第30話 初めてのクリスマスイブ-3
クリスマスイブ【Christmas Eve】
もう説明は要らないですかね?
パークパトロール事務所。
「はぁ・・・はぁぁぁん・・・」
ぐりぐりと壁に頭を擦り付ける白い影が一つ。おかげで前髪は乱れ額は赤くなっている。それでもなお、彼女はその行動をやめない。
「ぬぁぁぁん・・・」
「ロバが言うのもなんですがいつまでそれやってるんですか?クリスマスイブなんだから遊んできてもいいんですよ?ていうか遊ばないなら事務所にいないでパトロールしてきてくださいな、ツンちゃん」
「あのさロバ・・・誰のせいでこうなってると」
やっと、彼女が壁から頭を離して顔を上げる。
「いやほんとごめんなさい・・・あそこまで気分が乗っちゃうと思わなくて」
「ホントだよ!まだ身体中ヒリヒリするし、あんなにやっていいなんて言ってないから!」
「いや、あんなにたくさんするつもりは無かったんですよ・・・ただ、抵抗出来ないツンちゃん見たら・・・つい。ね?」
雰囲気だけ申し訳なさそうにしながら顔は少し赤らめ、恥ずかしそうな笑みを浮かべているロバ。ツンと目が合わないよう目線は少し右を向いている。
「ね?じゃないよ!あー、なんであの時『ほんの少しだけなら』なんて言ったかなー僕は!本気で痛かったし!気持ちよくも何ともないよあんなの!」
「うん、ごめんなさい・・・うふ、思い出しただけでゾクゾクしてきちゃう・・・♡」
「怖いよ!ロバ本当に怖い!」
「でもツンちゃんもイイ声で鳴くものだから・・・本当はちょっとだけ感じてたでしょ?ね?あぁ・・・興奮してきちゃう・・・♡」
「なんで語尾に『はあと』付いてるの!?感じて・・・無いし!」
恍惚とした表情をするロバを前に、後ずさりするツン。
「今ちょっと口篭りましたね?どうです?今夜こそは服を脱いd・・・ごめんなさい、一時休戦で」
「は?どうしたの・・・?」
ちょいちょいとロバが入り口を指さす。ツンも振り向いてそちらを見ると・・・
いつの間にか事務所内に入っていたトキとツチノコ。トキは顔を真っ赤にし、ツチノコはトキに目も耳も押さえられている。
「や、やぁトキ!ツチノコ!ごめんねトキ?パーティの時無理矢理飲ませちゃって」
「ツンセンパイ・・・テイコウデキナイ・・・イイコエデナク・・・」
「どっから聞いてたの!?」
トキはどこか遠くの方を見ながら・・・ひょっとすると、何も見えてないのかもしれないようなポーっとした目付きでポツポツと先程の会話のワードを繰り返す。
「ト、トキさん誤解だから!これは何かの間違いだから!」
「ロバサン・・・ゾクゾク・・・コウフン・・・」
「あぁ〜!?こっちも聞かれてた〜!?!?」
「なぁトキ、なんにも見えないんだけど、声もよく聞こえないし・・・トキ?聞いてる?」
トキに目と耳を押さえられたままツチノコが発言する。しかしトキは聞こえていない様子で ロバ達が方を揺すっても頭をぐらぐらさせるだけで反応無し。
ツチノコは力ずくでトキの腕から脱出する。
「トキ・・・大丈夫かな?」
「トキさん?おーい聞こえてますかー」
その時、ツンががしりとツチノコとロバの肩を掴む。
「ツチノコ、君は何も聞いてないよな?」
「え?ああ、トキに耳塞がれてたからな」
「よしよし。ロバ、ちょっと耳貸して」
「はい?」
ツンが二人から手を離しロバに近づき、耳元で何やら囁く。
(ロバ、トキが目を覚ましたら夢だと思い込ませるんだ)
(ええ?そんなこと出来るわけないでしょう)
(ワンチャン!一回試しにね?ツチノコにもバレてないから今のやり取りはここで握りつぶせる!)
(ツンちゃんもなかなか大胆な事考えますね?いいでしょう、乗りますよ)
こそこそ話をやめてスッと元の姿勢に戻る。
「トキさんはソファーに寝かしておきましょう、二人とも手伝って?」
「はーい」「?・・・わかった」
三人でぼうっと天井を見つめるトキを運び、ソファーに横にさせる。ロバが持ってきた毛布を頭ごと被せ、その場に放置。
「大丈夫かな?」
「どーだろうね?ねぇロバ、関係ないけどトキとツチノコの愛称決めようよ。僕だってツンちゃんで定着しちゃってるんだからそれっぽいのを」
「唐突ですね・・・うーん・・・じゃあ!」
ぽんと手を叩きロバが少し大きな声で話す。
「コンビ名『TJ』で『トキちん』と『ツッチー』で!」
「呼びにくい、却下」
「ツンちゃん辛辣!?」
(なんか勝手に話が進んでる・・・)
あーでもないこーでもないとロバとツンが言い合っている。そして、ツチノコがしばらくその様子を眺めていると結論が出たようだ。
「えー、コンビ名は『トキノコ』、『トキちゃん』と『ノコッチ』に決定です」
「あ、はい・・・って、『トキノコ』?どこで知ったんだそれ」
「どこで知ったって?今考えたんですけど・・・」
本当に今考えたようで、不思議そうな顔をしたロバとツン。
「そうか・・・でもトキノコってなんかいいよな!私は好きだぞ!」
「あら、気に入ったなら良かったです『ノコッチ』」
「ね、ノコッチ」
「ノコッチか・・・よし、覚えた」
「まぁ愛称で呼ぶ人も少なそうですけどね?で、ノコッチことツチノコさんにはこの紙をお渡しします。明日のイベント警備について詳しく。トキちゃんにもお伝えください」
そう言ってひらりと紙を渡すロバ。それをツチノコが受け取り、じっくりと眺める。
「あ、それ後でじっくり読んでもらえば大丈夫ですから!明日は午後4時にここに集合です」
「そうか、ありがとう」
そんなやり取りをしていると、ソファーがギシギシと鳴る。
毛布が落ち、トキが起き上がる。
「はれ?また寝ちゃった・・・?」
(今だロバ!)
〜作戦決行〜
「おはようトキちゃん」
「ロバさん・・・あれ?ツン先輩は?」
「いるよ?なんでわかったの?」
「だってさっきまでロバさんと二人で話しててそこに・・・そこに・・・」
「へぇ?このロバ達がどんな話を?」
「えと、感じるがどうの・・・ってあぁ!?」
急に顔を赤らめるトキ。
「感じる?そんな話したっけロバ?」
「してませんね?」
「え、え?じゃあ、あれは?」
「夢でも見てたんじゃない?」
「そうだよ、夢じゃないかな」
「そっか、夢か・・・良かったぁ、本当だったら今後どうしようかとおもったんですよぉ」
((ごめん事実!!))
〜作戦終了〜
「てなわけで、また明日の夕方ねー?」
「「はーい、お疲れ様でーす」」
バタン。
「ロバ・・・」
「ツンちゃん・・・」
ガシィッ!
二人は握手を交わした。紛れもない、作戦成功の握手。
「なんとかなりましたね・・・さぁ、お祝いにお酒でも飲みますか!イブだし!」
「え!僕も飲んでいいの?やったぁ!」
「いいですよー、ロバが奢ってあげましょう」
「わーい!」
その後酔いつぶれたツンが程よく酔った凶暴な(チベたん情報)ロバに物置に連れていかれたのは別のお話・・・
「もう外も真っ暗ですねー?」
「そうだな、灯りが綺麗だ」
家に戻ろうと、トキノコの二人で空を飛ぶ。ツチノコがふと口にしたセリフで、トキはあることを思い出した。
「あ!イルミネーション!観ますか?」
「そうだ、それ一体なんなんだ?イルミネーションとやら」
「えーっと、アレです!ケーキ屋さんの前にあったキラキラのでっかいバージョンです!」
「おお!?いいなそれ、観よう観よう!」
「よーし、そう決まれば飛ばしますよー?」
バサッと羽ばたきひとつしてトキはスピードを上げ、イルミネーション会場の方向へ飛び去って行った。
「おおー・・・綺麗・・・」
大きな針葉樹に、キラキラとした飾り付けと様々な色のライトアップが施されている。木の周りには人集りが出来、イルミネーションを見上げる者、恋人と話している者など様々だ。
「人も凄いな・・・」
「ふふん、ツチノコ。私が特等席まで連れてってあげましょう!」
「とくとーせき?」
「ほら、飛びますよ!」
そう言って、今はカラビナなどで固定せずに空を飛ぶ。視界に映っていたものはどんどん下に下がり、やがて視界から消える。代わりに、今まで見えなかった木の全貌が首を動かすこと無く見えるようになる。
「ほら、真横から見るのは一層綺麗でしょう?ね、ツチノコ!」
「本当だ・・・とっても綺麗」
恍惚とした表情でツチノコがイルミネーションを見つめる。トキはその顔を上からのぞき込む。
とくん。
トキの胸が鳴る。久々に感じるこの感覚。ツチノコのその顔がとても愛らしい。そっと、手を触れてみたくなる衝動を抑える。
「ありがとうトキ」
ツチノコが急に言葉を出す。どのような意図でそう言ったのかは定かではないが、瞬間トキの心が破裂し何かがドクドクと溢れ出す。
(なにこれ・・・ツチノコが好きな気持ちが止まらない!?ああ、ダメ今すぐにでもなんかしちゃいそう・・・そのほっぺた、いいや唇にキスがしたい!いやぁ・・・そんな事したらツチノコのこと傷つけちゃう・・・我慢・・・我慢!でも・・・どうしよう口を開いたら告白しちゃいそうだし・・・うぅ・・・?どうしてこんな急に?)
「どうした?大丈夫か?」
「・・・だ・・・いじょうぶ、です・・・よ?」
震えた声を出しながらそれに応える。
「そっか・・・体調でも悪いかそれなら家まで戻ろう、トキが風邪ひいちゃたまんない」
(あああああ!?ツチノコ優しすぎでダメ、クラクラしてきちゃう・・・どうしよう、まともに考えが・・・ツチノコ・・・ツチノコツチノコツンツチノコツチノコツチノコツチノコツチノコツチノコツチノコツチノコツチノコツチノコツチノコ・・・)
いつの間にか、地面に降りて彼女の両頬に手をかけていた。顔が目の前にあり、少し左斜めに映っている。違う。ツチノコが斜めなのではなく、自分の頭が右斜めになっているのだ。
そう。
唇同士でキスをする一歩手前だ。
急に冷静な思考になり、バッと顔を離す。
「ごごごごめんなさい!私ったら何を・・・」
「???いや、特になんにも無いけど・・・」
「ごめんなさい・・・」
「大丈夫だけど・・・心配だ、もう戻って早く寝よう。明日は折角の大仕事だからな」
「そうですね・・・そうです、そうしましょう」
そう言って、トキは心にモヤモヤを抱えたまま二人で家に戻った。
「「ただいまー」」
家に帰ってきた。さっきの想いが嘘のようにトキの心は冷静だった。
「さ、明日に備えて寝るか」
「晩ご飯食べます?正直私いらないんですが・・・」
「ああ、まだ食べてなかったな。私もだ、食べずに寝ちゃおうぜ」
そう言ってベッドとボフンと倒れ込むツチノコ。ふと、トキは今日がクリスマスイブだと思い出す。
「ツチノコ、サンタさんにプレゼントのお願いしましょう!」
「お願い?」
「そうです、靴下を枕元に吊るして中に欲しいものを書いた紙を入れておくとサンタさんが届けてくれるんですよ!」
「へぇ・・・じゃあお願いしてみるか」
かわりばんこにペンを使い、サンタさんへのお願いを書き込む。
「で、靴下ってあるのか?」
「普段履かなくてもサンタさん用に用意してあるんですよ?ほら、ここに入れてください」
トキが出したのは赤地に白い模様の付いた可愛らしい靴下だった。厚みがあり、紙を入れるのに少々苦労した。
「よし、この辺に吊るしてっと・・・ツチノコは、なにをお願いしたんですか?」
「んー、秘密。トキは?」
「えー、ずるいです、私も秘密で。明日の朝見せてあげますよ」
「ははは、秘密ってなんか面白いな。うし、寝よう」
「そうですね、寝ますか」
部屋の明かりを落とし、真っ暗な中で二人でベッドに横になる。
「くぁああ〜・・・眠いですね、おやすみなさいツチノk・・・」
言ってるそばから寝てしまうトキ。
それを横目にツチノコがクククと笑う。
「もう寝ちゃった・・・ふふ」
ふと、トキに違和感を覚える。いや、正確にはトキの後ろ髪だ。今朝はおろか、ナウに見せた時さえこんなに多くなかったはずだ。今日は風呂にも入ってないしいつの間に・・・
「黒い部分が増えてる・・・?」
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