第26話 初めての休日
きゅうじつ【休日】
休みの日。業務・営業・授業などを休む日
『ごめん、今日はみんな使い物にならないから休みで』
翌日、ツチノコが家を出ようとした時、耳の通信機にロバから連絡が入った。
「え?休み?」
『そう、休み。二人でゆっくり過ごすといいよ』
「まぁ、トキも調子よろしからずだから丁度良かったと言えば丁度良かったかな」
『アハハ、トキさん本当に弱いんですねぇ?まぁ、そんなわけで!じゃ!』
「じゃ」
プツンと耳元で音が鳴り、通信が切れる。
「トキ〜、大丈夫かぁ?今日は休みだそうだからゆっくりできるぞ」
「頭いたいです・・・ツチノコは大丈夫なんですか?」
「まぁ、沢山飲まされたけど平気だな。トキはもう飲まない方がいいかな?」
「もう飲みませんよ・・・」
ベッドでゴロゴロと落ち着く様子無く寝返りをうつトキ。その度に髪がボサボサと乱れていく。その髪にふと違和感を覚える。
「ん?トキちょっと止まって」
「なんですかぁ?」
ツチノコが見つけたのは真っ白だったトキの髪に混じった黒い髪。しかし黒い毛という訳ではなくスポットで途中から黒くなりまた後から白に戻っている。
「髪が黒くなってる?」
「そうなんだよ、鏡じゃ見にくいかもな・・・」
「なんでしょう、動物の時の特性ですかね?今度ナウさんに聞いてみますか」
「そうそう、ナウといえばパトロール入ったって報告はいいのか?」
何気なく聞いた途端に凍りつくトキ。
「・・・ダメなんだな?」
「頭治ったら今日の内行きましょう・・・」
「お、おう」
そう言ってトキはまたもぞもぞと布団に潜った。
「覚えてないんだろうな・・・」
何故か少し残念がっている自分にツチノコは驚いた。
「やぁ、久しぶり菜々ちゃん。今日は何の用?」
ナウ宅。テーブルを挟み若手ベテラン飼育員と若手新人飼育員が向かい合っていた。
「いや、大した用事でもないんですが。こないだたまたま銭湯に行ってトキ達にあったんですよ」(第21話参照)
「へぇ?そんな話聞かなかったけど」
「いや、私が隠れてしまったもので・・・」
「どうしてそんなまた・・・?」
うーん、と目を瞑り顔の前で指を合わせたり離したりを繰り返す菜々。それを見かねてナウが付け足す。
「あ、なんか話しにくいならいいけどね?」
「いや・・・元々その話で来ましたから。その、彼女達は・・・アレなんですか?」
「アレってなによぉ?」
「えと、とっても仲良しなんですね・・・」
「そうだよぉ?あの子達仲良いでしょー?」
「なんかタオル一枚で幸せがどうとか話しながら握手してましたし」
「え・・・まぢ?」
「マジです」
はぁ〜っ、とナウが深いため息をつく。
(そっか・・・ついにトキちゃんアタックしたのか・・・。どうなんだろ?幸せがどうとかってプロポーズ?でもそれでほぼ全裸ってのもねぇ。あや、わりと天然なトキちゃんはやりかねん。握手したってことはOKだったのかなぁ?式とか挙げるの?フレンズは同性同士の結婚認められんのかなぁ・・・)
「あの・・・奈羽さん?」
「ハッ、ごめんごめん。いやぁ、そっか・・・そうか・・・」
「あの、やっぱりそっち系なんですか?」
「正直自分の担当、我が子のような子がソレとはね・・・まぁ、全力で応援はするんだけど」
「はあ、意外ですね、あの子達が・・・」
「でも、ツチノコちゃんその気ないっぽいんだよねぇ、大丈夫かな?」
「まぁ、心配はいらないんじゃないですか?とりあえず奈羽さんが把握してるのか確認しようと思いまして。飼育員として大事だと思いますから」
「そうだね、わざわざありがとう。お仕事頑張って」
「はい!」
トキノコ宅。
「むにゃむにゃ・・・たべないで」
(またなんか寝言言ってる・・・)
「んぁあ・・・そこは・・・だめ、つちのこ・・・ふぁぁ」
「!?」ガタッ
「んぁぁ・・・? おはようございますツチノコ」
「お、おう・・・。頭は治ったか?」
「もう大丈夫です。支度してナウさん家行きましょうか」
「そ、そうだな」
「ツチノコ顔赤いですね?」
「なんでもない・・・」
〜一時間後〜
「やぁいらっしゃい!まぁ入って入って」
「「お邪魔しまーす」」
椅子に勧められ腰掛ける二人。それに向かい合って座るナウ。
「で、何の用?まぁなんとなく察しは付いてるんだけどねぇ」
「私達、パークパトロールに遂に入隊しました!」
「え?あ、そう。うん、おめでとう」
「なんですかソレ!?」
「ナウ・・・流石に少し・・・」
普段だったら大喜びして偉いナウさんの権限フル活用で回らないお寿司屋さんにでも連れて行ってしまうナウだが、今回ばかりは拍子抜けして対応がおざなりになってしまった。それもそうだ、「私達、ツガイになりました!」とか言われるのを身構えていたらただの就職報告。「え?」ともなるだろう。
「んん、ごめんごめん。いや、もっと別のこと想定してたから」
「いや、それにしてもあれだけ仕事探せって言っておきながら今のは・・・。一体何を想定してたんですか?」
「ん〜・・・ナ・イ・シ・ョ☆」
「えぇー、気になるから教えてくれよ」
「いや、こればかりは教えられないなぁ。」
「「えぇー・・・」」
(二人ともかわいいなぁ・・・)
「おっと、こんな時間。悪いけど僕は仕事さね、帰ってくれちょ」
「あ、はーい。すみません、お邪魔しましたー」
「お邪魔しましたー」
「いえいえ、こちらこそほんの十分も置いてあげられなくてごめんよぉー。またね!」
「「バイバーイ!」」
〜フェネックP~
最近外を眺めるのが趣味になった。
もっとも、見ているのは一人のフレンズ。ここを最近よく通るのだ。
アライグマ、彼女はそう名乗った。何故だか頭からあの声がちょっと聞いただけで離れない。
「はぁ、私もお外に行きたいなぁ」
そんな時の手段。あらかじめ靴を用意し、自室で履き替える。窓を開けて、安全確認の後外に出る。
アルトさんに見つかったらどうなることやら。
きっとアザが三、四個増えるだろう。
しかし彼は今家の中。わざわざ外に出ては来ないし私の部屋にも入ってくることはないはず。
「さ、今日もアライグマさん追いかけるぞ〜?」
最近、彼女の姿を目にするとそれを追うようになっていた。しかし、すぐに見失い、追いついたことは一回もない。
「私マイペースだからかな〜?マイペースチェイサー、なんて、ちょっとかっこいいかな?」
勘でこっちに曲がったかな、あっちに曲がったかなを繰り返し彼女を追っている体の遊びをする。
こればかりは楽しくて時間を忘れてしまう。
しばらくして。
「次はこっちかな〜」
そう言って角を曲がるとドン、と人にぶつかる。
「あ、ごめんなさい」
そう言いながら高身長の彼を見上げると見慣れた顔。
「うそ・・・アルトさん、なんでここに・・・」
「こっちのセリフだ、帰ったらどうしてやろうかな、フェネック?」
「どうか・・・お許しを・・・」
「ダメダメ、おうちに帰ろうか」
整った顔の綺麗な笑顔で彼はそう口にした。
「よし、今日はこれを使ってあげよう!折角買ったからね」
彼が見せたのは黒い大きな椅子。
「よし、座れ」
逆らわずに従う。
「ベルト巻くからな、じっとしろ」
「はーい・・・」
「よし、これは電気椅子って言うんだ。今スイッチ入れる」
彼がバチンと固そうなスイッチを押す。すると、徐々に体に刺激が・・・
「ん・・・ピリピリ」
「そんなもんさ」
「って、え!?急に強く!?」
「ほら、痛いか?痛いなら謝れ」
「ああああぁぁぁぁぁあっ!?!?」
全身を痺れる痛みが貫く。
「ハッハッハッハッハッハ!愉快愉快・・・」
「うぐっ・・・お許しください・・・」
「ああん?声がちっさいわ」
「お許しください!」
「だぁめ。僕が飽きるか君が壊れるまで続けるよ」
彼は悪魔の様な笑みを浮かべる。
ダメだ、本当に私ダメに・・・意識が遠く・・・
目が覚めたのは廊下の床。邪魔だから放り出されたのだろう。立ち上がろうとすると違和感がある。
左足が動かない。
ウソだ、ウソだと自分を騙しながら立とうとしても、左足が言うことを聞いてくれない。
また一人で泣いた。
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