第27.5話 叱られツンと暴走ロバ

「いやそのホント・・・深く反省しております・・・」


 パークパトロール事務所。

 まだビールの空き缶などが散乱し、みんなが寝息をたてる部屋の中、正座をするフレンズ。ツンドラオオカミのツンである。

 そしてその前に腕を組みながら仁王立ちするのがロバ。


「・・・今後はどう気をつけますか?」


 真剣で険悪な空気が流れる。


「いや、でもアレお酒入ってましたし・・・」


「ふうん・・・」


 目を細めてロバがすぅ、と息を吸う。

 数秒後、カッと目を開き、大声かつ早口で話し出す。


「お酒が入ってれば無理無理嫌がるトキさんに一杯飲ませてもいいんですか?だいたいツンちゃんお酒入ってたって私はそうなることを予想してあなたにお酒を与えませんでした。しかし?あなたは後輩であるエジプトガンをいいように使い酒を飲み!それで酔ってあの事態を引き起こしたのです!それでぇ?お酒が入ってたからぁ?おかしいですよね?ねぇわかってます!?」


 ツンは昨晩酒を飲むことを躊躇するトキに酔った勢いで無理に飲ませたことを叱られていた。


(こわい・・・ロバめちゃくちゃこわい・・・)


「返事なし、ですか?」


 普段の温厚な性格とニコニコとした表情からは想像も出来ない、何かを軽蔑し見下すかのような目付きでツンのことを見つめるロバ。


「重々承知です・・・もうエジプトガンにせがんだりしません・・・」


「根本的にそこじゃ無いでしょう?ダメと言われたことをなぜやってしまうんです?」


「それは・・・その、お酒どうしても飲みたくて・・・」


「ふぅ・・・ちょっと来なさいツンちゃん」


 そう言ってツンの手を引き外へ向かうロバ。

 人が軽く抵抗しているのをまるで何も掴まないかのように平然とドアまで突き進む。


(ひぇ〜・・・)


 バタン。


 ドアが閉まる音を聞き、室内で倒れ込むようにして寝ていたはずの他のメンバー達が起き上がる。


「こわ・・・」


 カタカタと震える百獣の王ライオン。


「クロジャぁ・・・わたし達も下手したらあんな風にぃ・・・?」


「BLACKSから黒酢になっただけで済んで良かった・・・初めて見たあんなの」


 がっしりと抱き合い怯えるカグヤとクロジャ。


「エジプトガン・・・白目むいてる!?」


 起き上がらないと思えば恐ろしさのあまり気絶をしているエジプトガン。


 そう、みんなあまりの恐ろしさに起き上がれずずっと寝た振りをしていた。


「「「やばかった・・・」」」 「・・・」





「あの・・・ロバ?ここは・・・?」


 手を引かれてやってきたのはちょっと大きな物置。ロバがガチャガチャと鍵を開けて扉を横にスライドさせる。古くなってしまっているのか、スムーズにいかずギコギコと音を立てる。


「ここですか?見ての通り物置です。ロバの私物を収納した」


「へぇ、ここなんだろうってずっと思ってたんですけど・・・」


「ほら、中入って」


 また手を引かれ、その中に入る。真っ暗で、何があるのかよく見えない。かろうじて、入り口の辺りは外からの光で多少見えるが、何も置いてない。


「ふふふ、久しぶり・・・♪」


「ど、どうしたんですかロバ・・・」


「ほらほら、もう口調も直していいから。大丈夫、すぐ慣れるから」


「え、何が・・・?」


 ロバがこちらを向いたまま戸を閉める。

 中は本当に真っ暗で、何も見えない。


「ほーら、こっちですよ?」


 急に後ろからロバの声。オオカミの耳を持ってしても足音を捉えられず、いつの間にか背後へ回られたらしい。


「ライトライト・・・これだ」


 ロバが呟いたと思うと、ぼんやりとした豆電球の明かりが灯る。天井にぶら下げてあるようで、ゆらゆらと揺れている。それに合わせ、影も伸び縮みを繰り返す。


「さぁ、いっぱい楽しみましょう?」


 そう言うと、にこりと笑うロバ。見慣れた笑顔のはずだが、何か恐ろしいものを感じる。その後ろに、これまた恐ろしい形状をした道具が並んでいる。見ただけでムチや赤いロープ、手錠のようなものまで見える。


「な、何をする気だ・・・?」


「いや、お説教の続きに決まってるでしょ。ほら、そこに正座!」


「あっ、はぁい・・・」


 その後、長い時間昨晩のことについてお叱りを頂いた。


「ふぅ、ちゃんと反省もしているようですし、ここまでにしますか。」


「反省しております・・・」


「じゃあ、戻りますか!もうしちゃダメですよ?ツンちゃん♪」


「はい・・・あの、そこの物騒なやつなんだい?ロバの私物なんだろう?」


 気になったので、先程見つけたもの達を指差し質問する。


「あれですか?へぇ、気になっちゃいます?」


「まぁ・・・そう、気になるんだよ」


「体験・・・できますよ?」


「え、いやそれは・・・」


 体験とはなんだかよく分からないがとても恐ろしい響きがするので手を振ってNoのサインを出す。しかしロバには見えてないのか、ニタァという笑みで語りかけてくる。


「ふうん・・・ツンちゃんそんな趣味なんて・・・ロバとぴったりですね?楽しませてあげますよ?」


「いや、違うけど・・・」


「もう後戻りできませんよぉ?」


 壁にかけてあった黒いムチを床に叩きつけるロバ。


「あの、やめて?」


「えへへ、無理矢理みたいなシチュがお好き?んふふ、ヘンタイさんですね?縛ったりもしますか?」


 壁の赤いロープを持って体に巻こうとするロバ。


「やめてっ!!」


 思わず大きな声を出しながら、それを振り払う。ロバがハッとした顔をしてロープから手を離し、ぺし、とそれが床に落下する。


「ご・・・ごめんツンちゃん・・・ついロバったら・・・」


「うん、落ち着こう。ほら、僕は大丈夫だから」


 ロバがいつの間にか泣きそうな顔をしている。どうやら暴走していた自分を責めてしまっているようだ。


「ロバ、ツンちゃんにひどいことしようと・・・」


「うん、気にしなくていいよ、ほらほら、事務所に戻ろう」


「うぅ・・・ごめん・・・ごめんなさい」


 そう言ってぼろぼろと大粒の涙を流すロバ。慌ててフォローに入る。


「大丈夫大丈夫!ロバがそういう趣味だってのは意外だったけど僕は平気だから!ね?泣かないで?」


「グスン・・・つい、抑えられなくて・・・」


「うん、欲なんてそんなものだろう?さっき僕をロバが叱ってくれたみたいに、他の人が抑えてあげればいいんだよ。だから、ロバがそう自分を責めなくてもいいんだよ?」


「グスッ・・・じゃあ今度ツンちゃん相手して・・・?」


「ごめんなさい丁重にお断りします」

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