第3話 初めての授業
じゅぎょう【授業】
学校などで、学問などを教えること。
トッ。軽やかに着地するツチノコ。
「大丈夫か?」
「ヴっ」ドサッ
「・・・」(言わんこっちゃない)
トキは力が強いわけではない。
人ひとり両手だけで持ち上げて空を飛ぶというのはなかなか辛いのだろう。もっと楽になれば良いのだが、そうもいかない。トキは逆に長距離歩くのは苦手なのだろう、元が鳥なのだから。しかし、あまり負担はかけたくないものだ。
「イタタ・・・ツチノコ、行きましょう」
「あの・・・大丈夫か?」
「・・・わりとダメです」
「帰りは歩こうな?」
「そうですね・・・すみません。ふぇぇ」
「あの・・・無理はするなよ?お前が・・・その・・・辛い思いをするのは・・・ぃゃ」
ツチノコはフードを深く被っているが、真っ赤になった頬は隠しきれていなかった。
「は、ハイ!そうですね・・・えへへ」
なぜだろう。多分、今私もまっかっか。ドキドキする。不思議。
「どうした?どっか打ったか?」
「い、いえ!行きましょう行きましょう!もうわりと近いですから!」
なぜだろう・・・
「「じゃーんけーん」」
「「ポンっ!」」
二人の瓜二つな少女。
「パーです。私の勝ちですね、准教授」
白い方の言葉に茶色の方は自分の手を見つめる。
「グー・・・。仕方ないのである、今回は教授に譲るのである」
白い方が、にやりと笑う。
「ここが図書館ですよ、ツチノコ!」
「でかいな・・・」
その時、後ろから音もなく飛来する二つの影。
㌧㌧
「ひゃ!?誰だ?」
肩を叩かれ振り向くツチノコ。
そして・・・
ぷにっ。
頬をつつく白い服の小柄なフレンズ。
「~~~!?!?/////」
「あはははははははははは!」
急に笑い転げる白い服の少女。後ろに立っていた茶色の方も笑いを必死に堪えているようだ。
「ククク・・・やっぱり教授はお上手である・・・フフフッ」
「あーっ!まだ教授達それやってるんですか!?」
「だって・・・だって・・・面白くてやめられないのですよ、トキ」
「コホンッ」と咳払いをして彼女たちは横に並び、自己紹介を始める。
「アフリカオオコノハズクの、教授です」
「准教授の、ワシミミズクである!」
この二人が、トキの言っていた教授と准教授のようだ。二人とも、色はちがうが見た目はそっくりだ。
「さて、お前は誰ですか?見たことのないフレンズなのです」
「ツチノコだ」
「ツチノコ!?未確認生命体のフレンズであるか!?とても興味深いのである!」
「待つのです准教授。興味深いのはわかりますが」
「して、お前らは何を知りたくてココに来たのですか?」
「詳しい事情は長くなりますが・・・ツチノコにパス取得のための勉強を教えてあげて欲しくて」
「・・・中に入るのです。詳しく聞かせてもらうのです」
~説明中~
「・・・なるほど大体理解したのです」「である」
トキは二日前の夜にツチノコと出会ったところからここに来た経緯まですべてを話した。ツチノコは自身のそれまでを説明した。
「お願いしますよ、教授、准教授。ツチノコに授業をしてあげてください」
(教授、どうするのである?)
(・・・正直面倒ですが、「ツチノコ」という動物について知るのに良い機会です。これも仕事の内、特別に受けてやりましょう)
「とりあえず、授業云々の前にお前がどんな動物かを我々は知りたいのです。それが済んだら授業にしましょう」
「本当ですか?やりましたね、ツチノコ!」
「ぁりがとうございます・・・」
ツチノコはごにょごにょと返事をする。それに続けて、トキは手を挙げてハキハキと話す。
「教授達、少しお話があります。いいですか?」
「どうぞ?」
トコトコとコノハ教授の方に近寄り、耳元でトキがこそりと話す。
(ツチノコって、そういうわけであんまり人と関わってこなかったんで、あんまり話すのが得意じゃないんです。ご迷惑かと思いますが、お願いします)
(承知ですよ、トキ。任せるのです)(である)
「ありがとうございます!」
「それではツチノコ、こっちの部屋に来るである。今日から開始するである」
「・・・」ブルブル
「そんなに緊張しなくて良いのです。何も取って食ったりはしないのです。」
「頑張ってくださいね、ツチノコ!」
スタスタ、バタン。
ツチノコを連れて二人が部屋に入る。
(大丈夫かな~ツチノコ。)
(私は、本でも読んでますかね?)
たまたま目の前にあった棚の『空を一緒に飛びたい』という本を手に取り、部屋の前のベンチに腰掛ける。
「さて、ツチノコ。まずは身体検査です」
「服を脱ぐである」
「んなっ!?」
准教授が肩を抑え、教授がチャックを下ろす。
慣れた手つきで下着もすべて取り払われ、一糸まとわぬ姿になる。
「ななな何すんだ!?し、しゃー!!」
「おお、こわいのである」
「ふむ・・・なかなかなのです。トキにはいつみせるのですか?」
「っ/////!?!?」
「まぁ、尻尾以外は普通のヒトですね。もういいのです」
「服を着るのである」
サッサッ スッスッ チィーーッ ボフッ
下着を着て、フードに袖を通し、チャックを閉めてフードを下ろす。わずか15秒もかからぬ早業であった。
「速いのです・・・」
「そんなに嫌だったであるか?勉強を教えてやるので、許すのである」
「・・・よろしく頼む」
しかし、この出来事のおかげでツチノコは二人と随分馴染み、わずか3時間の内に平仮名の読み書きと足し算引き算を習得してその日の授業は終了した。
ガチャ
「あら、終わりましたか?」
本を開いたままトキが呼びかける。
「今日はここまでです。ツチノコという動物は学習能力がとても高いようですね?」
「そうなんですよ!ツチノコってとっても頭いいんですよ!」
「お?トキ、その小説を読んでいるのであるか?」
「え?はい、素敵なお話ですよね。まだ途中ですけど」
「そうですね、我々の厳選コレクションの中でも特にお気に入りなのです。百合百合しさがたまりませんね」
「最高である」
「そうですね?とってもおもしろいです」(百合百合しい?)
教授と准教授の間に何かが走った。アイコンタクトをとり、教授がトキに話しかける。
「ところでトキ。ちょいと今後の話を」
「ツチノコは少し待っているのである」
「え?え?」
「いいから入るのです」
バタン。
「・・・?」
ツチノコは不思議だったが、深く考えずにベンチに腰掛けた。
「さて・・・トキ。」
「どこまでツチノコといったのですか?」
「・・・?」
いった?何のことだろう?
「教授、早とちりってやつである。まだ出会って二日と言っていたである。」
「質問を変えるである。いつ食べるのであるか?」
「・・・食べる?」
トキは少し考え込む。食べる?食べる・・・たべる・・・タベル・・・
(准教授こそ、もっと先をいった質問なのです)
(でも、気になるである)
数十秒して、トキは理解した。と同時に、顔を赤く染め早口で喋り始める。
「えぇぇぇえ!?!?私たちそんな関係じゃないです!親友!親友ですぅ!」
「・・・美味しそうな体だったですよ?」
「いやいやいやいや!?だからそんなんじゃ・・・って見たんですか!?」
「身体検査なのである。変なことはしてないのである」
「なんですか、お前もノンケなのですか?あんな百合っ百合した本を読んでいるので、我々と同族だと思ったのです」
「全く、ガッカリなのである」
二人はさも残念そうにしている。
「もう!私達は帰りますよ!」
「あ、待つのである」
「真面目な話もあるのです」
「・・・?」
「彼女、とても賢いのでパス取得は簡単そうです」
「我々が二日に一回、3時間みっちり教え込んでやるのである」
「そういうわけですが・・・彼女、今まで一人でしたから心のケアをちゃんとしてやらないといけないのです」
「その辺お前がしっかりしてやるである。」
「あと、我々はお前達のそっちへの発展を密かに期待してるのである」
ボソッ、と付け加える教授に怒りながらトキが立ち上がる。
「もぉ〜!本当にもう帰りますからね!」
ガチャ!バタンッ!
「楽しみですね、准教授」
「であるな、教授」
「教授達、なんだって?」
「二日に一回ここに来い、だそうです!」プリプリ
「・・・なんか怒ってるか?」
「何でもないです!帰りますよ!」
「・・・?」
そして外に出て、アパートに向かって歩き出す。空はもう暗く、月が綺麗だった。
㌧㌧
「どなたですか?」クルッ
ぷにっ。
そこにはいたずらな笑顔を浮かべた准教授。
「もー!何なんですか!?まだ何か!?」
「送ってやるのです」
「もう暗いし、夜道は危険なのですよ」
「ヒトのオスに狙われるのです」
そう言って、二人はツチノコの両手に手を回す。
「さ、行くですよ」
「トキ、お前は自分で飛ぶである」
「わかりましたっ!」
ムッとした顔でトキが返す。
二人に送ってもらうと、あっという間に家まで着いた。
「それではまた明後日、図書館に来るのです。みっちりしっかり教えてやるですよ」
「我々の授業を受けれること、感謝するである。なんたって」
「「我々は聡明ですから」」
「・・・ありがとう教授。准教授。また・・・よろしくな」
「・・・ありがとうございました」
ツチノコは尻尾を振りながら、トキはムスッとしながら、二人を見送る。
バタン。カチャ
ドアを閉め、鍵をかける。
「あー、今日は疲れたな」
「お疲れ様です、ツチノコ」
ボスッとベッドに倒れ込むツチノコ。
「ふぁぁ・・・おや・・・すみ」
「あれ、寝ちゃうんですか?ご飯は?」
「スー・・・スー・・・」
「寝てる・・・」
ツチノコの横に倒れ込み彼女の寝顔に向かいあう。
「・・・」
「スー・・・スー・・・」
「・・・//」カァァァ
なんだか、猛烈に恥ずかしくなってきて、思わず寝返りをうち逆を向いてしまう。
(もう・・・教授達が変なこと言うから・・・)
その夜は、なかなか眠れなかった。
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