第20話 二回目の面接
めんせつ【面接】
第13話参照
どうしてこんなことに。
ツチノコは今それだけを考えていた。左を見ればあせあせと話すトキ。その目線をたどると見知らぬライオンと名乗るフレンズ。
事の始まりはつい十分ほど前。
インターホンが鳴り、誰かとトキが出たと思えば戻って来たのはトキではなく彼女、ライオンだった。後ろから焦った様子で口をぱくぱくぱくぱくさせながらついてきたのがなんだかやけに可愛かった。
「新た自己紹介。俺はライオン、パークパトロールの形式上一番上にいる。お前らが入隊志望なんだってな?」
どかっとちゃぶ台の前に座り急に話し出すライオン。
「え、えっと確かにそうですけど・・・。いろいろ飛ばしすぎじゃないですか?」
「そうか?」
トキの当たり前な発言に眉をひそめるライオン。
「なんで私達が志望って知ってんだ?あとその上で何故ここに来た?」
「ああ、その辺の説明な?昨日ワシミミズクのやつと酒飲んでたら入隊希望者がいるって聞いて・・・今時珍しくて嬉しいから来ちゃった!」
あは、といった笑みを浮かべるライオン。
私とトキで顔を見合わせ、えぇー・・・とアイコンタクトを送る。
(なぁトキ・・・ワシミミズクってだれ?)
(准教授ですよツチノコ。ワシミミズク准教授です)
「で、急で悪いんだが入隊面接していい?」
コソコソと話す私達なんてお構い無しで話を進めてしまう彼女。
「あっはい、お願いします!」
トキが咄嗟に返事する。私の心の準備は・・・?人見知りなんだけどなぁ・・・。
そして場面は冒頭へ・・・
「じゃあ、紅白のお前!名前と志望理由を簡単にわかりやすく述べよ!」
「トキです。えっと・・・恥ずかしながらお金と仕事が欲しいのと私向いてそうかな?って・・・」
「うむ!わかりやすいからOK!次、特技!」
「鳥だから空が飛べるのと・・・歌が歌えます!」
「よし、面接終了!」
手元の紙にメモをし、そう言い放つライオン。
「え?もうですか?」
「うん、おしまい。次、そっちのヘビ!」
拍子抜けしているトキを横目にツチノコの番にさっさと回してしまうライオン。
「あ・・・あの!」
あくせくしながらツチノコが口を開く。
「なんだ?」
「いや・・・私まだパス持ってないんだが大丈夫か?もう試験には合格してて明日届くんだが」
「それならOK!よし、名前と志望理由!」
グッと親指を立てるライオン。
「ツチノコだ。見ての通りトキと暮らしててせっかくパスも手に入るから仕事を・・・と」
「ふむ・・・次、特技!」
「ピット器官が使える、要は暗くても生き物なら見えるぞ。あと目からビームが出せる」
「ピット器官と・・・ビームね・・・は?ビーム!?」
「そう、ビームだ。危ないから見せられないけどな」
「ツチノコってすげー動物なんだな・・・はい、終了」
トン、とペンをちゃぶ台に置くライオン。
「よし、二人とも合格!今日からパークパトロールの一員だ!」
「「へ?合格?」」
二人で素っ頓狂な声を出してしまう。それはそうだ、一人一分もない面接(?)を急にされて終わった途端合格の通知。急にも程がある。
「なんだ?嬉しくないのか?」
「いやいやいや、嬉しいですけど急過ぎて・・・」
「まぁ、全部私の匙加減だからな。お前らはなんか気に入った、あと純粋に人手不足だから正直誰でも欲しい」
「そんなぺらぺらと裏事情を・・・」
「とりあえず、明日は空いてるか?細かい手続きとかウチの事務所でやるから、午後1時頃に来てくれ、この紙に書いてある」
ペシッと一枚の紙をちゃぶ台に叩きつけるライオン。
「じゃ!急に邪魔したなぁ、また明日!」
バタン。返事を聞かずに行ってしまった。
それを見送ってトキが無言でツチノコを見る。
ツチノコもそれを見返す。
「・・・やった。でいいんですかね?」
「まぁ、素直に喜んでいいんじゃないか?急でびっくりしたけど」
「「・・・」」
ぷっ、と噴き出し二人で高らかに笑う。
「ふふふ、どうします?この後。勝手にパスが届く前提で面接行っちゃおうと思ってたんですが暇になっちゃいましたねぇ・・・?」
「なんかやることとかあったか・・・?」
少し考え込むトキ。
「・・・じゃあ、今日は二人で遊びましょうよ!たまにはそういうのもいいんじゃないですか?」
「・・・そうだな!どこ行くんだ?」
顔を輝かせて尻尾をピシンピシンと床に叩きつけるツチノコ。
「そうですねー、とりあえず外出てブラブラしてれば面白い事でもありますかね?」
「行ってみるか!」
「はぁ・・・」
意味もなく二階の窓の外を見ている。それぐらいしかやることがない。本棚の本は読み尽くした。外に出て遊んでみたいがきっとお許しが降りないだろう。
私は何故フェネックのフレンズになってしまったんだろうな。
なんてふいに思う。そんな消極的なことを考えてはいけないのかもしれないが、今生きていて楽しいことが無いのも事実。
ツチノコさんやトキさんと会っている間はそんなことも忘れられるものだが、その分一人が辛い。こんな家は早く抜け出してしまいたいものだ。
ふと、窓の外に見覚えのある影が横切る。
窓を開けて顔を出すとこの間のアライグマのフレンズだ。
元気いっぱいに走って、とても楽しそうだ。私もあんな風に無邪気に遊んでみたいな、と思うが悲しくなるだけだと知っているので脳みそを空っぽにして窓を閉め、たいして代わり映えしない外に目をやる。
「おーい、フェネックー」
下の部屋からアルトに呼ばれる。
「はーい、今行きますアルトさん」
下に降りたらただ洗濯物を干してくれ、ということだった。
本来、私達フレンズはパークの見世物でありヒトに見られるためにここで存在していたがそれでは可哀想とフレンズにも人権が与えられた。
それにより私達はこの小さなパークの中でのみヒトとほぼ同じ生活が出来るようになったのだが、飼育員という保護者の役割を持つヒト達が居る。何故その人達にフレンズの私が奉仕しなければいけないのか。
しかし逆らうとこのアザを増やすだけだとわかりきっているのでそんな無益なことはせずに黙って従う。
もう何度も同じ事を繰り返してる。
もう・・・こんな生活はイヤだな。
心の中でまたそうつぶやく。
何度目か自分でもわからない。首を吊ったり、手首を切ったりしようと今まで考えたことがある。しかしいざ用意をしてやってみようとすると手が震えてどうにもならなかった。
私は結局臆病者で、何にも出来ずにこの生涯を終えるのだろうな、なんて似たようなことばかりさっきから頭をぐるぐる回っている。
あーあ、こんなこと忘れるくらい夢中になれるものがあればいいのになぁ。
そう考え、また悲しくなる。
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