第8話 改めての担当さん
たんとう【担当】
第4話参照。
ガチャリ。
鍵を開けて、扉を開ける。
開けば見慣れた私の部屋・・・だったが、
「おかえりぃ~」
栗色の髪。飼育員のジャケット。ねっとり、かつ元気のある口調。昨日も来た、トキの担当飼育員、自称結構偉い人ことナウさんである。
「た・・・ただいま?」
「ごみんにぃ、勝手に上がらせてもらったよ」
「・・・どうやって?」
ナウさんはポッケから光るものを取り出す。
「僕はトキちゃんの担当だから部屋の合鍵があるのさぁ」
それを指でくるくると回して見せる。
「初耳です・・・」
「時々夜中に入ってトキちゃんうふふってしてたの気づいた?」
「えぇ!?そんなことしてたんですか!?それセクハラですよ!」
「冗談だよぉ~?」
「で、ですよね・・・」
焦った。まさかナウさんに限ってそんなこと・・・
あれ?わりとしてそう?
「ほんとに冗談ですか?」
「冗談だってぇ!まぁ、トキちゃんが私と暮らしてた頃はよくやったけどね、懐かしいなぁ」
「・・・あの、何の用なんだ?」
それまで黙っていたツチノコが口を開いた。
「そうそう、君の件だよツチノコちゃん!」
「正式に決まったよ、OKだとさ。今から、手続きがあるんだけど、来てくんないとできないのさぁ。それして、僕が正式に君の担当飼育員」
「あ・・・ありがとうございます」
「トキちゃんも来る?」
「あ、行きます行きます!って言うか、本当に簡単に行きましたね?」
「偉いからね」ドヤァ
「・・・どのくらい?」
彼女は指を折って数え始め、割とすぐそれは終わって、こう言った。
「飼育員では5番目。パークで言うと大体30番くらいかな?」
((本当に偉いなこの人・・・))
「ほらほら、偉いナウさんに付いてくるがよぉーい!」
「「はーい」」
そう言って、三人で家を出る。
「おー・・・懐かしい建物ですね」
連れてこられたのは真っ白真四角の豆腐の様な建物。入り口がひとつあるのみで、窓すら見当たらない。
「トキは来たことあるのか?」
「私も手続きの時ここに来ましたよね?ナウさん」
「そだねー。っていうかよく覚えてるね?あの頃は『THE アホの子』みたいだったねトキちゃん」
ツチノコが意外そうな顔で尋ねてくる。
「そうなのか?」
「・・・そう・・・ですね。頭は良くなかったです」
「自立した途端に今みたいになったよねぇ?あの頃のトキちゃんも好きだったんだけどなぁ」
ナウの言葉に、トキはカァッと顔を赤くする。
「さ、手続きだよ」
扉を開けて中に入る。ナウさんがふんぞり返っているおじさんに何やら話しかけ、一枚の紙を受け取る。
「ツチノコちゃーん。色々君についておせーて?紙に書くから」
「あの・・・私、自分で書けるんだが・・・」
「はぇーマジで?すごいねぇ、覚えるのとっても速いじゃん」
「でもこれ、僕が書かなきゃいけないんだよね、ごめんね?」
「あ、いえいえ・・・」
「じゃあ生い立ちからどうぞ」
ツチノコは、自分の一番最初の記憶から洞窟での暮らし、外に出てからなど色々なことを語った。
「・・・で、今だ」
「なかなか濃厚なストーリーだったねぇ・・・水に薄めて飲めるくらいにしたら5リットルはあるな」
「なんですかその例え・・・っていうか、ツチノコそんな暮らししてたんですか?未だに聞いてなかったんですが」
「ああ・・・そうさ」
ツチノコは声のトーンを落としてぽつぽつと語った。
「水は自分で何とかする、暗い中生きるためだけに生活してた。今思えばとっても寂しかったさ・・・。幸せなんてそんな余裕は無かった」
「でもさ、トキは言ってくれたよな・・・「私はツチノコを幸せにしてあげたい」、「私はあなたにもう暗い顔をして欲しくない」って・・・」
スッと顔を上げたツチノコと目が合う。
「嬉しかったよ?親友」
ニカッとツチノコが笑う。多少笑うことはあってもここまでの笑顔は初めて見た。
「えへへ・・・そう言ってもらえると嬉しいですね?」
「・・・コホン。僕もいるんだけどなぁ?」
「えっ!?あっごめんなさい!」
「あああ!?これはだな!?あの・・・な!」
二人して取り乱す。それを頬杖をついて眺めていたナウがクスクスと笑い出す。
「フフフ、仲良さそうで何よりだよぉ。おなかいっぱいです」
「あんまりそういう話を人前で話すんじゃないよ?」
「「はい・・・」」
ナウさんがコツンと鉛筆を置く。紙を持ち上げて、眺め始める。やがて、真剣な顔でこう言った。
「さて、ツチノコちゃん。真面目な話、これを提出しちゃえば君はもうパークの一員。言い方は悪いけど、人間の見世物になるわけだ。もう元の生活には戻れない。それでも・・・」
「トキちゃんや、僕、他のパークのフレンズと一緒に、この社会縛られて楽しく生きるかい?」
トキはその光景をとても懐かしく思った。かつて自分もされた質問だ。その時自分はとても迷った。それまで、野生に生きてきたのに急にもう戻れないと突きつけられるのはとても困惑することだ。
しかし、そんなトキの思いを余所に、ツチノコは即答した。
「当然だ。トキに幸せにしてもらわなきゃいけないんでな」
「ん、いい返事だなぁ!よし、じゃあ改めてこれからもよろしくっ!」
二人が握手を交わす。
やがて、それをやめハグをしようとした時、唐突にナウが言った。
「ホラ、トキちゃんも交じりなよぉ!」グイッ
ぎゅっ。
三人で抱き合う。それぞれ顔を見合わせ、ニコリと微笑む。やけに照れくさかったが、特に気にしないことにした。
「よし、今日はこのナウさんがお昼を奢ってあげよう!付いてきなさぁい!」
「「はーい!」」
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