第59話 初めてとパーティ

 パーティ【party】

 社交的な集まり・会合。 パーティなんて最近全然やらないや!えっ?もう作者コメントはいらないって?ほら、このコーナーももう少しだし・・・ちょっと大目に見てや



「トキノコ!」


 そう声を張るのはロバ。


「「はい!」」


 元気に返事をするのはトキとツチノコ。


「ケーキ調達任務再びです、行ってらっゃい」


「え?えぇ!?」





 と、言うわけで、例のケーキ屋「じゃぱりケーキ」に向かって空を飛ぶ。


「今日は予約してるのか、なんでまた?」


「エジプトガン先輩が今日でパトロール一周年らしいです、そのお祝いパーティをサプライズで開くとかって」


「ほー、じゃあ私達と一年・・・より数ヶ月短いくらい先輩なのか。もっと離れてると思ってた」


「そうですね?それにしては威厳があって・・・私達もあんな先輩になりたいですね」


「後輩が入ってくるのかな?」


「隊員は常時募集中だそうですからね、有り得るんじゃないですか?」


 バサバサと羽ばたきながら、トキはツチノコと会話を続ける。そんなことをしているうちに、目的地に近づいてくる。

 前回来た時はクリスマスの時期で店先に小さなツリーなどが飾られていたのが、流石に三月も目の前になってそんなものは飾っていない。


「そろそろですね〜・・・って、あれは?」


 トキが見つけたのは、その店先にいる二人の女性。片方は飼育員のジャケットとピンクの髪。もう片方は長い金髪とツンとたった獣耳。


「キタキツネ?と・・・菜々、だっけか」


「そう、菜々さん達ですね!これまた久しぶりですし、挨拶しましょうか!」


 そう言って、地面に降り立つ。





「あら、あれツチノコじゃない?」


「ああ、トキもいるしそうかもね?話しかけてみる?」


「もちろんよ」


 そう言って、降りてきた二人・・・トキとツチノコに、ケーキ屋から出たばかりの菜々とキタキツネも近づく。

 お互いに距離を詰め、話し始める。


「こんにちは、お久しぶりです」

「な、いつぶりだ?」


「さあ・・・トキもちょっと前はよく飛び回ってたのに、最近あんまり見ないね?」


「そうですね、ツチノコが家に来てからはあんまり」


「そう、ツチノコ!あんた肉まん食べてるの?」


「や、あんまり」


「え〜・・・」


 四人でペラペラと雑談。

 ツチノコと菜々の間以外には、それぞれ独自の友人関係であるため少し複雑に会話が進む。


「私達仕事なんで、そろそろ・・・」


「おお、偉いね?頑張って」


「はい!」


 各々別れを告げて、すれ違いながらまた二人ずつに別れる。

 キタキツネ達は・・・


「なんかあいつらすごく仲良かったわね」


「そ、そりゃね?」


「・・・なんか知ってるの?」


「え?いや、その〜?なんというかさ、二人はさ」


 ぎこちない笑みを浮かべながら菜々が少しだけ顔を赤くする。その様子に、キタキツネも不機嫌そうに声を大きくする。


「何よ教えなさいよ!生意気なんだから!」


「生意気はキタキツネでしょ〜!?」


 ギャーギャーワーワーと、この二人は平常運転だった。





 店の前。

 トキ達はドアを前にして立ち止まる。なかなかその中に踏み入る勇気が湧かない。


「なんか・・・怖いな」


「また愛を見せろとか言われるんですかね・・・?」


「あったなー、それ。今なら意味がわかるけど、そういえば初めてほっぺにしたのはここか」


「そう・・・ですね」


 ツチノコが懐かしむような口調なのに対し、トキはついさっきの事のように顔を赤くする。その様子をちらりとみたツチノコは少しいたずらっぽく口を開く。


「予行練習するか?」


「いいですっ!ぶっつけ本番で行きましょう!」


 ちょっと怒りっぽく言いながら扉を開けるトキに、ツチノコは後ろからついて行く。口元をにやつかせながら。


(照れてるトキも可愛いなぁ・・・)





 カランコロン・・・


「いらっしゃいませ・・・お?久しぶりね」


 入るなりそう返事をしたのは、「リカオン」の名札をつけたフレンズ。


「こんにちは、予約してたケーキ取りに来たんですけど・・・」


「あーあれね?わかりましたー・・・マーゲイ?予約のケーキ!」


 リカオンが少し声を大きくし、カウンターから呼びかける。厨房の方に繋がってる・・・であろうカーテンの奥から、弱々しい声が返ってきた。


「ほっといてくれ・・・収穫が芳しくなかった、あの二人こそガールズベストカップルだと思ってたのに・・・」


「まだ言ってるの?ほら、いつぞやの二人が来てくれたから顔出しなよ」


「いつぞやの?」


 そこまで聞こえて、シャッとカーテンが開く。金髪に猫耳、独特の模様と、フレンズにしては珍しいメガネ。名札には「マーゲイ」。

 どうやらトキとツチノコの来店に驚いているようで、表情の淡白な彼女なりに驚きを見せていた。


「よく来てくれた・・・なあ、あれ以来愛は深まったか?見せてくれよ・・・なぁ・・・」


「なにがあったんです?」


 懇願するようなマーゲイの態度に、リカオンに質問するトキ。うーん、と小さく唸ってリカオンが答えを出す。


「あれね、今まですごくいいカップルだと思ってた二人があんまり進展してなくて悲しんでるんですよ」


「なるほど・・・」


 リカオンの説明に、トキもツチノコも妙に納得しながらそのぐったりとしたマーゲイを観察する。うなだれて、いかにも悲しそうな感じだ。メガネがズレているのも気にする様子がない。


「お前らはイチャイチャしてるだろ?見せろ!慰めろ!」


 トキの袖を引っ張り、潤んだ目を向けるマーゲイ。


「全く、お客さんだよ?失礼だからやめなさい」


 それを引きずり離すリカオン。彼女らしくない、「ふええ」という声を上げながらマーゲイがトキから離れていく。


「それで、予約のケーキを・・・」


「はいはい、マーゲイ使い物にならないんで代わりに持ってきますね」


((ぇぇぇ・・・))


 マーゲイを引きずったまま、リカオンがカーテンの奥に消えてゆく。それを見送ったトキ達は、待つ間の会話を始める。


「なんか、つい最近似たようなことあったな」


「何がですか?」


「イチャイチャ見せろってやつ」


「あ、ありましたね・・・」


 ツチノコが無表情にその事を話すのに対し、トキは少しだけ顔を赤っぽく染めてうつむきながら口を動かす。その少し下向きになったトキの顔を、ツチノコが覗き込む。そして、見つめる。


「・・・恥ずかしいんでやめてください」


「そうなのか?」


 質問しながら、ツチノコは顔をトキに近づける。急に距離が近くなったので、トキはびっくりして「わっ」と小さく驚きの声をあげながら改めてツチノコの顔を見つめ直す。


「や、やっぱり恥ずかしいですよ。そんな見つめないでください」


「私はトキの顔見てたいんだけど・・・」


「そんな言い方されたら断りにくいじゃないですかぁ〜?でも恥ずかしいですよぉ」


「・・・」


「問答無用で見つめるのやめてください!」


(かわいい・・・)


 最近、ツチノコはトキの反応を見るのが楽しくて仕方ない。ついついその顔に見惚れたりしていると、恥ずかしがったり、照れたり、逆に向こうからなにかしてきたり。「顔を見る」ひとつで色んな答えが返ってくる。

 それは「キス」でも、「ハグ」でもなんでも同じで、自分の行動に反応するトキが何よりも可愛いし愛おしい。

 だから、ついついこうしてちょっかいを出してしまう。


「も、もう!見たいなら家で見せてあげますから!お願いだからやめてください!」


「じー・・・」


「もぉーー!」


 そんな二人の様子を、カーテンの隙間から見ていたマーゲイとリカオン。リカオンは「あらあら」と微笑ましく見守るのに対し、マーゲイはハフハフと息を荒くしながらその様子を見守る。


「あの子たちこそガールズベストカップル・・・!はぁぁ〜、興奮するわ・・・」


「はいはい、早くケーキ出してあげようね。作り終わってるんでしょ?」


「もちろん。もう少し見たいからよろしく」


「しょうがないですね、取ってきますよ・・・」


 はぁ、とリカオンがため息をつきながら厨房に入る。残されたマーゲイはもう少しカーテンの隙間から観察していた。





 そしてなんやかんや一通り終わり・・・


「はい、まいどあり」


「おお、結構でかいな?」


 なんて言いながらツチノコがケーキを受け取る。すると横から、マーゲイがトキとツチノコの二人に声をかけた。


「サービスだ、何がいい?」


「何が、とは?」


「ケーキ一切れずつプレゼントしてやる、どのケーキがいいかってことだ」


「いいのか!?ありがとう!」

「えっ、いいんですか!?ありがとうございます!」


 トキとツチノコが同じような声を同時にあげながら、マーゲイにお礼をする。


「いいぞ、持ってけ持ってけ」


 トキとツチノコはショーケースに顔をつける勢いでケーキ達を食い入るように見て、じっくりとどれがいいか考える。

 やがてひとつずつ好きなものをピックアップし、それを箱に詰めてもらう。


「まぁ、プレゼントというかお代だな。今後もよろしく」


「へ?はい、ありがとうございます・・・?」


「さて、行くか。ぼちぼち戻らないと間に合わないもんな」


「そうですね?では、また機会があればお願いします!」


 そう言いながら、トキ達は店を出る。


「いつでも来いよ」「ありがとうございました」


 それを見送りながら、マーゲイ達も言葉を投げる。カランコロン、と鈴を鳴らしながら扉が閉まる。


「やっぱり、可愛らしいカップルでしたね」


「ああ、クリスマスの時からあんなに変わるとは・・・今後が楽しみでならないな」





「ただいま戻りました!」「任務完了だ、はいこれ」


「おお!ありがとうトキノコ!」


 ホールの大きなケーキをロバに手渡す。ちなみにトキ達が個別でもらったケーキは途中で家に寄り置いてきた、冷蔵庫の中に入れてある。


「まぁ、まだまだ時間まで結構あるし?部屋の飾り付け手伝って?」


「「了解」しました!」



 そんなこんな時間は経ち、日が暮れてもう夜という頃。



「そろそろ来るか?」


「電気消して!各自待機!ノコッチはピット器官!」


 全員がライオンの言葉に頷き、各自事前に決めていた定位置に着く。電気が消され、暗闇になった部屋の中で少し待つ。



 ・・・五分ほど経って。



「あれ?誰もいないのか?真っ暗・・・」


 エジプトガンがパークパトロール事務所にやって来た。不審がられているようで、中の様子を伺っている様子がガラスのドア越しに見える。


「何かあったかもしれない、突入する!」


 ガッ、とドアが勢いよく開かれ、エジプトガンが中に入ってくる。キョロキョロと暗闇の中を見渡して、声を張り上げた。


「誰かいるのか!関係者でない場合直ちに両手をあげてこっちまで来い!」


 そう言って、エジプトガンはライトのスイッチに手をかける。そして、警戒しながらパチンとそのスイッチを押した瞬間。


 パァン!パン!


 響き渡る破裂音。それに思わずエジプトガンは目を瞑る。二、三秒ほどして何かがおかしいことに気がつき、恐る恐る目を開ける。すると?


 明るい部屋の中で、自分の目の前に並ぶパークパトロールの仲間たち、全員だ。そしてそのうちの数人の手にはクラッカー。パーティなどでお祝いの景気づけなどに鳴らすやつだ。使用済みのようで、中から長い色紙が飛び出している。


「なん・・・だこれ?」


 思わずそんな声がエジプトガンの口から漏れる。目を丸くして、何が何だか状況が理解できないというか感じだ。


「エジプトガン!」


 その前に、パトロールのリーダーであるライオンが立ちはだかる。


「今日でお前がパトロールに入隊して丸一年。今日はその祝いだ。おめでとう!」


「へ・・・?祝い?緊急会議の話は?」


「あ〜・・・ロバが呼び出す口実に適当な事言ったんだろ?俺は知らん、とにかくそんな面倒なものは無い。今日は食って飲んで、騒いで祝う!お前のためのイベントだぞ?」


 ライオンの後ろに並ぶメンバーも、ニコニコと笑っている。その様子にエジプトガンもやっと何が起きたかを把握した。


「私のための、って事ですよね?」


「うん?当たり前だろ?」


 ライオンの返事に、エジプトガンが崩れ落ちる。そこから、静かにすすり泣く声が聞こえてきた。その様子に全員が心配し、駆け寄りエジプトガンを囲む。


「どうしたのぉ?大丈夫ぅ?どこか痛い?」


「違うんですセンパイ・・・嬉しくて、こんなわたしの為にって・・・!」


 その言葉で吹っ切れたのか、わあああんと声を上げて豪快に泣き始める。ライオンが心配して、パンパンと手を叩いた。


「酒!酒ついでくれ!もうはじめの言葉とかどうでもいいから、乾杯しよう!」


「はいはい、ただいま〜!」


 手が空いている者で全員のグラスに注ぎ、それを手渡しで回してゆく。全員に行き渡った頃、ライオンがエジプトガンにもグラスを持たせて立ち上がらせる。


「じゃあ、面倒な挨拶は無しで!エジプトガンのパトロール一周年を祝って、乾杯!!」


「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」



 そこからは、前のクリスマスパーティの時のようにどんちゃん騒ぎ。酒の勢いで一発芸を披露する人が出たり、変な絡みをしたり。


「トキは飲まないのか?」


 座って、ビールの注がれたグラスを見つめるトキに主役であるエジプトガンが声をかける。


「私やっぱり弱いので・・・飲みたいのはやまやまなんですが、迷惑になるし」


「大丈夫大丈夫、ツン先輩も飲んでえらいことになってるから」


 そう言ってエジプトガンが指さした先に見えるのは、酔ったあとが面倒くさいとされるツンドラオオカミのツン。酒を飲む許可が下りたのか、完全に酔っているようでロバの耳をしゃぶっている。


「ツンちゃん!?やめて、吸わないで!」


「えっへへぇ、いいでしょーこれくらい?いつものロバの方が何倍もひどいよー」


「「・・・」」


「な?それに私の祝いだし、ってのもなんだけど、せっかくだから飲めよ?」


「・・・はい!じゃあトキ、いきます!」


 座っていたところからガバッと立ち上がるトキ。グラスを高らかに掲げ、堂々と宣言する。そのおかげで全員の注目が集まり、騒がしい雰囲気が急にしんとなる。


「いただきますっ!」


 はっきりと言い切って、トキがグラスに口をつける。それを傾けて、ごくっ、ごくっ、とゆっくり中を減らしていく・・・もっとも、トキが酒に弱いというのは周知の事実なので中に入っていたのは少量だが。


「ぷは・・・」


 グラスの中を空にしたところで、へたりとその場に座り込みそれを置く。周りから拍手と歓声が上がり、その渦の中でトキが小さく「ごちそうさまでした」と呟く。


「よし、トキが頑張ったところで、ケーキといくか!前回トキ食えてないもんな、酔いが回らないうちに行くぞ!」


「「「おー!」」」


 ライオンが仕切り、みんながそれに賛成する。何だかんだ適当な部分はあるが、ライオンは良いリーダーだ。それを補う仲間もいる。


「はーい!トキノコが調達したケーキ、人数分切れましたー!」


 こんな具合に。





「んまいなぁ〜・・・!」


「美味しいですね?」


 トキとツチノコが並んでケーキを頬張っている時。不思議なことに順繰り順繰り色んなフレンズが正面に座って話をしていく。


「ケーキ調達・・・お疲れ様」


「チベ先輩!」


「お話・・・しても・・・?」


「もちろん」


 彼女はチベットスナギツネ。皆が忘れたであろう設定の一つ、パークパトロールの役割分け『執行』『尾行』『監視』の三つで、『監視』に属するフレンズである。ベテランともルーキーともつかない彼女、活動地域の違いのせいでなかなか事務所に顔を出せないためあまりトキとツチノコがこうやって喋る機会が無い。


 余談だが、彼女はこの作品において大変出番が少ない・・・申し訳ない。本人達は知らないことだが、未来の世代のチベットスナギツネが「もっと注目してくれていい」と言うように、やはり彼女に出番は無かった。えっ、メタい?ナレーションだからいーの!


「・・・よかった・・・ノコッチ・・・ちゃんと気がつけたんだね」


「気がつけた?」


「覚えて・・・ない?・・・昨年のクリスマスパーティ・・・の時に・・・言った・・・。あなた・・・気がついてない気持ち・・・あるって」


「ああ、言ってたな?忘れてた、結局なんだったんだ?」


「ううん・・・気がついた顔、してる。だったら・・・大丈夫。私とは・・・違う。幸せに・・・してね?」


 意味深な言葉を吐いて立ち上がるチベスナ。それだけを言い残して立ち去り、別の輪に紛れていった。


「やぁトキノコぉ!仲良くやってるぅ!?」


「こらツンちゃん・・・デリカシーってものがあるでしょう?」


 次に前に座ったのはツンドラオオカミとロバのペア。


 この二人は、ただならぬ関係にある。そうただならぬ関係だ。その辺は27.5話に詳しい・・・あくまで参考までに。特別、恋愛関係にある訳では無いが、実際の所はどうなのかわかる者は本人達以外にいない。

 ツンもロバに付き合って発散相手になっているが、めちゃくちゃハードなことをされているわけでもなく決して一線を超えた関係な訳ではないのだ。


「ノコッチはお酒強いね!すごーい!」


 ツンもいつもはもっと落ち着いたテンションである。ロバにツンデレ方向に引っ張られそうになったが事なきを得て、頼れるお兄さんという感じだ。そう、お兄さんという感じだ。


「ツンちゃんは弱すぎね、全く・・・」


 ロバはと言えばいつも通り、ツチノコに負けず劣らずの酒の強さを持っているため、酒が入っても平常運転だ。チベスナ談だと、酔った時はすごいらしい・・・らしい。

 彼女はある意味ツンと対極、頼れるお姉さんだ。パトロールの事務全般をこなし、オペレーターの役割も兼任である。その趣味には・・・目を瞑ろう。


「う、ぎもぢわるい・・・」


「弱いのにそんな飲むから、ごめんね二人とも?来るだけきて何の話もしてないのに・・・ほら、ツンちゃん。行くよ」


 そう言って苦笑いを置いて、行ってしまった。


「ツン先輩大丈夫ですかね?」


「そういうトキこそ大丈夫か?無理すんなよ?」


「まだ回ってきてないんで大丈夫です」


 食べているケーキの一切れが無くなった頃、また他の二人組が前に座る。


「おつかれぇ〜」


「お疲れ様、この間の件は大丈夫だったか?」


 そう来たのは「黒酢」の二人。ブラックジャガーのクロジャとカグヤコウモリのカグヤだ。

 黒酢というのは、ロバから付けられたグループ名前である。BLACKSというグループ名だったのを、とある事情で降格された。BLACKS→黒ズ→黒酢という具合である。

 しっかりしたクロジャ、ふんわりしたカグヤ。暗色の二人は暗闇の中で最大のコンビネーションを発揮する・・・要は、夜間パトロール担当というところだ。


「私達は大丈夫なんだが、クロジャは大丈夫か?殴られてたろ?」


「あれくらいどうってことない、言ってしまえば殴られただけだからな。なんなら、あれで現行犯になったから安いものだ」


「そうか、なら安心だが・・・な?」


「それよりノコッチはぁ?薬打たれたんでしょぉ?」


「ああ、検査されたけど大丈夫だとさ。ただ、薬の特定が難しいからその辺が罪になるかどうかが・・・」


「え?聞いてないのか?」


「え?」


 クロジャが意外そうな顔でツチノコを見つめる。ツチノコもなんの事か分からず、「???」と言うような顔で見つめ返す。


「あいつ、暴行の現行犯以外にも色々有罪になったらしいぞ?裁判でこんなに早く決まるっておかしな話だが、まあその辺は私達もよくわからないからな・・・」


「お金払って釈放されちゃったらしいけどねぇ?でもパークでの処分は未定だってぇ、解雇の方向で進んでるらしいけどぉ・・・」


「そっか、知らなかった。ありがとう二人とも」


 そうツチノコが言うと、二人も満足そうにして「じゃ」と言って別の人と話に行った。


「・・・トキ?」


「つちのこ?どうしたの?」


 さっきの黒酢との会話の中で、全く喋ることのなかったトキ。それを心配してツチノコが声をかけると、とろんとしたトーンで声が返ってきた。


「酔ってるか?」


「まだだいじょーぶ」


 やはりおかしい。顔も赤っぽいし、何より全体的に様子がおかしい。口調も違うし、ぼーっと壁を眺めたり、少し息が荒かったり。


「ねーえ、つちのこ?」


「どうした?帰るか?気分悪かったら、その方がいいだろ・・・許してもらえるだろうし」


「わたしはかえらなくても、ここでもいいよ?」


「へ?」





「ちょっ、トキ待って!待って!?」


 ツチノコが上げた一際大きな声に、場にいた全員がそちらを振り向く。

 すると見える光景は、目を背けたくなるもの・・・いや、決して惨いとかそういう訳では無い。ただ、気恥ずかしくて直視しにくいのだ。


 具体的には、トキをツチノコが押し倒しているというもの。それだけならいいのだが・・・?


「ダメ!ここはダメ!」


「つちのこがここでもいいって・・・」


「言ってない!みんな見てるから!」


「うん・・・べつにわたしはいいよ?」


「私がダメだよ!うわ、ちょっと待って、わっ・・・!」


 ツチノコの抵抗も虚しく、みんなが見る中でトキはツチノコの唇を奪う。周りのみんなも、酔っていたのが嘘のように冷静になり、静かにその様子を見守る。人によってはにやけながら、人によっては顔を真っ赤にしながら。


「つちのこっ♡」


「待って待って待って!ダメだって!・・・んん」


 もう一度。ふかーくキスをする。もちろん、トキが一方的にだが・・・ツチノコも強く拒める訳では無い、されてしまってから引き離そうとはしない。

 もちろん、深いとはそういう意味だ。ディープなやつだ。


 二人がアツくしている間・・・ここはさすがのライオンである。リーダー役の彼女は、こういう時はしっかりと仕事する。小さな声で連絡を回し、全員に目を閉じて耳を塞ぐよう指示をした。もっとも、ツチノコからしたらなんのフォローにもなってないが。


「ぷは・・・」


 トキが口を離した時には、そこから透明な糸が引いていた。トキは酒で顔を赤く、ツチノコは恥ずかしさで顔を赤くしている。

 そして、押し倒した姿勢のままトキが前のボタンをプチプチと、ひとつずつ・・・


「ダメダメダメダメダメ!それ以上は本当にもっとダメ!トキ、帰ろう!ほら!」


「ええ〜・・・?」


「ええ?じゃなくて!」


 ツチノコが珍しく動揺し、押し倒すトキから抜け出して、座り込む彼女を立ち上がらせてその手を引きライオンの前まで来る。


「悪いライオン、私達帰る!」


「おう、そうしろ!家でゆっくり・・・な?」


「〜〜っ!・・・本当ごめん!エジプトガンも、お前のパーティなのに途中で抜けたりして!」


「気にするな、私は平気だから。先輩だし、これくらいは大目に見よう」


 エジプトガン。彼女も今日で一年となる、まだまだパトロールとしての経験は浅いフレンズ。パトロールの中では珍しい、上下関係をきっちりと区別する彼女だが決して後輩を下に見ることはない。ちゃんと尊重する、優しさを持っている。


「じゃ!そんなわけで!」


「はーい、さよならー」「バイバーイ!」「じゃあなー」


 後ろから別れの言葉を投げかけられながら、トキの手を引いて事務所を逃げるように出る。


「これって、あいのとうひこうみたいな・・・!」


「違う!いいから帰るぞ!」


 誰も見ていないのに、恥ずかしくてツチノコはトキの手を引いて走って帰った。





「ただいま〜・・・」


「たっだいまぁ!」


 ぐったりしたツチノコと、まだまだ元気そうなトキが帰宅する。


「ケーキは・・・明日でいっか」


 冷蔵庫に入れたケーキを思い出し、ポツンと呟く。

 考えてみれば、あまりツチノコがトキの世話を見るというのは無かった気がする。そんなことを考えていると、トキが声をかけてきた。


「つちのこ・・・?どうしたの?」


「いや・・・そうだ、トキはシャワー浴びるか?私はこのまま寝ちゃって明日でいいんだけど」


「わたしもいいかな・・・」


「ん、そっか」


 トキの答えを聞いて安心し、ばふんとベッドに倒れ込む。トキもその横にゆっくりと寝そべり、ツチノコに体を密着させる。


「ねぇつちのこ?」


「何だ?」


 ツチノコがそう聞き返すと、ツチノコの手をトキがとり、引っ張ってトキ自身の胸に押し当てる。


「わたし、とってもどきどきしてるでしょ?」


「・・・うん」


 トキの柔らかい胸に手を当てると感じる感覚。ドキドキドキと、今のトキのとろんとゆったりした口調に似合わずとても速く脈打っている。

 それを感じて初めて気がつく、ツチノコ自身の胸の高鳴り。トキと同じように、ドキドキしているのだ。


「ね、さっきのつづき・・・しよ」


「・・・もちろん」


 そう言って、ツチノコはベッドから立ち上がり。



 部屋のライトをパチンと落とした。

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