第10話 初めての模試
もぎしけん【模擬試験】
入学試験や資格試験などになぞらえて行う試験。模擬テスト。模試。
(准教授・・・まずいのです)
(うむ・・・同意である教授)
((どうしてこんなことに・・・))
ナウが正式にツチノコの担当になり十日ほど経ったある日。今日もツチノコは授業を受け、トキは本棚の前で顔を赤く染めていた。
重ね重ねツチノコの学習能力は半端ではなかった。そして、今日の授業は・・・
「今日は三角形の合同条件についてです」「である」
「ふむ・・・そんなのがあるのか?」
「あるのです」
「結構重要なのである」
ツチノコは、とうに『一般アニマルガール証明書』もとい、『フレンズパス』の取得試験範囲の勉強を終えていた。トキが出会って二日目の日に、「ヒトでいえば小学三年生までの勉強」と言っていたのだが・・・
「教授、准教授、今日の授業はヒトでいえばどれくらいのレベルなんだ?」
「中学二年生である」
「・・・」
「それ・・・パスを取るのにいるのか?」
「「・・・」」
二人はぎくり、としている。
そして、場面は冒頭に・・・
「いや・・・その・・・」
「・・・である・・・」
「・・・要らないんだな?」
「「・・・」」コクリ
無言で頷く二人。
「別に怒りゃしないが・・・なんでそこまでしたんだ?」
「・・・あのですね・・・」
教授の話を要約すると、
ツチノコの学習能力パネェな!
↓
やべー!?数日で範囲終わっちったぜ!
↓
もうこの際覚えられる所まで教えてみよう!
「・・・という訳なのです・・・」
「大変申し訳ないのである・・・」
本当に申し訳無さそうな顔をしている。しかし、ツチノコはあまり憤りを感じたりはせずに質問を重ねた。
「・・・で、結果どうなんだ?満足か?」
「お前は頭がとても良いのです。通常、8年かかる勉強を大体一週間ほどの期間でやり遂げました。」
「天才、という言葉がふさわしいのである。ツチノコという動物の知能が分かって満足である」
「・・・そうか。」
ツチノコは冷静に返し、冷静に少しづつ言葉を呑み込む。
(そっか・・・私天才って言ってもらえるくらい頭いいのか・・・8年を一週間・・・そりゃあ大したもんだな・・・あれ?めっちゃ私褒められた?んん?んんん!?//// 嬉しいぞ!?)
一言話したっきり黙り込んだツチノコに、二人は恐怖していた。自分達が悪いと分かっていても、それは理不尽に感じるほど恐ろしかった。
コノハ教授に関しては、これでもかというくらいに細くなっていた。
ピシッ。
静まり返った部屋に小さく短い音が響く。
ピシン。
もう一度。
ピシっ・・・ピシン。
また一回・・・二回。
段々とその音がなるペースが速くなっていく。
准教授は、その音の正体に気がつく。
「・・・ひょっとしてツチノコ、自分で言うのもなんであるが嬉しかったのであるか?」
音の正体は、ツチノコが振った尻尾が床に当たる音だった。これまでの時間で、ツチノコは褒められるといつもそうして喜んだ。
「・・・えへへ、天才・・・そうか?」
(案の定である)
(そんな怖がる必要も無いのである、教授)
(ほっ・・・怖かったのです・・・)ボンッ
ミミ准教授の言葉にいつものサイズに戻る教授。
「さて・・・天才のツチノコに、今日は模試を受けてもらうことにするです。いい機会なので」
「ツチノコ、全力を出し切るのである。これの点数によっては、パスも夢ではないのである」
まぁ、ツチノコは既にパスも余裕で取れるだろう。この300点満点のテストも、280くらいは取るかもしれない。
「よし・・・開始っ!なのです!」「である!」
カリカリカリカリ・・・
鉛筆の削れる音が部屋に響く。
そして、2時間ほどして。
「終わった」
と、カランと鉛筆を放るツチノコ。
「いいのですか?まだ1時間あるのですよ?」
「いらん。採点を頼む」
ツチノコの回答と答えを見比べる二人。
(教授・・・満点である。)
(こっちの二枚もです・・・国語に関しては作文が完璧満点を超して120点なのです)
「どうだ?」
コソコソと話す二人に問いかけるツチノコ。
「満点なのです」「である」
ニヤリと笑うツチノコ。
「これで、パスは余裕かな?」
「合格基準が200点のところお前は320点なのです・・・」
「恐れ入ったのである・・・」
「これならもう明明後日の試験でも余裕ですね」
その教授の言葉にツチノコはぎょっとする。
「あ・・・明明後日?」
「そうですよ?」
「に、試験?」
「そう言ってるのである。」
「・・・マジでぇぇぇぇえ!?」
(ツチノコの奇声が聞こえましたね・・・大丈夫かな?)
トキは本棚の前でとある小説を読んでいた。
百合成分の多い小説だった。
「・・・この後、どうなるんですかね?」
小説の文字に目をやるトキ。そこには、衝撃の内容が記されていた。
ベッドでキリンのフレンズを押し倒すオオカミのフレンズ。
「あの・・・出来れば優しく・・・」
キリンが言う。
「はぁ・・・はぁ・・・無理だ・・・抑えられそうにない・・・」
と、息を荒くするオオカミ。
そして・・・パタン。
「ダメよトキ。こんないかがわしい物を読んではいけません。」
続きが気になる、という感情を押し殺し、本を閉じるトキ。
この十日間ほどで、トキは着々とそっち方向に洗脳されていた。どこぞのフクロウが勧めてくる本は全部こんな感じだが、何故か読み入ってしまう。いつの間にか二人のチョイスに絶対の信頼を置いていた。自分では気が付かなかったが。
「大体、こんなもの図書館に置いてあっていいのかしら・・・」
はぁ、とため息をつく。
「あぁ・・・綺麗な恋愛したいですねぇ・・・」
「そうですか・・・お相手は?」
「それは、運命の人みたいな・・・例えば、ツチ・・・って、え?」
「聞いてたですよ?」「である」
いつの間にか例のお二人に聞かれていた。フレンズ化前の特性で、音もなく忍び寄ることが出来るのだ。
「それより・・・ツチ・・・なんですか?」
ニヤニヤ、と二人は口元を抑えながらトキに言葉を投げる。
「な ん で も ! ないですっ!!///」
「そうであるか・・・なんかあれば協力してやろうと思ったのに、残念である」
「残念でしたっ!そんな協力は求めたりしませーん!」
「まぁ、それは置いといて、報告なのです」
二人は、トキにツチノコの模試について、合格が容易そうな件について話した。
「それは良かったです!それなら、ついでですしツチノコのお仕事も一緒に探すことにします!」
「それが良いのです。ですが、割とパークパトロールは二人とも向いていると思うのです」
「お前がツチノコを持ち上げて飛び、ツチノコがピット器官で索敵。なんて、さいきょーコンビなのである」
「さいきょーコンビ・・・えへへ、そうですか?」
(もうダメですねこれは。相当ディープでシリアスになってきたのです)
(ですが?)
((それでいい!))
「頑張るのです、応援しているのです」「である」
そう言って、静かに去っていく二人とツチノコがすれ違いでやってきた。
「話を聞きましたよ!すごいですね!?」
「へへっ、そうか?」
照れくさそうにするツチノコ。どこか胸の奥で不思議な何かを感じる。
「さ、お風呂でも入って帰りますか?」
「そうだな?」
銭湯。もう既に慣れ、お互い裸でいることも恥ずかしくは無くなったが流石に凝視は出来ない。
背中の流し合い、ツチノコによる羽マッサージはお決まりになった。
「はぁ~。やっぱりツチノコにしてもらう羽マッサージは最高ですね~」
「はは、毎回言ってないか?ソレ」モミモミ
こんなやり取りもおなじみになり、ツチノコはのぼせないよう短時間湯船に浸かり、ベンチに腰掛け二人で話す。
「とうとう明明後日ですか・・・そんなに経ってないですけど」
「そうだな?まだあの夜から2週間ぐらいだって。信じられるか?」
「あっという間だったような・・・とっても長かったような・・・」
「違いないな」
そんな話をしながら、家に帰ってご飯を食べて、二人で寝る。そして二人で起きる。
ずっとこんな暮らしが出来ればいいのに。
気が付けば、そんな感情がトキの中で芽生えた。
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