第22話 初めての訓練

 初めての訓練


 くんれん【訓練】

 教えて練習させ,きたえること。



「あ、おはようございますトキさん、ツチノコさん!」


 朝九時頃。事務所の扉を開けるとロバがすぐ入り口に立っていた。


「おはようございます!」


「お、おはよう」


「じゃあ今日は予定通り説明会と訓練になります!今日の先生はコチラ、『BLACKS』の異名を持つお二人さんです!」


 そう言ってロバが指さしたのはその異名の通りに黒い二人のフレンズ、片方は猫耳があり、紫の服以外は全部独特な模様がついた黒いスカートや小物を身につけた目のキリッとしたフレンズ。もう片方はこれまた独特なつり上がった大きい耳、濃い灰色のセーラー服に肩のあたりから翼のようなものがのびている。


「ほらほら、二人とも自己紹介!この子達が新入りちゃんだよ?」


「カグヤコウモリだよぉ、よろしくね?気軽に『カグヤ』でいいからぁ」


「ブラックジャガーだ、周りからは『クロジャ』と呼ばれている。よろしく頼む」


「あああ、トキです、よろしくお願いします!」


「ツチノコだ、よろしく・・・」


 一通り挨拶を済ませ、またソファーに腰掛けたのち、説明を受けることに。


「ではロバは朝ご飯食べてきますー」


 ロバが扉を出ていきバタンという音が響く。


「・・・ロバは朝飯まだだったのか?」


「ロバはここで寝泊まりしるからねぇ、誰かが居る時しかご飯食べに空けられなくてぇ・・・」


「それはさておき、説明だ」


 その言葉の後に、クロジャがペラペラと説明をする。


「私達パークパトロールは基本一人、必要に応じ二人で活動をしている。二人の場合は、片方が戦闘能力に乏しく誰かのサポートが必要な場合だな。ちなみに私達は二人、カグヤと一緒に活動している」


「いますぅー」


「それで見回りをしているのだが・・・一組につき週四日、プラスαといった感じだ。プラスαというのはイベントの警備や危険人物発生による緊急出動など。まぁ後者はほとんど無いがな。前回は半年以上前かな?」


「大体一年だねぇ」


「そして、それらの仕事の場合にはそれぞれ役割が付けられる。『執行』『尾行』『監視』の三種だな。ちなみに私達は基本尾行で場合によっては執行もやってるな」


「あの・・・」


 すっと手を挙げてトキが口を開く。


「なんだ?」


「その、しっこー、びこー、かんしってそれぞれどんな仕事なんですか?」


「『執行』は危険に直接対峙し、それの鎮圧を行う係」


「『尾行』はぁ、危険因子の行動観察でぇ、例えば不審者を上空から追いかけて行動を報告する、みたいなぁ」


「最後に『監視』。これはそもそも周りに危険はないか、今からの行動が危険を及ぼさないかを常に確認する仕事だ。尾行との違いは尾行は直接対象を、監視はその周りをって所だ?理解したか?」


「はい、ありがとうございます!」


「・・・とまぁ、説明は大体これくらいだな。他に質問は?」


 ツチノコがそれを聞きすっと手を挙げる。


「ん、ツチノコ」


「あの・・・失礼だとは思うが、お金はどこから得るんだ?」


「ふむ・・・私も詳しくわn「そのへんはロバが説明しましょう!」


 どこからか現れたロバに言葉を遮られ、ムッとするクロジャ。


「はい、ただいま帰りましたロバです!」


 はいはーい、とにこやかにロバが手を上げる。


「活動資金、及び皆さんのお給料は基本パークから頂いております。しかし、それもあくまで援助の形ですので、それでは足りません。だから、寄付を募ったり個人運営のイベントにお呼ばれした時などは少々代金を頂いたりしていますね。以上になります!」


 ふふん、と鼻を鳴らし腰に手をあてるロバ。見事なドヤ顔である。


「なるほど、ありがとうロバ」


 ツチノコがお礼を言う。


「へぇそうなのか、ありがとうロバ」


 何故か一緒になりお礼を述べるクロジャに呆れた顔で応えるロバ。


「はぁ・・・ほら、説明も済んだようですし、訓練の方してあげたらどうですか黒酢」


「・・・くろず?」


「クロジャがそんな感じだとは思いませんでしたよ、連帯責任でBLACKSから黒ズを通り越して黒酢に降格です」


「そんなぁ・・・クロジャ、どうしてくれるのぉ?」


「すまん・・・さ、気を取り直して二人とも外に行こう、二人はこんな異名貰っちゃダメだぞ」


「それ、ロバさんが付けたんですか?」


「そうだ、グループ名をな。ほれ、外だ外」





 そんなこんなで外にやってきた。


「よし、まずは戦闘能力を調べさせてもらう。このカカシを一定のところまで破壊したタイムやその過程で判断する」


「手段は何を使っても?」


「そうだ・・・じゃあトキから」


 そう言われたと思ったら、目の前にカカシが用意される。


「では、始めぇ!」


 唐突に始まる能力テスト。なにをすればいいのかわからずとにかく叩いてみる。何度か繰り返すうちに、手が真っ白になり痛みでそれを中断してしまう。


「ふむ、何となくわかった。もう大丈夫だトキ。戦闘は不向きっと・・・」


「ごめんなさい・・・」


「平気ですぅ、みんな得意なことは違いますからぁ」


「次はツチノコ・・・始め!」


 始まるなりカカシから少し離れ、ザッと仁王立ちするツチノコ。そして、左目を閉じ右手のピースで右目を挟む。


「・・・トキ、何が始まるんだ?」


「私も見るのは初めてです、どうなりますかね?」


 そんなことを離れて話してるうちにツチノコの目に光が集まってくる。すると・・・


 ビュン!


 と目から青い一筋の光が飛び出し、カカシを貫く。当たった場所からは炎があがり、少しずつカカシを焦がしていく。


「・・・戦闘能力高し、ただし拘束には不向きと・・・」


「どうだ?」


「いざと言う時や威嚇には使えるねぇ、人に当てるのは本当にやばいとき以外ダメだよぉ?」


「わかった」


 その後も移動能力や咄嗟の判断力などのテストを行って、全過程が終了する頃には日が暮れていた。


「以上、今日はここまで。明日は違う奴が動き方について教えてくれるから、それに従ってな。」


「頑張ってねぇ?」


「「はーい!」」


「明日も朝九時ですよー!」


「ロバさんは本当に神出鬼没ですね・・・では、お先失礼します」


「失礼するぞ」


「「「お疲れ」様ぁ」!」





 〜フェネックP〜


 やっぱり怖い。


 いつの間にかいた高いビルの屋上から、下を見下ろしてみる。

 この高さならフレンズでも楽に逝けるかななんて思っても、その瞬間の激痛を想像するだけで脚がすくみへたへたと座り込んでしまう。

 そして、その姿勢のままえんえんと自分でも見苦しく思うほどに声をあげて泣き出す。


 なんでこんなことに。



 私だって普通の一人のフレンズなのに。




 こんな不遇な扱いなんて不公平だ。





「私だって!私だって!!」


 いつの間にかびっくりするほど大きな声を上げていた。そうしてまたビルの上から下の広い世界を見下ろす。世間はもうすぐクリスマス。大きなもみの木に、飾り付けがされている。恐怖の塊であったはずの地面が、今なら私のことを優しく受け止めてくれそうな気がした。


 気がついたら、屋上から転落するのを防ぐための柵を乗り越え、幅30センチにも満たぬ淵の上に立っていた。


 そして・・・その虚空に一歩足を踏み出す。



 不思議な程に恐怖感は無く、真っ逆さまに落ちてさっきまで立っていた場所を遠く見つめる。





 もはや安堵感さえ感じる。






 そして、実際は数秒のところを数十倍にも感じながら地面まで落ちて来て。




















 私は、自分の首が折れる音を聞き、意識は遠く飛んでいった・・・






















 まだ外も真っ暗だというのに目が覚めた。体中汗がびっしょりで、服を着ているのすら気持ちが悪い。



 ひどい夢を見た。



 自分でも死んで楽になると言うのは考えたことがないわけではないが、本当にするとなると気が引ける。何度も試したからわかる。


 しかし、今の夢では恐怖なんて感じなかった。自分の深層心理がそんなものを見せたのだと思うと悲しくなってくる。


 死んでしまうくらいなら、勇気を出してこんな所抜け出してやる。


 何となく流れでそんなことが頭に浮かんだが、そこに引っかかるものがあった。


 その頃から、私は「脱走」ということについて考えるようになった。

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