第15話 初めての酒

 酒【さけ】

 エチルアルコールを含む飲料の総称。



 試験翌日。

 ツチノコ達はナウに連れられて、パーク内巡回バスに乗っていた。


「ナウさんは何しにジャングルへ?」


「何?Youは何しに日本へ?」


「なんですかそれ・・・何故ジャングルに来たんですか?って」


「んーと、今度ジャングルの近くに遊園地を作るのね?それで、どの辺が道に出来るかの調査」


「「遊園地?」」


 ツチノコとトキが口を揃えて質問する。


「まぁ、遊ぶところだよ。完成したらみんなで来ようね」


「っていうか、それ飼育員の仕事か?」


 ナウがため息をつきながら答える。


「はぁ・・・ホントだよぉ。エライと大変なのさ。君達もいずれ分かるよ」


「そう言えばトキは仕事どうするんだ?」


「あ、結局パークパトロールかと・・・そう!話してませんでしたね、ツチノコもパス取れたら一緒にやりましょうよ!ツチノコのピット器官はきっと重宝されますよ~?」


「え、私もか?」


 驚きを隠せぬツチノコ。悩みこんでしまっているツチノコを見かねてナウが口を出す。


「うん、きっと二人でやった方が仕事も捗るし、生活も楽だよぉ?仲良しなんだから、二人で面接受けちゃいなって」


 ウインクをしながらナウがツチノコの方を向く。しかし、ツチノコはまだ不安そうな顔で返事をする。


「でも、私人付き合い苦手だし・・・」


「あーもう!ゴチャゴチャ言ってないでやってみりゃあいいだよツチノコちゃん。一回面接行ってみって」


 ぽん、とツチノコの肩を叩くナウ。


「うーん・・・確かに。っていうかそれより前にパス決定してないけどな」


 ハハ、ツチノコが笑いながら答える。そんなところで、アナウンス。


「次はぁ~ジャングル前~ジャングル前ぇ~」


「ん、もうジャングル前だと。降りなきゃねぇ」


 そう言って、ナウはのんびりと背伸びをしていた。





「とーちゃく!」

「・・・で、因みに君達は何をしに?」


「私達は、チンパンジーさんに会いに。なんでも、人を抱えて飛ぶのに便利な道具を持ってるとかで」


「へぇ?ま、行ってらっしゃい。はいこれ時計ね」

「じゃ、十二時頃にまたここで集合ってことで」


 そう言って、腕時計をトキに手渡し森の中に消えてゆく。


「じゃ、私達も行きますか。教授達が言うには小さなガレージみたいな場所にいっつも居るらしいです」


「場所わかるのか?」


 ツチノコの一言にぎょっとするトキ。


「・・・仕方ないな、探すか」


「ごめんなさい・・・」





 探すとは言ったものの、木が生い茂るジャングルでは空から探すことは出来ない。木のあいだを抜けて飛ぶのは危険だし、高いところでは葉が邪魔して何もわからないだろう。かと言って地上で地道に探すには時間が足りない。


「どうしたものか・・・」


「ガレージみたいな建物なんて・・・この鬱蒼とした木々の中に建ってるんですかね?」


「「・・・」」


 二人で少し考え込む。


「それだよトキ!」


「わっ、なんですかツチノコ?急にびっくりしました」


「取り敢えず飛んでみてくれ」


「はい?わかりました」


 そうして、二人で飛んで木々の上に出る。辺りは一面緑、ジャングルの高さが様々な木の葉が太陽の光を照り返している。銀景色ならぬ、緑景色だ。


「多分、ガレージの真上には木は無いはずだ。つまり、ポッカリと空いた部分がどこかにあって、その下が例の場所のはず」


「おお!流石ツチノコです!早速ポッカリ空いてる所を探しましょう!」


 そうして二人はジャングルの捜索を開始した。





 ところ変わってここは図書館。


「ふぅ、ツチノコは大丈夫ですかね?准教授」


「まぁ、あれなら合格は間違い無しである。今頃トキとイチャコラしてる頃でしょう」


「そういえば、あの二人はチンパンジーの元に行ったのですかね?そんな話は全く聞かなかったし、一昨日も普通に抱えて来ましたし」


「どうであるか?ただ、チンパンジーもなかなかの曲者なので少々不安であるが」


「まぁ大丈夫でしょう。多分・・・た、たぶん。」


(・・・ダメそうであるな)





「あ、あそこ長方形に木が無いですよ!」


「怪しいな?」


 その穴のポイントから下を覗くと、薄汚れたグレーの地面(?)が見える。これは、とそこに降りると下から声・・・否、怒声が聞こえてきた。


「あ゛あ゛っ ! もうやってられっかつぅーのぉっ!」


 それを聞いて、二人は顔を見合わせる。


「・・・荒れてますね」


「大丈夫なのか?」


「・・・ちょっと怖いですが、お邪魔してみましょうか」


 そう言ってフワリと屋根から降り、開いているシャッターから顔を覗かせる。


「あのーごめんください」


「んぁ?なんだおみゃあ?」


 中に居た彼女が返事をする。黒い髪に、ヒトと同じ形だがやたら大きな耳、目にかけた片眼鏡モノクロム。身にまとった白衣が特徴的なフレンズである。


「チンパンジーさんでしょうか?」


「ああ、そうだぞ。何の用だ?俺はヤケ酒で忙しいんだよォ!」


 そう言って、机の上のビンを掴み、口に合わせ勢いよく天井を向く。喉をゴクゴクと鳴らしてからプハァとそれを口から離す。


「えっと・・・空を飛ぶ時に他の子を運びやすくする道具を作ってるって聞きまして・・・」


「ああ、作ってるさ。そんで?」


 機嫌悪そうにチンパンジーが返す。


「それ・・・頂いたり出来ませんか?図々しいのはわかってるんですが・・・」


「いいよ、くれてやる。ただし・・・」


「ただし?」


「酒に付き合ってけ。ほら、そっちのコソコソしてる茶色いの、オメーもだ。」


 ビクッと彼女からは見えないはずの位置に居るツチノコが呼ばれた。


「・・・さけ?」


「なんだぁ、知らねえのかァ?ほら、初めてならこれだな、飲んでみぃ」


 そう言って、おもむろに机の下から出したビンの栓を抜き、コップについで乱暴に差し出す。


「なんだか・・・不思議な匂いだな。どれ、頂いてみるか・・・」


 チビりとツチノコがその透明な液体を舐める。

 少し口をぴちゃぴちゃとさせた後にグッと一気にそれを腹に流し込む。


「ふむ・・・なかなかアリだな。」


「おお!?いい飲みっぷりだなぁ!ほれ、赤白の奴も!」


「あの・・・私お酒ってあんまり得意ではない(らしい)んですが・・・」


「あ゛あ゛!?いいから飲めよゴラァ!?」


 ダンっ、と机を叩くチンパンジー。


「ひぃっ!?わかりましたいただきますっ!」


 そう言って、少しだけコップの中のものを口に含む。その瞬間思わず噴き出してしまう。


「ああア!何やってんだてめぇ!?」


「エッフ、エッホゴホッゴホッ・・・ごえんなざい・・・よくこんなの飲めますね、めちゃくちゃ辛いじゃないですか」


 袖で口をゴシゴシと擦りながらトキが謝罪をする。床に吹いてしまった分も、ティッシュで丁寧に。


「チッ!しゃァねぇ、今のが置いてある中で一番弱い酒だ、茶色いの、オメーが付き合ってくれればブツは渡してやる。」


「ツチノコだ」


「そうかツチノコ・・・今のじゃ全然って感じだなぁ・・・?もっと強くてイイの出すから待ってろ・・・」


「それは興味深いな」


 こうして、二人の飲み会が始まった。



 数時間後・・・



「ツチノコ・・・お前強えなぁ・・・」


「そうか?」


 酒豪チンパンジーのコレクションの中で最もアルコールの強いものを出したが、ツチノコは全然、当のチンパンジーはベロンベロンという結果になった。


「いいさ・・・そこに置いてある羽マークの箱だ・・・持ってけ・・・俺はもう・・・無理だ」


 もう椅子からも立ち上がれない状態になってしまったチンパンジー。


「あの・・・また今度改めてお礼に来ますね?」


「おう・・・酒に慣れとくんだな・・・」


 そうして、例の道具を手に入れた二人。


 時間も丁度正午を回った所なので、最初の場所に戻った。





 バス停には、既にナウが着いていた。あまり暇はしていないようで、文庫サイズの本をパラパラめくっていた。


「おお、遅かったね・・・って酒くっさ!」


「チンパンジーさんといろいろありまして・・・」


「そ、そうなんだ・・・僕、仕事終わったけど君達も用事は済んだ?なら一緒に帰ろうよ」


「いいですね!そうしましょうか!」


「そうだな」


 そうして、三人でまたバスに乗り込む。

 その後家に着いてからもツチノコはいつものように平然としていた。


「ちなみにトキちゃんは飲んだの?」


「口に入れはしたんですが・・・辛くて噴いちゃいました」


「まぁ、トキちゃんはそれでいいよ。マジで何しでかすかわかんないし」


(そんなやばいんだ・・・)

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