第28話 初めてのクリスマスイブ-1

 クリスマスイブ【Christmas Eve】

 クリスマスの前夜。12月24日の晩。また、そのときに行われる行事。



「はい、今日はクリスマスイブです!」


「・・・らしいな」


「テンション低いですね、もっとはしゃぎましょうよ」


 朝。トキが急に大きめな声でクリスマスイブを宣言する。


「いや、普通に今日パークパトロールの仕事だろ」


「う・・・まぁ、そうですが。だからクリスマスイブじゃないなんてことはありませんし」


「とりあえず事務所行こう?」


「そうですね、そろそろ出ますか。飛びながら話しましょう」





「で、クリスマスイブとは?」


 パトロールの事務所に向かう途中、ツチノコが問いかける。


「私もよくわかってないんです・・・あれです、いつぞやに話したクリスマスの前日、正確には前夜の事なんですがみんな当日と同じくらい大騒ぎしますよ?それはもうどったんばったんと」


「どったんばったん大騒ぎねぇ・・・その、ヒトの偉い人とやらは本当に偉い人だったんだな」


「いや、偉いのは確かですが正直本当にお祝いしてる人は少ないと思いますよ?みんな騒ぎたいだけですよ」


「なかなかキツいこと言うなトキ・・・」


「えへへ、かく言う私もよくわかってないで楽しむんですけどね」


 にへら、と笑ってトキが言う。


「もうそろそろか?」


「もうそろそろですね」





「おはようございますー」 「おはよう」


 事務所のドアを開ける。しかし返事は返ってこない。


「誰も居ないのか?」


「いや、ロバさんくらいはいるんじゃないですか?」


 しかし部屋を見渡してもロバはおろか、他のメンバーの姿もない。ただ、カーテンから漏れる光が薄暗い部屋の埃を照らしているだけだった。


「うーん?本当に誰も居ないですね」


「どうしたんだろうな、ちょっと待っててみるか?」


 そう言って二人でソファーに腰掛ける。

 綺麗に掃除されて何も無いガラスのテーブルを目の前に、話をする。


「クリスマスイブって具体的にどういうことするんだ?」


「ん〜私なんかは歌うだけですが・・・世間敵には美味しいもの食べるとか、サンタさんにプレゼントを頼むとか・・・あと、恋人とデートとか?」


 トキがちょっと目線を上にあげながら一つずつ例を挙げる。少し疑問符が交じるところから、わかっていないこともあるのだろう。


「サンタさん?デート?」


「サンタさんはあれです、なんか優しいおじさんです。クリスマスの夜にプレゼントを配ってくれるんですよ」


「へぇ?なんか怪しくないかそれ?」


「そんな失礼な・・・そんなこと言ってたらプレゼント貰えませんよ?」


「プレゼント、ねぇ・・・よくわからんな。デートってのは?」


「デートはあれですよ、とっても仲がいい人と二人でいちゃつく奴です」


「いちゃつく?」


「もう!そ、そんな恥ずかしいこと言わせないでくださいよっ!」


 顔を赤くしながらトキが答える。ふぅ、と一息ついてからテーブルの上の紅茶を啜って「あちっ」と声を出している。


「だって意味がわからないんだもん・・・」


「私だってそんなこと説明するのは恥ずかしいんですもの・・・」


「そりゃそうですよ、ましてやツチノコさんに説明するなんて彼女にとってどんな難易度かわかってるんですか?」


「知らないよ・・・」


 そう返事をしてツチノコも紅茶のカップに口を付ける。ふと、おかしいことに気がつく。


「あれ・・・?紅茶なんていつの間に・・・?」


「何言ってるんですか、このロバが用意したんですよ?」


 ティーカップを傾けているとトキを挟んで隣に座ったロバが答える。眉をひそめてまさに「何を言ってるんだ」といった感じだ。


「ああ、そっかロバ・・・ロバ?」


「「えええぇぇぇぇ!?!?」」


 トキとツチノコが二人で驚きの声を上げる。

 その様子を不思議そうにロバが眺める。


「何をそんなに驚いてるんですか・・・」


「いや、さっきまでいなかったので」


「いつの間に?」


「んと、諸事情で別の場所に寝てたんですが起きてここに戻ったらお二人がいたんで紅茶出して横にに座って。今です」


「「全然気が付かなかった・・・」」


「で、お仕事の話してもいいですか?」


「あっはいごめんなさい」


 そう言うやいなや机に紙を広げるロバ。

 びっしり文字が詰められたものや、グラフのようなもの、色付きのものもある。


「はい、今日はあなたがたの役割振りをします。」


「ああ、執行とかのやつ」


「そうそう。私どもで考えたのは、二人とも『尾行』と『監視』の二つです。そして二人で行動して頂きます」


「あの、一応理由聞いても?」


 トキが手を挙げる。ツチノコもそれに続きに発言する。


「ああ、私も聞いておきたい。なんとなく察しはつくが」


「ふむ・・・じゃあ説明しますね。言われなくてもしましたが」


 ロバは色々な資料を用いて説明した。内容をまとめると以下の通りだ。



・トキは空を飛べることから移動の多い尾行向き。

・ツチノコはピット器官から監視に最適。尾行もGood。

・二人とも危険人物を拘束するのは不向きな事から執行の選択肢は無し。(トキは戦闘力無し、ツチノコは攻撃力高すぎ)

・トキ単体だと危険人物に対応出来ない可能性も加味し、防衛手段(ビーム)のあるツチノコとセット。

・セットの理由は上記プラス仲良いから。コンビネーションは大事。



「と、こんな感じですね」


「納得です、私は異論ありません」


「私もだ、ロバ達が決めたんだし問題は無いと思う」


 ウンウンとツチノコが頷く。


「では、今度また黒酢から現場のアドバイスでも貰ってください。あの二人が多分トキさん達に似たスタイルなんで。監視はチベたんにでも聞いてください」


「「はーい」」


「あ、黒酢に今は近づかない方がいいですよ・・・クリスマスになるとピリピリしてるんで」


「んー?なぜ?」


「見ればわかります・・・」


 目を棒にして苦笑いするロバ。対してツチノコ達は「?」を頭上に浮かべている。


「ま、それは置いといて別の話を。明日、クリスマスイベントの警備のお仕事が入ってるんで、お二人も参加してください。まだまだ本格的な仕事とはいきませんが」


「わ、初めての(まともな)お仕事です!頑張りましょうツチノコ!」


「ん、そうだな。ピット器官での監視なら承るぞ」


「じゃあ、また後で詳細の紙渡しますね。今日はみんな出払っちゃってるんで、夕方にでも来てくださいな」


「え、帰っていいんですか?」


「ええ、大丈夫ですよ。今から紙の方作成するんで、外で時間潰すなりなんなりしててください」


「はーい、ではまた来ます」


「じゃーなー」


 バタンと扉が閉まる。ロバは二人を見送り、パソコンにあたる。

 カタカタカタと文字を打ち込んでいるうちに、ふとある事を思い出す。


「ツンちゃん・・・そろそろ起きたかしら」


 ちょっと席を外し、事務所に鍵をかけまた外へ出る。





「で、時間潰せったって何する?」


「うーん、お金も無いですし・・・そうだ!久々に図書館にでも行きます?」


「あ、時間潰すのにはいいんじゃないか?」


「じゃあ、しゅっぱーつ!」


 ツチノコと体をカラビナで繋げ、ベルトで固定す、空へ飛び立つ。





「クリスマスイブですね、准教授」


「ええ、リア充がいちゃつく日であるな教授」


 ところ変わってここはジャパリ図書館。


「はぁ・・・トキのやつは上手くやってますかね?」


「知る由もないのである、教授はどこくらいまで行ったと思うであるか?」


「そうですね、キスぐらいは期待したいですが・・・」


 准教授ことミミちゃんの体がブルッと震える。顔もちょっと赤い。


「・・・どうしました准教授。熱でもありますか?」


 そう言って、教授がペタリと准教授のおでこを触る。すると准教授がハクハクと口を動かし、より一層顔を赤らめる。


「熱は無いですね。どうしました?キスがそんな過激でしたか?」


「・・・い、いえ、何でもないのである・・・続きを」


「ならいいのですが。で、キスぐらいは期待したいですが、あの二人の事だからせいぜい口以外といった所でしょうか?うなじとか」


「口より先にうなじもなかなか無いケースだと思うのであるが・・・」


「ん?噂をすれば・・・」


 入り口から入ってきたのはトキとツチノコ。


「どうも、暇なんで来てみました」


「時間が空いてな」


「はぁ?ちょっとトキ来るのです」


「え?はい、何でしょう?」


 教授に呼ばれてトトト、と彼女に近づくトキ。トキの方が姿勢を少し低くし、教授の身長に合わせる。


(ちょっと・・・クリスマスイブなのにこんなクソつまらない図書館なんて来たのですか?それならどっかデートにでも行ってこいです)


(クソつまらないって・・・デートは敷居が高いですよ、だいたいお金もないからやれることも少ないですし)


(チッ・・・もういいのです。ゆっくりしてけです)


 トキがツチノコの近くに戻る。


「なんて?」


「いや、特に何でもないです。ゆっくりしてけって」


「そか。なんか本でも読むかな」


「そうしましょうか。」


 そんなことを話していると、今度は准教授の方に袖をつままれる。


「何でしょう?」


「ちょっと話に付き合って欲しいのである・・・教授には見つからないように」


「はあ・・・別に大丈夫ですけど」


 そう言われて准教授に連れてこられたのは地下の書庫。着くなり准教授が話し出す。


「トキ・・・私はおかしくなってしまったのである・・・」


「おかしく?どういう事ですか?」


「もう素直に話しますが、ちょっと前にワタシは教授に酒の勢いで唇を奪われてしまったのである・・・それから・・・」


 准教授が口篭る。しかしトキも上手く助けられず口内の唾を飲み込んで次の言葉を待つ。


「なんだか意識して教授、いやコノハちゃんを見る度少しドキドキして・・・」


「はあ、恋でしょうね?」


「そ、それは!あくまで我々は百合を『眺める』のが好きなのであってワタシ事態がそんな感情を、ましてやコノハちゃんに対して抱くなんて万が一にも・・・」


 慌てて早口で話し出す准教授。顔は話しながらどんどん赤くなっていく。


「万が一になくても億が一にはありえるかもしれないじゃないですか?もう素直になっちゃいましょうよ」


「うー・・・正直、私自身そんなこと望んでないのである。幼馴染のように昔から友達、いや親友であったコノハちゃんと・・・」


「私には親友であるツチノコとくっつくよう差し向けておいて自分ではそう言うんですか?准教授が聞いて呆れますよ」


「トキがいじわるなのであるぅ・・・」


「ツチノコの件は感謝してますが。それはずるいってものですよ?」


「ふぇぇ・・・わかったのである、もう少し自分の気持ちを整理してからなんとかするのである・・・」


「そうしてください。お互い頑張りましょう?」


「そうであるな、お互い・・・って、なんで私も!?」


 そう言ってる間にトキはどんどん階段を上って行く。そして、ガチャリと扉を開けて外に出て、薄暗い地下書庫に一人取り残される。





 少し時は遡りトキが准教授と話してる間の話。


「なぁ教授。トキについて詳しい本ってあるか?」


「鳥類の図鑑ならありますが・・・急にどうしたのです?」


「いや、なんかトキの髪が一部黒くなっちゃって・・・しかも少しづつ増えてるみたいでな?動物の頃の習性かもって」


 その話を聞き、教授の耳がぴくんと跳ねる。そして、声色を若干変えそれに返事をする。


「ほう・・・髪が黒く。いつぞやにチンパンジーが言ってた通りですね」


「チンパンジーが・・・?ああ、言ってたなそんなこと。詳しく知ってるか?」


「まぁ、知識で知ってる部分はありますが・・・。少しキツいというか過激な話になります。それでも聞きますか?」


「過激?いや、それでもトキがどんな状態なのか知りたい。教えてくれ」


「ふむ・・・動物の特性として言えば、朱鷺ときが羽毛を黒くするのは繁殖期です。動物の中でも珍しく水浴びの後などに自身で黒く染めるそうです。しかし、今の話ではフレンズ化の影響か自分で染めなくてもいつの間にか黒くなるってことですね?」


「ああ。でも黒いのが増えたのは風呂に入った時だったから水浴びの後ってのはあんまし変わらないのかもな」


「ふむふむ。そして繁殖期というのは・・・わかりますか?」


「さぁ、さっぱり」


「まぁ我々も教えてないですからね・・・繁殖期、といっても発情期のようなものになるのかも知れませんが、フレンズでなるのはレアケースですね。前例が無いわけではないのですが」


「で、繁殖期とか発情期とやらはなんなんだ?」


「そう、そこなのです」


 じれったくてツチノコが質問すると、神妙な顔つきでそれに応じる。ツチノコもその雰囲気に対して緊張し、ゴクリと生唾を飲む。


「発情期とは・・・簡単に言ってしまえば性的欲求がとても強くなる時期です。動物としては子孫を残すためにあるものですが・・・フレンズの場合、その意味を成さずただただその欲が溜まっていくだけの辛いものとされています」


「その辛い状態にトキがなりかかっていると・・・?」


「ええ、辛いかどうかは個体差がありますが・・・上手くその欲求を解消出来ない場合、辛くはなるでしょうね」


「そ、それって!どうしたら解消出来るんだ!?」


 難しそうな顔をして少し教授が考え込み、ポツリと答えを出す。


「解消するのに一番簡単なのは、えっちなことをすることです。しかし世間的に考えて簡単とは言い難いですね・・・」


「え、えっちなこと?」


「そうなのです・・・性的欲求なんて解消させるにはそれくらいしかないのです」

「ひょっとしたら、いつかトキは理性を失いお前に襲いかかるかもしれないのです。多少対策とか、それは難しくても気を配るくらいはておいた方が良いかもしれませんね」


「そ、そうか・・・わかった、なんとかする」


「本人には話さない方がいいのです、もし自分がツチノコを傷つけるかもしれないと知ったら自己嫌悪で姿をくらますとかやりかねないのです」

「あと、お前の体を張ってとかは考えるなです。それこそその後でトキもお前も辛い思いをしてしまうかもしれないのです」


「うーん、わかった。また何かあったら聞くよ」


「頑張るのですよ?」


「ああ、絶対解決させる」


「おーい、ツチノコ。何探してるんですかー?」


 遠くからトキの声。どうやら話を済ませて来たようだ。


「いや、何も・・・」


「そうですか、ぼちぼちお昼ご飯に戻りますよ?」


「ん、そうだな」


「そう言えば准教授が見えませんね・・・どこに行ったのでしょう・・・」


「あ、それならさっき向こうで見ましたが・・・」


 そんなこんなで図書館を出て、一旦家に戻る。


 Part2に続く!

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