第19話 初めての訪問者
ほうもん【訪問】
人をたずねてゆくこと。他家をおとずれること。
銭湯でフェネックと会って数週間後。
ツチノコは朝早くから部屋でそわそわしていた。
「パス・・・まだかな?まだかな?」
「楽しみなのはわかりますけどまだ5時ですよツチノコ・・・少なくとも一時間半くらいは待たなきゃ」
ツチノコの早起きに付き合わされたトキが目を擦りながらツチノコに話しかける。
「取り敢えず、ベットに座って落ち着きましょう?そんなうろうろしてないで」
「んん・・・それもそうだな」
ぼすっ、と勢いよくツチノコがベットに座る。
反動でその横にいるトキがぐわんと揺れる。
「はぁーっ・・・私、パス取ってどうすんだろ。一人で生活するのかな?」
「ええっ、私と一緒に暮らしましょうよぉ!それとも、嫌でしたか?」
「いやいや、全然そんなことは無いんだが!・・・ただ、この部屋に二人ってのも大変だし、何よりジャパまんが一人分しか貰えないから・・・」
「そんな、今まで通りに暮らせばいいんですよ!仕事も始めるんだし、ご飯だっていろんなもの食べましょう!・・・パークパトロールがダメだったらどうするかとか全然決めてませんが」
えへへと少し照れた感じでトキが話す。
「うーん、仕事かぁ・・・」
「大丈夫ですよ、私も初めてですから。今回は二人揃って初めてですね?」
そう言うとボフンとベットに横になってトキがツチノコに語りかける。
「ほらツチノコ、果報は寝て待てって言いますし、もう一眠りして待ちましょう?」
「うーん・・・それがいいんだろうけどどうも今後が不安になってあんまり・・・」
ツチノコがそう言うと、トキが手をパッと広げる。なんだろうと思い少し見つめているとトキがニコッと笑った。
「不安な事なんて二人でどうにかなりますよ、特別にぎゅってして寝てあげますから!」
「はは、やっぱりトキは寝てたり寝惚けてたりしてるとなんだか変な事言うな?でもまぁ、今日は甘えさせてもらうよ」
横になって、トキの腕の中に入り込むツチノコ。
「ん・・・おやすみ・・・」
横になってしまうと案外すぐに寝てしまったツチノコ。その寝顔を見て、トキは自分がいつの間にか微笑んでいることに気がつく。
「えへへ、なんだか幸せですね・・・朝早いから歌に出来ないのが残念・・・ふぁあ・・・」
あくびが出るがどうも寝ることができない。ツチノコのことをこうして改めて肌で感じるとどうしても鼓動が早まり気分が高揚してくる。
「いけないいけない・・・私が寝て待てと言って寝れないようじゃ・・・」
そう言っては見るものの、結局しばらくの間寝付くことはできなかった。
ふと、すやすやと寝息を立てる彼女の唇に目が止まった。綺麗な薄紅色のそれを見て、なんとも言えぬ気分になる。
気がついたら、彼女背中に回していたはずの自分の手がそれに触れようとしていた。いけない、と自分の無意識な欲求を押し殺しより強く彼女に抱きつく。
いつの間にか、意識はどこかに飛んでいった。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
カーテンからは早朝の白っぽいそれとは違う明るい色の光が漏れ、部屋の中に細い光の筋を出している。
そして目の前、本当に鼻先20cmくらいには気持ちよさそうに寝ている白髪の少女。言わずと知れた親友のトキなのだが・・・そのあどけない寝顔に反して物凄い力で自分の体を押さえつけている。
「あの・・・トキ。離してくれないか?もう不安も和らいだし・・・」
「・・・んにゃ、ツチノコ?」
目を閉じたままトキが返事をする。
「そうそう、おはようトキ。もうぎゅってしてくれなくても大丈夫だから、ありがとな?」
「・・・えへへ、おいしい・・・」
「? 何言ってんだ?」
「すき・・・」
「? おーい、大丈夫かー?」
腕がまだ解放されないのでこつんと弱く頭突きをしてみる。
「むにゃむにゃ・・・んぁ、ツチノコ・・・?」
目を覚ましてぼうっと気のない目を向けるトキ。
「ん、おはよう」
「おはよう・・・ございま・・・す?」
二人とも横のまま沈黙の中で見つめ合う。
「・・・」
「・・・?」
しばらくそれが続いた後、トキが顔を赤く染め、ガバァと勢いよく跳ね起きる。
「えぇぇえ!?ツチノコ、めちゃくちゃ近くないですか!?」
「えぇ~・・・?トキがさっき『ぎゅってして寝てあげます!』って!」
「え゛、本当ですか?記憶に全く・・・ん?」
トキの思考回路
ぎゅってして寝る→抱いて寝る→卑猥ッ!
「あの・・・私、ヘンな事してませんか?」
「別に・・・?言葉通りギューってするもんだから動けなくて大変だったが」
「そう・・・言葉通り、ですか。いえ、何でもないです、御迷惑をお掛けしましたツチノコ」
「いや、素直に嬉しかったし別に平気なんだけどな?」
ちら、と時計に目をやる。既に時刻は8時半。
「もう届きましたかね?朝ごはん貰ってくるついでで見てきますね?」
「ああ、忘れてた!?分かった、待ってる!」
「はい、行ってきます」
そう言って彼女は外に出ていった。
その頃の図書館
「んっ!」
急に顔をキッとさせ、真剣な目付きになるミミ准教授。
「どうしましたか?准教授」
「今・・・例の二人がイチャイチャした・・・気がするのである」
「奇偶ですね・・・私もなのです准教授。これは抱きついた感じですね、恐らく」
「そう、あの二人と言えば少し心配事が・・・」
「どうしたのです?」
「・・・昨日、パトロールのアイツと話した時に入隊希望のやつが居るって言った流れでついどこに住んでいるのかも・・・」
目を伏せて後悔したように語る准教授。
「な・・・!?それはいけないのです准教授!下手したら法に触れるですよ!それに・・・」
「多分ヤツなら今日にでも乗り込みやがるですよ・・・」
「はい・・・深く反省しているのである・・・」
「だいたい、なんでそんなポロッと・・・」
恥ずかしそうに准教授が告白する。
「酒が入っていて」
「は?」
「酒が入っていたもので」
それを聞き、コノハ教授がキレた。
「はぁぁぁああ!?」
「酒が入って!?そんなもので他人のプライバシーを!?つかなんで私も誘わなかったのです!?昨日夜になって急に居なくなって心配したのですよ!私だってたまにはお酒飲みたいし!」
「・・・いや、でも教授・・・いや、コノハちゃんすぐに酔って私がいつも介抱役で全く飲めないのも苦しいのである・・・いや、悪かったのであるそんな怖い目を向けないで欲しいのである」
「あぁーーー!もう、ミミちゃんなんてー!」
びええぇ、と泣き出す教授。感情が表に出過ぎて仕事モードがひっくり返りキャラ崩壊してしまっているが、周りの目はお構い無しにえんえんと泣き続けるコノハちゃん。
「ほらほら・・・今日の夜は一緒に飲んであげるのである・・・コノハちゃんの好きなうずらの卵串も奢ってあげるのである・・・」
「グスッ・・・いいのですいらないのです・・・」
(ああ、面倒な事に・・・確かに私も悪いですが)
「ツチノコ!ほら見てくださいこの封筒!」
部屋に戻ってくるなりトキが黄色いジャパリパークの印が入った封筒をヒラヒラさせる。
「おお!?それは、その中にまさか・・・!」
「そうです、きっとそのまさかですよ!」
「開けよう!開けようトキ!」
「ほらほらほら、ツチノコ、自分の手でどうぞ!」
そう言ってツチノコに封筒を手渡すトキ。
ごくり、と喉を鳴らしツチノコがそれを開ける。すると・・・
「あれ?紙だけ?フツー、トキが持ってるようなカードが入ってるんじゃないか?あの二日目に見せてくれたような」
「・・・その紙は?」
「えっと・・・『少し手続きが遅れちゃったから明日になっちゃった ごみんに 奈羽より♡』」
「・・・」
「・・・」
「朝ごはん食べますか」
「そうだな・・・」
「そう言えばトキ」
ツチノコが口をもぐもぐさせながら喋りかけてくる。
「なんですか?」
「ゴクン・・・『すき』ではじまる料理ってある?」
「・・・?すき焼きとか?」
「すき焼きか・・・美味しかった?」
「え〜?食べてませんよ?変なツチノコ」
えへへ、と笑いながらトキがコメントする。
その時、ふいにインターホンが鳴った。
「あら?こんな朝から誰でしょうか?」
「はーい、ただいまー」
ガチャ、と扉を開けると背の高いフレンズ。
ボリュームのある金色の髪の毛に、白い服と赤いネクタイ、スカート。
「あの・・・あなたは?」
「ん、俺はライオンだ!お前がパークパトロール志望のトキかな?」
「えっ、はいそうですけどなんでそれを?それに何故ここに?」
「取り敢えず、上がらせてくれ」
「え?」
そう言ううちに、ズカズカと部屋に入り込むライオン。
「えぇーっ!?待ってくださいー!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます