第37.9話 みんなの初日の出

 はつひので【初日の出】

 元旦の日の出。はつひ。



「と、ゆーわけであけましておめでとうございます」


 ナウは一人寂しくそう呟いてみた。いや、部屋にはまだ二人いる。ベッドの上に並んで横になり寝息を立てている。


「いや・・・寝すぎでしょ・・・」


 時計を確認してみればもう午後の二時。太陽はもう高くまで上がっているが二人は深い眠りの中のようだ。


「んー、どうしようかなぁ〜。せっかく来たけど二人が寝てるようじゃね?」



 今から約十時間前─────。



「ツチノコ・・・まだ起きてますか?」


「ギリギリな・・・もうまぶた閉じたらアウトな気がする・・・」


 午前四時頃。二人は初日の出を拝むため、寝ずに部屋で待機していた。理由としては外の寒さが厳しく寒さに弱いツチノコが耐えられないからだ。


「私も・・・ふぁぁ、もう限界が・・・」


「ダメだトキ・・・あと一時間も無く初日の出とやらを見れるんだ、ここで寝たら今までの苦労が・・・」


「・・・」


「・・・」


 ツチノコが言葉を切り、少しの時間沈黙が流れる。いつの間にかカーテンの外に覗く景色は明るくなってきていた。


「・・・苦労が?」


「・・・ハッ、寝てた!?まずい・・・本当にやばいぞ」


「寝てたんですか・・・」


 二人ともテンションが低い。もうなんだかんだ年明けの瞬間からずっと思い出話などをして時間を過ごし、既に四時間以上経過している。眠いしそのせいで頭も回らず話題は出ないし話の理解力も乏しくなっている。


「寝たい・・・寝たいよトキ」


「負けちゃだめです・・・睡魔に打ち勝たなくては・・・」


「待て!まぶたを閉じるなトキ!ここで負けたらダメだ!」


「ぅあ!?助かりましたツチノコ、奴らに夢の世界に連れてかれるところでした・・・」


 限界も限界、本能のままに生きていた二人には眠いけど寝れないなんてなかなかない経験、しかも夜更かしなんてしない二人だ。当然である。


「そろそろ・・・ですかね、外出ますか」


「・・・」


「あああ、ツチノコ、ここで負けたら本当に全部無駄ですよ!?起きてー!」


「うん・・・」


「起きてーー!」


 そんなこんなで外に出た。二人共傍から見れば足取りも怪しく、目は半開きの少しやばい人のようだった。


「ここの公園からなら確か朝日が見えたはず・・・」


 忘れている方もいるでしょうしおさらい。トキ達の住むアパートの向かいには公園があります。ナウさんはここの公園で日の出を迎え、朝日を受けて煌めく噴水を見るのが好きです。(第四話参照)


「そうだな、確かに見えたと」


 二人でベンチに腰掛け朝日が見える方向を眺める。



 そして、数十分後。



「あ、はつひのでですよつちのこ・・・」


「ほんとだ、きれーだな」


 二人とも口から出る言葉に覇気がない。しかし、その目はしっかりと初日の出の美しさを脳に焼き付けた。


「・・・ねましょう」


「そうだな、ちらっとでもみれればまんぞくだ・・・」


 フラフラと部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

 おやすみなんてない、瞬間二人は夢の世界に引き込まれた。



 そして場面は冒頭へ──────。



「しゃーない、帰るか・・・」


 ナウは部屋を出て自転車道に跨り、颯爽とどこかへ走って行った。





「みてみてツンちゃん、初日の出!」


「うん、綺麗だね。ところでいつになったらこれ外して貰えるの?」


「え?しばらくはそのままですよ?」


「そっか・・・」


 パークパトロール事務所の庭。ロバの物置の前に二人は居た。


「いやマジで・・・一人で年越し寂しいからって僕のこと呼んでさ?いや、嫌な予感はしてたよ。でも通話のロバの声本当に寂しそうだっかたからさ・・・来てあげたわけよ」


「寂しかったのは事実ですよ?問題でも?」


「うん、この状況で問題しかないと思うの」


 ツンは目線をほんの少し下に落とす。見えるのは黒い合皮製の紐。それを掴んで前に引っ張ると自分の首も同時に引っ張られる。そして、その紐の先端はロバにギュッと握られている。


「首輪は普通、ヒトとかフレンズに付けるもんじゃないよね?」


「いえ、ツンちゃんは今だけこのロバのペットなので」


「さいですか・・・」


 ツンドラオオカミのフレンズは、ロバに拘束され新年を迎えた。





「初日の出・・・ですね、准教授」


「であるな、なかなか美しいのである」


 図書館の屋根の二つの影。言わずと知れたコノハ教授とミミ准教授である。


「夜行性の我々には一睡もせずこれを拝むなどちょいちょいなのです」


「であるな・・・と、言いたいところであるが何回教授を私が叩き起したか覚えているであるか?」


「・・・」


「五回である、全く・・・」


「・・・まぁ、感謝してますよミミちゃん」


 今までは教授と准教授の会話だったが、不意にコノハとミミの会話へと変わる。このモードの時のミミちゃんは弱い、何たってコノハが口を開けば顔を赤くする。


「・・・ずるいのである」


「何がですか?」


「何でもないのであるぅ・・・」





「寝ちゃったかぁ・・・」


 ここはビルの屋上・・・というのは正しくなく、フェネックの夢の中である。


「初日の出みたかったんだけどな?」


 最後の記憶は四時十五分を指している時計を見た事。そしてここは見慣れた夢の世界。


「はぁー、もうここにも来ないかと思ったんだけどなぁ〜」


 ゴロンとコンクリートの地べたに転がり、目を閉じる。夢で寝たら現実で起きれないかと淡い期待を込めて・・・





「スヤァ・・・」


 ナウは寝ていた。それはもうぐっすりと。

 パークで一番の飼育員になっていて、新人が入ってくる夢を見た。


 続くとしたらまた来年。

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