第31話 みんなのクリスマス

 クリスマス【Christmas】

 キリストの降誕を祝う祭り。12月25日に行われる。太陽の新生を祝う冬至祭と融合したものといわれる。キリスト降誕祭。




 〜フェネックP〜


 ふと、目が覚めた。

 横向きに寝ていたため、ちょっと自慢の大きな耳がぺこりと外側に折れている。それを自分の手で直しながら、視界に入った金色の髪の毛をもう片方の手で直す。

 ベッドから降りて、朝日を反射し、白く光っているように見えるカーテンをシャッと開く。


「わ・・・眩しい・・・」


 思わず声を漏らす。外には雪が積もっていて、それがキラキラと起きたばかりの目に刺激を与える。


「今日はクリスマスかぁ〜。イエス様の誕生日ねぇ」


 自室を出て、階段を一段一段少しづつ降りていく。左足が使えないというのはなんとも不便で、まだこの生活になれない。


「おはようございます」


 リビングに入り、ソファに腰掛けて新聞を広げる男に声をかける。


「・・・コーヒー」


 挨拶に対する返事は無い。きっと私は彼のコーヒーメーカーか何かなんだろう。逆らうだけ痛い目を見るのみなので、お湯を沸かしながらゴリゴリと豆を挽いていく。もうこの作業も慣れたものだ、この家ではほぼ毎朝同じことをしている。


 しばらくして、豆を挽くところから始まったコーヒーをカップに注ぎ、彼の元に持っていく。それを受け取った彼は一口啜り、リビングテーブルに置く。


「クソまじぃ」


 一言吐いて、コップの中を一気に飲み干し空にする。朝起きて、まだ十分も経たない間に眠い目を擦りながら入れたコーヒーに対する反応がこれだ。もうコーヒーメーカーを買えと思うが、そんなことを口には出来ない。


「申し訳ありません」


 口では謝罪をしてみる。大体、彼は私の方を向くことがないので体で表現しても無駄なのである。


「フェネック、もうお前はコーヒー入れるな、豆の無駄だ」


 どうせまた明日も頼む癖に。それではこちらのモチベーションも失われる一方、そもそもこの男のために身を尽くしているなんて自分でもあほらしくなってしまうが。


「今日のご予定は?」


「無い」


「クリスマスですからどこか外出されては?」


「面倒」


 答えは短的である。この男が家に居ない方が私にとっても都合がいいものだが。

 しかしここで余計なことをすれば右足もうごかなくなる可能性があるので素直に引き下がる。


 今日は神様のお誕生日。でも、神様がいれば私みたいな人・・・フレンズだけど。はこの世に存在しないんじゃないか。もっと普通な幸せを持って暮らせるのではないか。


「地球は青くても神は居ないからなぁ〜・・・」


 外に出て、真っ白な地面に話しかける。


「どこかに居ないかなぁ、私の救世主・・・」




 〜トキノコP〜


「見てくださいツチノコ!真っ白!ホワイトクリスマス!外行きましょう外!」


「ホントだ真っ白」


 カーテンを開けて二人で外を眺める。一面雪景色で、地面も隣の屋根もポストだって白く染まっている。


「ツチノコは雪初めてですよね?」


「いや・・・雪は知ってる。貴重な水分だ。降ってくれると手で持ち運び出来るから洞窟に水として貯蔵しやすくてありがたかった」


「改めて本当にすごい暮らししてたんですね・・・」


 二人で外に出て、雪の積もった地面をキュッキュッと踏み歩く。


「ツチノコは下駄で歩きにくくないんですか?」


「さぁ・・・生まれてこの方コレしか履いてないから歩きやすいのかにくいのかわからんな」


「そう言えば一本歯の下駄があるらしいですよ?今度履いてみたらどうですか?」


「まぁ、気が向いたらな。私はこれで慣れてるからな・・・」


 コツコツ、と履いている二本歯の下駄をアスファルトにぶつけるツチノコ。


「今から何しますか?雪遊びでもします?」


「んと・・・午後の集合が何時だって?」


「4時です。結構時間ありますよ」


「何のイベントの警備だっけ?」


 ツチノコが問いかけると、トキが服の内ポケットから昨日ロバに貰った紙を取り出して確認する。


「クリスマスミュージックライブ、だそうです。大物歌手とかが沢山来て歌うらしいですよ」


「へぇ、どんな人が来るんだ?聞いても多分わからないけど」


「んー、書いてあるのだとアイドルグループとかシンガーソングライターの人とかですね。フレンズの方も多いみたいですよ」


「トキはお呼ばれもらってないのか?」


「欲しいですね・・・」


 目に涙を浮かべながらトキが答える。


「トキの歌、なんで人気でないかなー、好きなんだけどな」


「そう言ってくれるのはツチノコぐらいですよ・・・」


 ポロポロと目に溜めていた涙がこぼれ落ちる。どうもトキは歌に関することには心が繊細で、すぐに泣いてしまう。普段はそんなに泣くタイプでは無いのだが。


「泣くなよ・・・」


 姿勢を落としているトキをぎゅっと抱きしめてあげるツチノコ。しばらく腕の中で体を震わせていたトキが、ふとそれをやめ顔をあげる。


「ツチノコぉ〜!」


「わわ、急にどうした・・・」


 今度は彼女の方がツチノコを抱きしめる。

 お互い抱きしめ合っているので顔は見えないが、確かにその手で感触を感じ取る。


(ツチノコに抱きついちゃってる・・・ぬくぬくあっかくて、柔らか・・・いい匂いもする、なんかこう・・・幸せ)


 とんとん、と背中に回されたツチノコの手にたたかれる。体にその振動が伝わり、また心地よさが増す。


(体熱くなってる・・・やっぱりツチノコ好き・・・理性飛んじゃいそう・・・理性飛んじゃいそう!?)


 自分の精神状態がまずいことになってるのを自覚し、手を離す。ツチノコもそれに合わせて抱擁するのをやめ、お互い向き合う。


「トキ、顔真っ赤だぞ?そんなに泣いたのか?」


「違いますよ・・・気にしないでください」


 何となく気まずくて、ツチノコから目をそらしてしまう。当の彼女は不思議なそうな顔をするだけだ。


「なぁ?トキの歌、久々に聴いてもいいか?その話してたら聴きたくなって・・・」


 少し恥ずかしそうに頭を掻きながらツチノコが喋る。トキは顔を明るくして、それに答える。


「もちろん!山の方行きますか!」


 そうして山に行き、雪が積もる中観客一人のリサイタルは長く続いた・・・




 〜ナウP〜


「ふぁぁぁ・・・ねっむ・・・」


 起きると時計は十時を指していた。昨晩は遅くまで起きていたので、仕方ないかもしれない。


「みんなは喜んでくれてるかな・・・?僕も早く練習始めなきゃ・・・」


 背伸びをしながら、朝食代わりに冷蔵庫に貯蔵している「小さな栄養士」さんを頬張る。

 例の栄養士でカラカラになった喉を潤し、楽器を沢山置いてある防音ルームへ移動。一人でそれらの練習を開始する。


「あー、緊張してきたぁ・・・」




 〜パークパトロールP〜


「おはよー!」


「おはようございますライオンさん、クリスマスに朝から来るなんて暇なんですか?」


 ライオンが来るなりロバが声をかける。


「暇じゃねぇよ!ただ、クリスマスはお前らと過ごそうと思って来ただけだ」


「あら嬉しい。あ、ツンちゃんがあそこで辛そうにしてるんで静かにしてあげてください」


「ツンが?」


 ロバの指さした先にはツンがぐだぁと横たわっていた。


「どしたのコレ?」


「昨日一緒に飲んでたらちょっとやりすぎちゃって・・・二日酔いでしょう」


「雪積もってるのに勿体無い・・・」


「ツンちゃん雪好きですからね・・・」


 ロバが毛布をかけ、彼女は休ませておく。


「みんなは?」


「チベたんが来てくれるらしいですが、他は来ませんよ?エジプトガンは別のバイト、トキノコは通信入れたら謎の爆音ノイズが入って連絡不能・・・黒酢はリア充撲滅云々で」


「黒酢の二人はなにやってんだ・・・正義のパークパトロールの所業とは思えんな」


「あの二人、何故かリア充に対する嫉妬が強くて・・・まぁ言ってはいるけど直接被害を起こしたりはしませんよ、そういう人達です」


「ライブ警備はちゃんとやってくれるんだろうな・・・?」


「あれでもキャリア長いですから、仕事はキチンとしますって。気にしなくても」


「ま、じっくり時間潰すか・・・ロバ、なんか付き合え」


「はいはーい♪」

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