第9話 初めての生家

 せいか【生家】

 ① その人の生まれた家。

 ② 実家。さと。



「さーて!お昼リクエストある人っ!」


「おまかせだな」


「右に同じです」


「なんだぁノリ悪いなぁ・・・」


 ナウが正式なツチノコの担当になって数分。

「お昼を奢る」と言いつつ三人で話をしたいだけのナウは何を食べに行くか決めかねていた。


「じゃあツチノコちゃんは地上に来てから何食べた?」


「肉まん・・・ジャパまん・・・と、ラーメン」


「やたら中華推しだね」


「たまたまです」


「じゃあなんでもいいようにファミレスにでも行こっか」


「賛成です!」


「ふぁみれす?とりあえず賛成だ」


「決定!」


 ナウ御一行は近場のファミレスに向かう。

 途中、他愛もない話や昨日のデート(?)についての話もした。そして・・・



「とうっちゃーっく!」


「「わー」」パチパチ


(ノリがいいのか悪いのか・・・)


 店内に入り、勧められた席でメニューを開く。


「トキ・・・どれがおすすめだ?全然何が何だかわからん」


「そうですね・・・この『激辛!麻婆豆腐』なんてどうですか?」


「やめとく・・・」


「賢明な判断だよツチノコちゃん、トキちゃんに食についておすすめを聞いてはいけない」


「なんですかソレ!?ひどいです!」


「だって全部『激辛』とか『唐辛子たっぷり』とか『辛さLv5』とか書いてあるんだもん・・・」


 トキは無類の激辛好きである。しかし、残念ながら歌声が酷いのはフレンズ化以前の特性なので激辛のせいではない。よって激辛をやめてもどうにもならない。


「おいしいのに・・・むぅ・・・」


「トキちゃん、食の好みは人それぞれ。むしろトキちゃんの好みは相当特集だよぉ」


「ちなみに、ナウの・・・ナウさんのおすすめは?」


「ツチノコちゃん、呼び方は好きにでいいよ?僕の方が世間的に上だけど、僕そういうのキライだからね」


「じゃあ、ナウのおすすめは?」


「うーん・・・じゃあ、お米を味わえる『唐揚げ定食』なんてどうかな?地上に出たら米は食わなきゃね、米!」


「じゃあそれで。トキはどうするんだ?」


「激辛!麻婆豆腐ですね」


「ヒエッ・・・みんな決まったね?店員さん呼ぶよ」ピンポーン


 店員が来て、注文をし、料理の到着を待つ。


「そういや、トキちゃん仕事探しなよ?昨日話したばっかだけど」


「ふっふっふ。実はもう、一つだけ候補を見つけてあるのです」


「え!?早いね?なんの仕事?」


「パークパトロールです」


「何だそれ?」


「えっとですね・・・」


「僕が説明しましょう!」


 午前中准教授が言っていたこととほぼ同じことをナウがツチノコに説明する。


「なるほど・・・で、トキはそれを候補の一つにしていると」


「実質それだけですが」


「いんじゃん?トキちゃん正義感強いし。ただ・・・」


「ただ?」


「・・・いや。何でもない。大したことじゃないよ、きっとトキちゃんなら大丈夫」


「そ、そうですか・・・」


 料理が運ばれてくる。丁寧に、三つ全て同時だ。


「じゃ・・・」


「「「いただきます!」」」


「ところで、ナウさんのなんですかそれ?」


「何?普通にステーキだけど」


「いや・・・普通じゃなくてそれ1キロくらいあるんじゃ・・・」


 ナウの元の鉄板にはファミレスで出していいのか疑問なレベルのサイズの牛肉。


「これぐらいは食べるよーおいしっ」

「それよりトキちゃんの相変わらずやばい見た目と匂いしてるね。うん。やばい」


「これぐらい普通ですよ~」

「ん~そこまで辛くないですね」


(なんだ?これ私がおかしいのか?なんでコイツらこんな一癖も二癖もあるような食癖してるんだ?)

(しかもあたかも普通みたいな話し方してるぞ?やべぇよ・・・やべぇよ・・・)


「ツチノコちゃんおいしい?」


「あ、おう。おいしいぞ」


「それはねー唐揚げってその茶色っぽいのと白いつぶつぶを一緒に掻き込むのが美味いんだよ」


「こうか?」ガツガツ


「そうそう!いい食べっぷりだね」



 ~ご飯終了~



「で、君達この後どーするんだい?」


「そですね、どうします?ツチノコ」


「ここの所付き合ってもらいっぱなしだったから、トキのしたいこととか・・・」


「ん~。あ!そしたら昨日話してたツチノコの洞窟に行くってのは?」


「別にいいけど・・・面白い場所じゃないからな?」


「あ!それ僕も行きたい!飼育員として知っておきたいからね!」


「じゃあ三人で行きましょうか。」





 2時間ほど歩いて。やっとの思いで洞窟まで辿り着いた三人。


「「ここ?」」


「ここ。」


 光がある程度差し込んではいるが、中は真っ暗といっても差し支えない程だった。そして何故か美味しそうな匂いがするわ、


「あの・・・なんにも見えないんですが・・・」


「そんなもんか?」


「懐中電灯あったっけ・・・」

「お、みっ~け!」


 ゴソゴソとナウがカバンをあさり、中から筒状のものを取り出してカチッとボタンを押し、パッと明かりがつく。


「おお・・・すごい安心感ですね」


「こっちに私の元寝床が・・・」


 結構な距離ツチノコに付いて歩いた。途中、分かれ道を何度も通った。


「ツチノコ・・・ひょっとして全部覚えてるんですか?」


「そうだぞ」


「あははっ、すごいねぇ!ツチノコちゃん」


「ついたぞ?」


 そこには、どこからか拾ってきたのであろうバケツと絨毯、そして例の二胡が置いてあった。


「おお!?二胡じゃん!ツチノコちゃんの?」


「落ちてたのを拾ったんだ」


「へぇ?使えるかな?」


「え・・・出来るんですか?」


「偉いからね」ドヤァ


((関係あるのか・・・?))


 近くの岩に腰掛け、慣れた手つきで二胡を構える。そして・・・


「トキちゃん、なんか歌って?控えめに」


「はい?では・・・」


「ドはドリルのド~~♪レはレインボーのレ~♪ミはみどりのミ~~~♪」


 トキの歌に合わせてナウが二胡を弾く。思わずツチノコが歓声をあげる。


「おぉー!すごいな?それ!」


「こうやって使うものだよ!」


「ナウさんがやってたのってアコーディオンじゃないんですか?」


「僕は色々楽器やってるからねぇ・・・トキちゃんの担当してた頃はアコーディオンにハマってた」

「まだ他にも色々やったね、今はオカリナやってる」


「す・・・すごいですね・・・」


 ツチノコがそれを聞いて目を輝かせている。そして、ナウに言い寄る。


「今度っ!今度なんか教えてくれ!」


「えっ?別にいいよ?じゃあ今度またウチに来なよ、パス手に入れたら」


「やった!」


「そんな気に入ったんですか?ツチノコ」


「ああ!」


「それは良かった!趣味があると人生楽しいぞぉ~?ツチノコちゃん♪」

「で、そろそろ本格的に暗くなっちゃうし、帰ろっか」


 腕時計を確認してナウが言う。


「そうですね、また来ましょう」


「・・・いや、もう来なくていいさ。こんな寂しいトコ、用事はねぇよ」


 二胡とバケツを手にし、ツチノコが言った。


「それは?」


「思い出・・・かな?一応持って帰ろうと」


「いいですね!そうしましょう!」


「さ、帰ろっ?」


「「はーい!」」





 外に出て、挨拶を交わす。


「僕、ここ降りた辺りに家があるから別れるよ、じゃあね!」

「仲良くやりなよ!トキちゃんは就職!ツチノコちゃんはパス取得頑張ってね!」


「さよならー!」「またなー!」


 そう言って、ナウは森に入っていきすぐに見えなくなった。


「さ、私達は飛んで帰りますか。」


「大丈夫か?色々持ってるぞ?」


「まぁ、最悪途中まででも・・・」


「それもそうか。よろしく頼むぞ?」


「おまかせあれ!」


 そうして、二人は夕暮れ空に飛び立った。

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