「えへへ、私も指脱臼しちゃった、これでおそろいだね。」

そう言われたときに、背筋が寒くなるのを感じた。だって、琴音はそんな怪我いきなり起こる生活なんてしてないはずだ。おかしい、おかしい。それにおそろい?こんな怪我まで?琴音は何を言ってるんだ……?そんな疑問が俺を支配していた。

その場は琴音の「遅刻しちゃう」という一言で全てどうでも良くなったが、もう一つ事件が起こった。


俺の両親が亡くなった。事故だった。その一報を聞いた時、本当に何も考えられなかった。ただただ悲しくて。泣くことしかできなかった。でも、そこに現れたのは笑顔の琴音だった。

「晴人、私たち、おそろいだよ。」

「……琴音!!なんでそんなこと言うんだ!!人が!!俺の親が亡くなっているんだぞ!!」

いくら俺が激昂しても、琴音は笑顔を崩さなかった。そんな琴音に恐怖しかなかった。


琴音が逮捕されたのはそのやりとりのあった晩だった。俺の両親が死んだ日の夜に、自分の両親を殺したらしい。事情聴取で、彼女はただこう述べているそうだ。


「おそろいにしたかったんです。」

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