第43話 初めての諱倶ココ
「じゃあ、今日からお前ら二人は本格的にパークパトロールの一員。と、言っては語弊があるが・・・まぁ、そういうわけだ。今後はパトロールに専念してくれ、以上!」
パークパトロール事務所。ライオンがトキとツチノコの二人を並べて告げる。聞いている二人は無言で頷く。
「ま、そういうわけで頑張れよ!どれ、俺もパトロールしてくるかな」
そう言ってライオンは外に出ていった。残された二人は、顔を見合わせる。
「やりましたね!訓練も終わって、晴れて新人卒業ですよ!」
「だな!早速、パトロールするか?」
「そうですね、行きましょう!」
そう言ってトキとツチノコも外に出た。
バサッバサッという羽音と共に、飛び立つ。トキは抱いているツチノコのやわらかさを、ツチノコは逆に自分を覆っているトキの温もりを感じお互い気恥ずかしくなる。
(あれからもう一週間・・・あと数日すれば二月ですか。早いですね、この間お正月だったのに・・・)
「・・・どうした?」
「いや、時が経つのが速いなあって・・・ナウさんが退院してなんだかんだ一週間ですよ?」
「そうか・・・ナウが退院してな・・・うん、アレからもうそんなに・・・」
アレ、とは当然アレである。病院を出てナウと別れた後、二人でしたこと。ツチノコの言葉に、トキも言った本人も赤面する。お互い顔は見えないが。
しばらく、訓練の間に様々な先輩から教わった通りに上空からパトロールをした。トキが力強く飛び、ツチノコがピット器官を利用し怪しい人影がないか確認する。ナイスコンビと言ったところだ。
「そろそろ休憩にしませんか?羽が疲れてきちゃいました」
「そーだな、私もピット器官使うのは疲れる・・・動物の頃もそうだったのかな?」
そうして、近くの公園に降り立つ。
「疲れましたぁ~」
「だなぁ~・・・その辺に座るか」
誰も居ない公園のベンチに腰掛ける。ふぅ、と二人で一息ついて話し出す・・・
「・・・」
「・・・」
と、いきたいが二人は話さない。最近そうなのだ、会話が減った。というのも、キスをした一件以来お互いなんだか気恥ずかしくて顔を見合わせて喋ろうとするとつい顔を逸らしてしまうのだ。
「なぁ・・・トキ?」
「はい?」
「・・・すまん、何でもない」
こうして、沈黙が続く。
「ね、ねぇツチノコ・・・」
唐突にトキが口を開く。
「あの、もうお互い忘れませんか・・・?なんだか、あれ以来素直にツチノコと話せなくて・・・その、私が悪いんですけど寂しくって・・・」
そう話すトキの声は震えていた。ツチノコが顔を見ると、静かに涙を流していた。しかし、ツチノコはどう言葉をかけていいか分からなかった。
「ごめんなさい、私がキスしようなんて変なこと言うから・・・!私は最低です、こうやってツチノコに迷惑かけて!でも・・・ワガママですけどもう嫌なんです、またあの時より前みたいに一緒にお話したいんです・・・」
トキはわっと声を上げて泣き出した。抑えようとしているようだが、口から声は漏れ涙もとどめなく流れ出る。
そして、それに対するツチノコも涙を目に浮かべていた。
「なんで?なんでそんなこと言うんだよ・・・?私だってトキが好きだ、最低なんかじゃない・・・私だって嬉しかったんだ!忘れようなんてそんなの嫌だ!」
ツチノコも珍しく声を大にして反論する。
その通りだった。ツチノコとしても、キスに関して悪い気はしない・・・どころか、嬉しく思っていた。恥ずかしかったり、本当にこんなことをしていいのかと考えたりしたが、結局はその事を嬉しく思った。
「でも、このままだと今までの私たちに戻れない気がして・・・」
トキはツチノコの勢いにひるんだが、それでもポツポツと続ける。トキの話すことだって本心だった。もちろん、本当に忘れてしまいたい嫌な出来事とは思っていない。しかし、それ以来自分とツチノコの関係が崩れそうになっている気がして、それなら『忘れる』ことで元の関係にあった方が良いと考えた。
「だったら・・・!」
ツチノコが、前を向く形から横のトキに上半身ごと向き合う体形に変え、距離を縮める。トキは驚いた様子でそのまま動けずにいると、ベンチの上で急にツチノコに押し倒された。
「私は!今までになんて戻れなくていい!トキと一緒にやっていければ私は幸せなんだよ!今までなんてそんなの関係ない!これからの新しい形じゃダメなのか!?」
ツチノコはトキの上に覆いかぶさり、どんどん話を続ける。トキは完全に気圧されていたが、ポツリと呟いた。
「でも・・・それができなくて今なんじゃないですか・・・ずるいですよツチノコ・・・私もそう出来るならしたいんですってばぁ・・・」
ぐずぐずとトキは泣き続ける。ツチノコに押し倒されるなんて、嬉しさのあまりに弾けてしまいそうなシチュエーションだが今のトキはそれどころではない。
すると、ツチノコが唐突に・・・
「してみせる!トキが嫌だって言っても・・・私は譲らない!」
そう言い放って、トキの唇を奪った。その瞬間、トキは「んんっ!?」と驚いたが、すぐにまた悲しそうな顔をする。
ツチノコは少ししてから唇を離し、顔を上げて・・・
もう一度。
またもう一度。
さらにまたもう一度。
ツチノコにそれをやめる気は無かった。一回一回丁寧に、トキと唇を重ねる。
「今気がついた!」
ツチノコがキスを終えて次のキスに入るまでに途切れ途切れ話す。
「私はっ!」
また一度キス。
「トキのことが・・・!」
まだまだ何回だって。
「好きなんだ・・・愛してる!」
最後の口付けは長く、しばらくその体制のまま動かなかった。受けているトキも、最後にはツチノコのことを抱きしめて、深く濃厚な接吻をした。ちなみにここでの「深い」とはいつぞやの夢とは別の意味の深いである。ディープではない。
「親友なんて関係戻らなくていい・・・恋人・・・それじゃ駄目か?」
口を離したツチノコが押し倒した体制のままトキに問う。すると、今度はトキ勢いよく起き上がりツチノコは彼女の肩に手を乗せていたおかげで逆に押し倒される。真逆となったポジションで、トキが震えた声で吐いた。
「本当にツチノコはずるいです・・・もう、戻れませんよ?恋人、もちろんです。私だってツチノコのこと愛してます・・・っ!」
トキの髪がだんだんと黒く変色していく。もう後ろの独特な癖毛は完全に黒く染まってしまった。しかし、ツチノコはそんなことには気が付かずただひたすらにトキの顔を見つめていた。さっきまで泣いてばかりだった彼女は、笑っていた。
そして、ツチノコがトキの肩を軽く押し上げながら起き上がり・・・
今度は、お互いが起き上がった対等な姿勢。二人で強く抱きしめ合ったのち、少しそれを緩めて体を離して・・・
改めて、唇を重ねた。
「ただいま戻りました、お疲れ様です・・・ってあれ?」
「誰も居ないな?ロバぐらいはいると思ってたんだが・・・」
一通り担当の場所のパトロールを済ませて、事務所に帰ってきた。しかし誰も居ない。ロバのパソコンに明かりは付いているが、椅子も戻されないで席を立ったままどこかに言ってしまったような様子だ。
「仕方ないです、家まで戻りますか。ねぇツチノコ?」
「そうだな?」
二人でガラスの扉を開けて、外に出る。
「今日は、歩いて帰りませんか?」
「・・・奇遇だな、私も同じこと考えてた。ゆっくり・・・な?」
二人は身を寄せる。手が触れた。
もちろん故意だ、お互いに見ないまま探りあって手を握る。しかし、今日は特別・・・いや、きっとこれからも特別だろう。握った手を、もぞもぞと動かして指を絡め合う。
「恋人繋ぎ、ですね?」
「ああ、だってもう私たち、恋人なんだろ?」
トキはふふっ、と。ツチノコはニッ、と笑ってその手を強く握る。
こいびと【恋人】
恋しく思う相手。普通、相思相愛の間柄にいう。
「恋人」は恋しいと思っている相手で、多く相思相愛の間柄についていうが、片思いの場合にも使うことがある。
だが、この場合は前者が当てはまる。
もう、誰にも解けそうには無いほど固かった。
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