第14話 初めての間接・・・

 かんせつ【間接】

 間に他の物を置いて事を行う、または、行われること。対象にじかに働きかけないで、他の物を仲立ちとして行うこと。



「う~ん・・・」


 ツチノコはファミレスのメニューを睨みつける。ナウに連れてこられたはいいがやはりどの料理を食べようか迷ってしまう。


「・・・トキはどうするんだ?」


「ん~。前回の麻婆豆腐そんな辛くなかったんですが、アレ以上のやつはこのお店には無いみたいですね・・・だから今日は辛い路線を外れていこうかと」


(あれ辛くなかったのか・・・トキの舌どうなってるんだろう・・・)


「そんなお二人さんにゃあ、こんなのはどうだい?」


 ナウが二人に見せたのはピザのページ。シンプルなマルガリータから照り焼きチキンなどいろいろな種類がある。


「二、三枚頼めばみんなお腹いっぱいになるし、丁度いいんじゃない?」


「なるほど・・・どうですかツチノコ?」


「おぉ~・・・いいんじゃないか?どれを頼むんだ?」


「ナウさん、どうしますか?正直よくわからないんですけど私はおまかせで」


「同じく、だな」


「じゃ、僕が勝手に決めちゃうね」


 テーブルの隅にあるボタンを押し、店員を呼ぶ。


「ご注文は?」


 メニュー表をさしながらナウがこたえる。


「これと、これと・・・これを。」

「あとコレも。スプーンは一本で大丈夫です」


「ご注文以上でよろしいでしょうか?」


「はい、お願いします」


 店員が一礼し、厨房の方へ立ち去っていく。


「何頼んだんですか?特に最後、スプーンがどうとかって」


「お楽しみに!スプーンね、特に何でもないよ気にしないで」


 そうして、料理を待つ。





「君達、明日の予定って決まってる?」


 少しの沈黙を経て、ナウが口を開く。


「いや・・・予定らしい予定はないですかね?ジャングルに行こうかって話はしてましたが」


「おお、随分タイムリーな話題だなぁ。」

「明日、ちょいと用事があってジャングルに行くんだけど一人じゃ寂しいから君達も来ない?って話だったんだけどさ、一緒に来る?」


「あ、行きます行きます!いいですよね?ツチノコ」


「無論」


「んじゃ、決定!」


 と言ったところに料理が運ばれてくる。


「お待たせしました、チーズピザでございます。お好みでバジルソースをかけてお召し上がりください」


「はーい」

「んじゃ、食べよか」


「「「いただきます!」」」





「「ごちそうさまでした~」」


 三枚のピザを食べ終えた三人。相変わらずツチノコは初めての食べ物に感動していた。

 しかし、ナウだけはごちそうさまの言葉を言わなかった。


「二人とも、ごちそうさまはまだだよ」


「「へ?」」


 その時、大きな白い何かが運ばれてくる。


「お待たせしました、シェア用BIGパフェでございます」


 ゴトリ、とその大きな食べ物がテーブルに置かれる。


「あの・・・これ」


「僕からプレゼント!おっきなパフェ、二人で食べな?」


「おぉぉ!ありがとうナウ!」


 珍しくツチノコがはしゃぐ。

 ところがトキがおかしな事に気がつく。


「あの、これスプーン一本しかないんですか?シェア用なのに・・・あ」


 ハッとした表情でナウをキッと見つめるトキ。


「ナウさん、今のスプーンの話・・・」


「あっ、ごっめ~ん!僕はいっつも一人で食べるからつい癖でぇ~!」


 目を逸らしながらナウが答える。明らかに「わざと」だとわかる表情だが、純真無垢なトキはそれを嘘と思うことなく素直に受け止める。


「じゃあ仕方ないですね?どうしましょっか」


「取り敢えず貰っていいか?」


 うずうずした様子でツチノコが口を開く。

 ひとつしかないスプーンを手に持ち今にもそのパフェを食そうとしている。


「あぁ、いいですよ?」


 ぱくっ、とツチノコがスプーンを口に入れる。粘り気のあるクリームで白くなっていたスプーンは綺麗になってその口から出てきた。


「んん、今まで味わったことのない味・・・なんていうか、優しいけどグイグイくる、みたいな?」


「そっか、ツチノコ『甘い』のは初めてですか?」


「へぇ、これが甘さか・・・うむ、気に入った。トキも食べようぜ」


「そうですね、別のスプーン貰って来ます」


 そう言って席をたとうとした時、ツチノコが呼び止めた。


「そんな面倒な。同じの使えばいいだろ?」


 衝撃の一言。


 しかしツチノコにとっては世間的に何がイケナイのかもよくわかっていないため、平然とそれを言い放つ。


「ふぇっ!?確かにそれはそうですけど・・・それじゃその・・・」


 顔を一瞬で真っ赤にし、ごにょごにょと歯切れ悪く話すトキ。


「間接・・・キス・・・に」


「なんだそれ?取り敢えず口開けろよ、ホレ、あーん」


 パフェのを乗せたソレをトキに差し出すツチノコ。トキが助けを求めようとナウの方を見るが、ニヤニヤとした表情でコチラを見ているだけ。口が『た、べ、な、よ』と言った風に動いている。


「・・・どうした?」


「いや、その・・・やっぱり世間的にあんまr・・・んむっ!?」


 気がついたら口にスプーンが差し込まれていた。スプーンの底が舌に当たって、ほんのりと暖かい。口の中に広がる濃厚な甘さ。彼女が『優しいけどグイグイくる』と表現したのも納得できる。

 そのスプーンの柄を握ったツチノコがニコリと笑う。


「美味いだろ?」


 そう言って、スプーンを口から引き抜く。最初は口に入れるのを躊躇っていたが今になって少し惜しく感じる。


「・・・ぷはっ、そうですね・・・はい、美味しいです」


 横でナウがおぉーと言った感じの表情でコチラを見つめてくる。


「よし、次もらお」


 そうして何のためらいもなく、ツチノコはそのスプーンを口に運ぶ。そしてまた次の一口をすくって、


「ほい、あーん」


 とまたトキに差し出してくる。

 今度は思い切ってそれに応え、口を開けてみる。すると、また同じ味が口内に広がる。不思議と、少し幸福な気持ちが胸に浮かび上がってくる。


 そんなやり取りを繰り返し、お互いに慣れてきた頃。


「今度は、私がツチノコにあーんしてあげます!私ばっかり申し訳ありませんからっ!」


「おっ、頼む」


 ツチノコは相変わらず、全く動揺していない様子で答える。


「はいっあーん!」


「あー・・・んっ」


 トキの手から伸びたスプーンをツチノコが咥える。スプーンを通してツチノコの舌が動くのがわかる。しばらくそうしていると、


ふぁほあの・・・ふいへふえ抜いてくれ


 とツチノコが小さく喋る。


「あぁ、ごめんなさい!」


 と、スプーンを引き抜く。

 ぷは、とツチノコから離れたスプーンでクリームをすくい、今度は自分の口に運ぶ。舌に乗せたそれはまだ熱が残っていて、少々湿っていた。


 そうして、二人がパフェを食べ終える頃にはそれをずっとずっと見ていたナウが真っ赤になっていて、ごちそうさまを済ませた二人にこう言った。


「や・・・やるねぇ二人とも・・・僕が恥ずかしいよ・・・」

「さ、お会計しますかぁ・・・」





「お会計、3280円になりまーす」


「はーい・・・」


 ガサゴソと財布を漁るナウ。お札を数枚取り出した時、そこから小さい金色のものがコロリと落ちた。それをツチノコが拾う。


「はい、お願いします。」


「4000円から・・・お釣り、720円になります」

「ありがとうございましたー」


 そうして、店を出る。


 外に出て、ツチノコが先程のものをナウに差し出す。


「さっき落ちたぞ。なんなんだこれ?お金・・・?」


 緑っぽい地に金色の肉球マークと枠。明らかに日本円のコインでは無かった。


「ああ、これはねジャパリコインだよ。将来的にパークのお金がこれに置き換わるらしくてね、たまたま開発段階のやつを貰ったんだ。偉いから」


「へぇ~」


 そう言って、目を輝かせツチノコがちいさなそのコインをまじまじと見つめる。


「欲しいならあげようか?正直僕はいらないし」


「いいのか?」


「うん、どうぞ?」


「おお!やった!ありがとうナウ!」


「良かったですね?ツチノコ」


「どういたしまして。ほい、それじゃ明日の朝迎えに行くからね!それじゃぁ!」


 ナウは自転車にまたがり、颯爽と走っていく。


「私達も帰りますか。ツチノコはゆっくり休んでください、疲れたでしょう?」


「そうだな、そうさせてもらうよ」


 そんなやり取りをして、二人は帰路についた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る