第17話 初めてのお礼
おれい【御礼】
感謝の気持ちを表すこと。また、その言葉や贈り物。
「ツチノコ、図書館が見えてきましたよ!」
「教授達は何してるんだろうな?」
㌧㌧
久々に肩を叩かれるトキ。
「またですか・・・もう引っかかりませんよ!」
少し誇らしげにグルンと体ごと一回転させ後ろを向く。
しかしそこには青い空と雲が一つ二つ。フレンズは誰もいなかった。
「・・・?」
「どうしたんだ?引っかかる引っかからないとかなんとか」
「いや・・・肩を叩かれた気が・・・ううん、絶対叩かれました。え、あれっ、それ・・・」
さあっと顔を青ざめるトキ。
「おばけ・・・?」
「いやぁっ!怖いですツチノコ!」
ぎゅっとツチノコを抱き締めるトキ。少し苦しそうにしながらツチノコが指摘する。
「トキ、下見て、下」
「した・・・?あっ」
自分達のずっと真下に体を震わせている白と茶色の影。
ふしゅう、と音がなる程顔を赤くさせ、ツチノコに抱きついた姿勢を徐々に直すトキ。
「あの・・・ごめんなさいツチノコ」
「大丈夫だ・・・下に降りよう」
「はい・・・」
「教授!准教授!」
下に降り立った途端大きな声で二人を呼ぶ。
「いやぁ~いいものが見れたのである」
いつの間にか後ろに居たようだ。ニヤニヤしながら二人が話し出す。
「『いやぁっ!怖いですツチノコ!』・・・ふふふ、ギュッてしてたですね?どさくさに紛れてやりおるのです」
「~っ!/// どさくさじゃないですよ!本気で怖かったんですから!」
「はいはい、謝るのです」「である」
トッ、と地面に降りた二人が申し訳なさそうな顔をする。顔を。
「で、何の用ですか?」
「まぁ大体見当はついているのである。取り敢えず、中に」
そうして、皆で図書館の中に入り椅子に腰掛ける。
「で、具体的にどうしましたか?」
「あ、私の試験について報告を」
「だと思ったのである。して、結果は?」
「合格だ。一位でな」
「おお!流石なのです!」
ぱあっと顔を明るくする教授達。
「で、お礼に・・・」
「ふふん、我々のおかげでは無いのです」
「ツチノコの努力の結晶なのである、よくやったのである」
中々に立派な台詞を吐く教授と准教授。
しかし、内心「決まった!」という思いがとても強い。
(やりましたね教授)
(ええ、准教授。正直これが言いたくてやってた部分もありましたから)
「ありがとう、二人共」
「どれ、我々少しトキに話があるのです」
「申し訳ないのであるが、少し待ってるのであるツチノコ」
「お?おう・・・」
一人椅子に残されるツチノコ。暇なので近くにあった動物図鑑を開いてみる・・・
「で。何か進展はあったですか?」
「なんで毎回それ聞くんですか・・・」
「我々、楽しみで仕方ないのである。もうネタは上がっているのである、お前がツチノコの事をそう意識しているのはわかりきっているのであるよ」
キリッとトキを見つめる教授達。
「ほら、なんかあったのですか?あの後歌は歌ってやったのですか?」
「歌ってあげましたよ、嬉しそうに聴いてくれました。そうしてくれるのはツチノコぐらいですかね?」
「まぁ、正直そんなエロスの無い話は面白味に欠けるのです」
「他には?」
「他・・・ですか」
「あったにはありましたが・・・話すのはちょっと・・・」
顔を少し赤くして告白するトキ。
「それ!それなのです!」
「言うのである!ほら、ほら!」
「む、無理ですぅ~!そんな・・・」
「チッ、ツチノコに勉強を教えてあげた恩を忘れたですか?」
「ケッ、タダで仕事を紹介してやっているこっちの身にもなるのである」
ジト、とトキに嫌な目線をおくる二人。
「・・・絶対言いふらしたりしないでくださいね?」
「へぇ、これがフレンズじゃないトキか・・・綺麗だな」
そうして、ツチノコが図鑑を眺めていた時、図書館に来客があった。
「ごめんください・・・教授達居ますか?」
黒髪に大きな耳。白衣を着たフレンズ。何を隠そう、昨日あったばかりのチンパンジーなのだが・・・随分と印象が違う。
「あれ?チンパンジー?」
「あら?あなたは・・・えと・・・ツチノコさん?でしたよね」
「どうしたんだ?随分昨日と様子が違うが」
「昨日?朝からちょっとお酒を嗜んで・・・その後・・・アレ?何しましたっけ」
「ツチノコさんとトキさんにあって道具上げたのは覚えてますが」
「多分、酔ってぶっ倒れたんじゃないか?」
「ええ?嘘だぁ、自分そんなに飲んだこと無いですよ、いっつも一杯位です」
何の不思議も無い、といった表情で否定するチンパンジー。
「それこそ嘘だろ・・・?」
「それより昨日の道具はいかがですか?改良の要望があればなんとかしてみせます」
「ああ、持ち上げられる側としては問題無いな、あとはトキに聞いてくれ。今教授達と話してるから」
「そうそう、自分、教授達に用事があるんですよ」
そう言って少し離れた机に座り、ポケットから紙と鉛筆を取り出した彼女は何やら呟きながら紙に何かを書き始め、そしてパタリと話さなくなった。
「・・・?」
なんだか掴みどころのありそうでなさそうな不思議な奴だなと、ツチノコも図鑑に目を戻した。
コソッと耳元で一昨日のファミレスでの出来事について話す。
「ほう・・・間接キスですか」
「わざわざそのワード回避して話したのに・・・」
「「「・・・」」」
少しシンとした後、涙を流し始める教授達。
「グスッ・・・良かったのです、やっと第一歩を・・・」
「ふぇ・・・感激である・・・」
「・・・あのそれ、ツチノコの合格を聞いた時に流すやつです」
「「なにを言っているのですか!」であるか!」
目から透明なものを流しながら、教授達は感動。トキは困惑。
「間接キス程度で意識しているのはお前がツチノコを既にLOVEだと言うことなのです。」
「普通、その程度ではわざわざ恥ずかしがったりしないのである。」
「え・・・そうなんですか?」
トキが意外そうな顔を見せる。しかし、ツチノコLOVEに関してはノーコメントだった。
「まぁ男女間ならアレとして女同士では・・・」
「さ、ではツチノコの洗脳に取り掛かりますか、教授」
そう言って部屋を出ようとする教授達。
「待ってください!」
「・・・なんであるか?」
「ツチノコには・・・そういうのはやめてください!」
トキが顔を赤くしながら主張する。そういうの、とは洗脳のようなことをやめろということだろう。つまり・・・?教授が質問を投げた。
「・・・理由を聞くのです」
少しうつむいてトキが話し出す。
「もう・・・あえてここは私がそれを意識してるのは認めることにしておきます。正直恋愛もしたいです。ただ・・・」
パッと顔を上げるトキ。
「そんな仕組まれたようなのはイヤです。それに、仮にそうしてツチノコとそういう仲になったとしても私は嬉しくないです!」
「・・・つまり、自らの力で振り向かせてみせると」
「・・・まぁ、つまりは・・・」
トキがボソボソ話すのを聞いて、顔を見合わせニヤリとする教授と准教授。
「・・・我々、お前を見くびっていたようです」
「・・・努力するのであるよ、相談には乗ってやるのである。ついでに報告も」
「・・・はい、頑張ります!」
そうして、三人で部屋を出る。
「ただいま~ってあれ?チンパンジーさん?」
「ああ、トキさん。教授達も」
鉛筆を親指と人差し指でつまみながら手を振って応えるチンパンジー。
「どうですトキさん?例の道具は」
「とっても便利ですよ!どうもありがとうございます!ごめんなさいお礼はお酒に慣れてからって言ってたのに」
「そうでしたか?大丈夫ですよ、自分はお酒そんな飲まないので」
「えっ」
「えっ?」
そんな二人で話していたところに教授達が割り込む。
「チンパンジー、お前はもっと酒を控えるのです」
「いっそゼロにするのである」
「えぇ?本当に一杯位しか飲みませんよ」
「違います、一杯目以降の記憶が無いだけなのです」
信じられない、といった顔でチンパンジーが首を捻る。
「おっ、おかえり」
ツチノコが四人の輪に入り込む。
「ねえツチノコさん。自分、酒飲まない方だってみんな信用してくれないんですよ。なんとか言ってくださいよ」
「・・・昨日訪ねた時は既にベロンベロンだったぞ」
「も~みんなそう言って」
「で、本題なんですが。最近自分の家に泥棒が入ってるみたいなんですよ。お酒の中身が次々消えてっちゃって。どう対策したら良いでしょうか?」
顔を見合わせる一同。長い静寂あとに、准教授がその静けさを破る。
「・・・それは、お前が酒を飲んだ日に現れる泥棒なのである。酒飲みを控えるのが得策、である」
「えっ!?そんなタイミングを狙って来るんですか!?こうなったら罠でも作って、誘き出して捕まえてやります!では!」
そう言って答えを聞くやいなや物凄い勢いで外に飛び出すチンパンジー。
「・・・なんだか不思議な人ですね・・・」
「全くなのです。性格だけじゃなくアイツは酔った時に未来予知とかもするのです。的中率約70%ぐらいですかね?」
「そう言えばこないだ酒飲みながらなんか言ってたな。何だったっけ?」
首を傾げるツチノコ。
「えっと・・・私の髪とかが真っ黒で、ツチノコが白っぽいとかでしたっけ?」
「別にそうなってもたいして困らない事だな・・・」
ふと、時計を見るツチノコ。もうあと数分で午後といった時刻だ。
「そういえばお腹減ったな・・・」
「確かに・・・帰ってお昼にしますか?」
「そうすると良いのです」
「我々も腹ペコなのである」
「じゃそんな訳で私達帰ります。また時々本読みに来ますね」
そう言って外に出ていく二人の背中を見送る。
少し例の道具をカチャカチャさせた後、二人は飛び立った。
「どれ、我々もお昼にするであるか?教授」
「准教授・・・さっき、チンパンジーが酔っ払って『トキが真っ黒』って言ってたの、聞きましたね?」
「・・・はい?それがどうかしたのであるか?」
「トキという鳥は白い羽毛を黒く染める習性があります・・・どんな時にするかわかりますか?」
少し准教授が考え込み、ハッとした顔で答えを出す。
「・・・繁殖期・・・であるな?」
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