第21話 初めてのご挨拶

 あいさつ【挨拶】

 人と人とが出会ったときや、別れるときに交わす儀礼的な動作や言葉。また、その言葉を述べること。相手に敬意・親愛の意を示す行為で、対人関係を円満にし、社会生活を円滑にする。



 翌朝。


「これが・・・私のフレンズパス・・・!」


 その小さなカードを高らかに掲げ、目をキラキラさせるツチノコ。


「一般アニマルガール証明書・・・うふふ、欲しかったぞぉ・・・♪」


「良かったですね、これでツチノコも色んなことができますよ!」


「色んなこと、とは?」


「んー・・・例えば仕事も出来るしお家も持てます。とにかくこれがあれば今までできなかったこともできますよ」


 自分のパスを出して見せるトキ。

 ツチノコも照れくさそうに笑って、自分のパスをトキにわざとらしく見せつける。


「よし、お祝いをしましょう!」


「おお!何してくれるんだ!」


「そうですねー、残念ながら私達一文無しなんで歌を歌ってあげましょう!」


「わーい!」


「・・・ツチノコ、なんだかテンションおかしいですねぇ?ふふ」


「えっ!?・・・そ、そうか・・・」


 急に顔を赤らめるツチノコ。それを見てニコ、と笑ったトキが玄関から例の装備を持ってくる。


「ほら、静かな森にでも行きましょう!迷惑にならぬよう!」


「了解!」


 その日、パーク中に朝から昼近くまで耳を劈く轟音が響き渡ったのだが、その正体を知るものは居なかった・・・





 昼頃になって。

 トキとツチノコはお祝いリサイタルを切り上げ、ライオンの残した紙を頼りにパークパトロールの事務所を探していた。


「んーアレですかね?」


「いや、紙によるとあの道は無いから多分違うな・・・」


 なかなか見つけられず、ここ三十分ほど空をうろうろしている。


「ひぇっ!?」


「うわぁっ!?」


 トキが急に大きな声を出し、それにびっくりしてツチノコも大きな声を上げる。


「・・・びっくりした、どうした?トキ」


「・・・あの・・・どなたでしょう?」


 話が噛み合っていない。不思議に思いツチノコが後ろを振り向くと見知らぬフレンズがトキの胴体をガッチリと固めている。


「お前ら・・・怪しいぞ、しばらくここをグルグルと・・・パークパトロールのこのエジプトガンの目から逃れられると思うなよ?」


 エジプトガンと名乗った彼女。茶色のセーラー風の服にところどころピンクの小物。鋭い目付きがなんとも特徴的だ。


「あ・・・あの、決して怪しい者では・・・私達もパークパトロール志望で、ライオンさんに事務所に来いって言われてて・・・」


「初対面に注意された上で図々しいのは承知だが、案内してくれないか?」


 それを聞くと、目を丸くしてトキの体から手を離すエジプトガン。そして、汗を額に滲ませながら話し出す。


「あ・・・おう、えっと・・・お前達が、例のツチノコとトキか?」


「例の?はい、そうですが・・・私の方がトキです」


「ツチノコだ」


「これは失礼した・・・どれ、案内はするがその紙見せてくれないか?」


「ん?わかった」


 手に持っていた紙を手渡すツチノコ。それを見てあちゃーという顔をするエジプトガン。


「んん・・・流石ライオン先輩だ・・・全部間違ってる」


「ええ?道理で見つからないわけ・・・」


「場所はあそこだ」


 彼女が指さした建物は髪にあったはずの曲がり角も空き地も無く、本当に全く一致しないものだった。


「ついてこい、一応玄関までは案内するさ」


 そう言ってバサッと飛んでいくエジプトガン。


「はーい、お願いします・・・って速っ!?」


「わわわ、見失うぞトキ!」


 一生懸命にそれにトキは付いていく。





「ぜぇ、ぜぇ・・・速いですよエジプトガンさん・・・」


「そうか?付いてきやすいスピードのつもりだったんだが・・・まぁいいや、入れよ」


「お邪魔します・・・」


 ガラスの扉を開けると電気の付いていない日光のみで明かりを確保している室内。

 見慣れぬ機械が置いてある机と、ソファーにガラステーブルがあるくらいのシンプルな室内だった。


「ここが私達パークパトロールの事務所、まぁみんな大抵はパトロールに出払って居ないんだが」

「一人を除いてな。おーい、ロバー!例の新入りズが来たぞー!相手してやってくれー!」


 誰もいないように見えた室内に向かって声をかけ、「じゃあ私は仕事に」と出ていってしまうエジプトガン。


「えと・・・ロバさん?」


「どこに・・・」


 取り残された二人は部屋の中を見回す。しかしそれらしき影はおろか気配すらない。


「あのーライオンさんに言われてお昼ごろここに来いって・・・」


 そう誰もいないように見える室内に呼びかけてみる。すると、


「ほう、なるほど・・・このロバの出番ですね」


 急に背後から聞こえる高い声。


「えっ!?いつの間に!?」


「ほう・・・あなたがトキさん・・・まぁ、あなたはパーク内で結構有名ですからね、知ってます」


 並んでいる二人の間をくぐり、ジロジロとトキの全身を舐め回すように見つめるロバ。全身グレーで、可愛らしい服装とガッツリ出したおでこが目を引く。


「それよりロバの興味を惹くのはツチノコさん、あなたです」


 姿勢を上下させながらジロジロとツチノコを観察するロバ。


「へぇ・・・やっぱりツチノコはヘビの仲間なんですか?なかなか攻めたカッコしてますね・・・あら、その下はホットパンツなんですか。こんな可愛くて誘ってるような子と一緒に暮らすんじゃトキさんも大変ですね?」


 にやぁとした顔でトキをチラッと見るロバ。


「そ、そんな女の子同士ですし!・・・っていうかなんで下からパーカーの中覗いてるんですか!パークパトロールの仕業とは思えませんよ!」


「・・・」


 無言でトキの耳に顔を近づけるロバ。そして・・・


(トキさん、あなたがそっち系なのは知ってるんですよ、私に隠し事は効きません)


 そうコソッと囁いてから元の位置に戻り、


「このロバの情報収集能力、およびそれの記憶力をナメないでくださいよ?そこ活かしてここで仕事してるんですから」


 ふんす、と鼻を鳴らし堂々と宣言するロバ。それを言ってから小さく「あっ」と叫び顔をキチッと正して深々とお辞儀をする。


「改めて、パークパトロール事務および情報管理の仕事を担当してますロバです。以後お見知りおきを」


「あっ改めましてトキです、よろしくお願いします」


「ツチノコだ、よろしく頼む」


 一通り挨拶を済ませた後、ソファーに進められ二人で腰掛けそれに向かい合うようにロバが座る。


「では、もうあなた達は信用できる人達だとライオンさんが言うので大丈夫です、この書類にサインしてもらえれば、正式にパークパトロールです」


 迷わずにサインをする二人。


「・・・よし、これであなた達はパークパトロール、ですが実質まだ見習いです。明日からは少しパトロールの基本と訓練になります。朝九時にはこの建物に来るよう」


「「はい!」」


「・・・あ〜、そんな固くならなくて大丈夫ですよ?今のは真面目な話だからちゃんとやりましたけどロバのモットーは「気楽に力を抜いて別け隔て無く」ですから。お二人も、ロバのことは先輩付けしないで大丈夫ですから。代わりにこっちからも友達感覚でやらせて頂きますが」


「いいんですか?それで」


「へーきへーき!ほら、ここのトップあんな感じだから大丈夫なの!」


 ここのトップ=ライオン↓


 ・人の家にズカズカ入り込む

 ・簡単な地図をガッツリ書き間違える

 ・面接(約三十秒)


「あぁ・・・なるほど」


「ね?ツチノコさんもやっぱそう思うよね?」

「でもあの人やる時はやるし、なんか「付いてくぞ!」ってなっちゃうんですね・・・」


「「ははは・・・」」



 その後も雑談が続き、日が傾いてきた頃やっと終わりを迎えた。



「じゃあ、明日の朝ね!忘れないでくださいね!」


「わかってますよー!ロバさん、また明日!」


「エジプトガンにもよろしくな」


 そう言って、帰路に着く・・・が、途中で銭湯に寄る。


「やぁ、トキノココンビいらっしゃい」


「お姉さん、私達お仕事決まりました!お給料入ったら1800円、きっちり返しますね!」


「お、おめでとう!焦らんでもいいからね、じゃ、今日も入ってきな?」


「「はーい」」





「ふー、やっと仕事決まりましたねー、とりあえず当分の目標達成ですかね?パークパトロール頑張っていきますかぁ!」


 風呂上がりのベンチで話す二人。


「ああ、もう問題無いな。これで安定した生活が出来る。」


「・・・ツチノコ」


「ん?なんだ?」


「・・・今。幸せですか?」


 その質問は、表面的な重みだけでなく、とてつもなく重いものだった。

 二人が出会った次の日。雨の中肉まんを諦めようとしたツチノコにトキがかけた言葉。


『私はツチノコを幸せにしてあげたい!それは肉まんで!私の歌で!私はあなたにもう暗い顔をして欲しくない!』


 確かにツチノコは最近暗い顔なんてめっきりしなくなった。しかし、ツチノコには自分で決めた幸せのルールがあった。


「じゃあ、トキは幸せか?」


「えっ?私ですか?まぁ・・・はい、幸せですね」


「じゃあ私はまだ幸せじゃない」


 明らかに驚き、悲しそうな顔をするトキ。


「・・・私は自分で決めたことがあるんだ。私達はベストフレンドなんだろ?辛いことも楽しいことも一緒・・・じゃあ幸せもそうだ。私とトキ、二人で「幸せか?」って聞き合って二人とも「YES!」って即答出来る、それが私の考えた幸せだ」

「つまりトキ、お前が幸せなら私も幸せだ、これからもよろしくな?」


 そう言って手を差し出すツチノコ。


「えへへ、じゃあいっぱい幸せにしてもらいますよ、ツチノコ!」


 それを握り返すトキ。




 と、それをたまたま目撃した菜々。

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