第2話 初めての勉強
べんきょう【勉強】
① 学問や技芸を学ぶこと。学習。
② ある目的のための修業や経験をすること。
③ (商人が)商品の値段を安くして売ること。
④ 物事にはげむこと。努力すること。
「ふぁぁ・・・」
あくびと共に目を開ければ白い天井。朝日を受けて綺麗な桃色になっているカーテン。見慣れた自分の部屋。しかし、横を向いて見れば見慣れぬ茶色のフード。 正確にはそれを被った少女。考えてみれば不思議なことだ。夜道で出会ったアニマルガールと、小さな部屋に二人で暮らしている。
「ツチノコ?朝ですよ?」
声をかけてみるが答えは返ってこない。規則正しい寝息を立て続けている。
「ふふ・・・流石に疲れが溜まってますかね?」
「さて・・・昨日はツチノコに色々教えるとか言っちゃっいましたが、それより先に考えることが沢山あるんですよねぇ・・・」
ふと、部屋の隅のメモ帳とペンが目に入った。
「そうだ!書きだしてみましょう!」
座布団に座り、ちゃぶ台に向かう。
「うーん・・・ここも考えなくちゃ・・・あっ!ってことはそんな問題も!?」
ぶつぶつ言いながら書き上げた紙の内容はこうだ。
☆☆☆
ツチノコがジャパリパークで生活できるために
家問題→うちに住めばいい!解決!
食料→今の所は私とシェア。働かなくちゃかな?
お金→働く他ない。でもツチノコはパークになれる方が先?保留。
フレンズパス取得→私が教える?スクールに通う?ツチノコにスクールは難しいのでは?
担当飼育員さん→
☆☆☆
「難しいですね~」
かれこれ十五分ほど紙面とにらめっこしていた。時計を見れば7時23分。そろそろ朝のジャパまんが配られ始める頃である。
「ツチノコはまだ寝ている様ですし、朝ごはん貰ってきましょうか」
ツチノコには書き置きをして、玄関を出る。
昨日とは打って変わっての快晴だ。
階段を降りた一階の玄関ロビーには、ジャパまんが籠に山盛り置いてある。数は一人二つまでと決まっており、入居者分ぴったりしかないので、ツチノコの分は取って行けない。なかなか深刻な問題であると実感させられた。
「むむむ~。これは厳しくなりそうですね・・・」
ツチノコは残念ながら入居者ではない。正式な手続きをしていないので当然だが、彼女が入居をしていない、もといできない理由があった。
「本人にここは真っ先に説明しなきゃ・・・」
部屋に戻ってきた。
「ツチノコ~?起きましたか~?」
ガチャ、とドアを開ける。そこには、正座して涙目のツチノコがいた。
「わわわ、どうしましたツチノコ!?」
「トキ・・・。よかった・・・戻ってきてくれた・・・」
「えぇ?」
近づくと正座のまま彼女は膝に抱きついてくる。グスグスと泣きながら、弱々しく喋る彼女。
「私を置いてっちゃったかと思った・・・」
「置いていくも何もここに書き置きが・・・。あっ」
そうでした。ツチノコは文字が読めなかったですね。
「あはは、ツチノコを置いてどっかいったりはしませんよ?ツチノコは心配屋さんですね?」
自分も正座し、抱きしめてあげる。一昨日の夜のように、昨日のコンビニの外のように。
「だって・・・だって・・・」
「はいはい、大丈夫ですよー。ほら、鼻水拭いて。朝ごはんを貰ってきたんですよ?」
ツチノコはティッシュを受け取り顔を綺麗にする。
「・・・見苦しいところを見せたな。すまない・・・」
顔を赤らめてそう言ってきた。
「そんな不安だったんですか?あ、これジャパまん。美味しいですよ?」
貰ってきた一つを手渡す。
「ジャパまん?見た目も名前も肉まんに似てるな?」
「そういえばそうですね~。」ハム
「とりあえず貰うぞ?」パク
〜もぐもぐタイム~
「美味かった・・・味は肉まんとはちがうがこいつもなかなか・・・」
「お気に召したならよかったです。普段はこれを食べて暮らしますからね?」
「そうだ!暮らすで思い出した!今日はパークについていろいろ教えてくれるんだよな?」
「そうですね!長くなりますし、もう始めてしまいましょう!」
「まずパークで生活するのに必要なのは『一般アニマルガール証明証』です。簡単に『フレンズパス』とも呼ぶ場合がありますね。これが無いと、普通は飼育員さんの所で生活しなければなりません。こんなのです」
トキは内ポケットから自分の顔写真が貼られたカードを取り出した。
「ほうほう」
「手に入れるには、三つの手段があります。一つはスクールを卒業する、もしくはつーしんきょーいく?を受ける。スクールと言うのは、これを手に入れるためのお勉強をフレンズさん達で集まってする所です。長い間通うと、パスが貰えます。後者に関しては・・・ちょっとよくわからないです」
「二つ目は、適性テストを受けて合格することです。問題を出されて、それを決まった数正解出来ればフレンズパスが貰えます」
「三つ目は・・・パークの偉い人から直接作ってもらうことです。特別な事情の場合のみ可能なんですが・・・残念ながらツチノコは無理ですね、実質二つです」
「うーん・・・すくーる?とやらは多分私には無理だ。多分他のフレンズと馴染めない」
トキも、正直なところそう思っていた。スクールは、大抵フレンズ化したばかりの子達が通うところだ。トキはスクールに通ったが、おそらく長い事一人の生活をしてきて人と話すのが苦手なツチノコには難しいだろう。
「ですかね・・・そしてつーしんきょーいくとやらはお金がかかるそうなのでごめんなさい、不可能に近いです」
「となると・・・てすと?か」
「そうですね~。私が教えてあげたいですが、残念ながら私はスクールの成績が良くなかったので・・・知り合いに、とってもアタマのいい二人組がいるんです。その人達に会ってみませんか?いい人達ですから、きっとツチノコも馴染めると思いますよ?」
「うーん・・・そうしてもらう他ないか・・・ちなみに、なんて奴らなんだ?」
「コノハ教授とミミ准教授です。ジャパリ図書館と言うところで、フレンズ達のわからないことを教えてくれるんですよ」
「きょーじゅ?とやらはなんだ?名前か?」
「いや・・・ヒトの頭がいい人をそう呼ぶことがあるらしいので、みんなそうやって呼ぶんですよ」
「ほう・・・なるほど」
「まぁそれは置いといて、フレンズパスが無いとお仕事も出来ませんしお家も住めません。ツチノコの場合、寝床はここを使えばいいので問題無いですが、ご飯が貰えないんですね。さっきのは私の半分です」
「ああ!?そうだったのか!?悪いことをした・・・」
「いや、私は元々あまり食べないのでそんな苦でもないですが・・・長引くと体に悪そうなので、早急に解決したいですね」
「すまん・・・」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
トキは微笑んでみせるがツチノコは申し訳なさそうにしている、トキは話題を変えようと試みる。
「そういえば、さっき仕事といいましたが、仕事について説明しましょう」
「仕事とは、一般的にお金を得る手段です。」
「肉まんと交換したやつだな?」
「そうです。ちなみに肉まんと交換したではなくお金の場合「買った」と言います」
「仕事には色んな種類があり、人にものを売る・・・相手からお金を貰い、自分は品物を渡す仕事や、人を救ける仕事、世の中を良くするための集まりに貢献する仕事など・・・数え切れないほどあります。
「一番最初のは、昨日の肉まんを売ってくれた人みたいなのだな?」
「その通りですツチノコ。飲み込みが速いですねぇ?」
「そうか?」
「な、なぁ!トキは仕事してるのか?」
「私はしてませんよ?フレンズパスがあればジャパまんは貰えますし部屋も借りれますからお金は必要ないんです。普通は、自分の趣味・・・楽しみのためにもお金を使うんですが、歌うのは0円ですから」
「そういえば、この部屋ってどんな仕組みで住んでるんだ?普通、お金が要るってことだろ?」
「そうですね、でもココはフレンズパスがあれば無料で住ませて貰えてジャパまんも一日六個貰えるので・・・こんなふうにフレンズに優しい施設は多くありますが、大抵は最低限生きていくために貸してもらえる形ですね。もっと広いお家が欲しいとか、いろんなものが食べたいとかならお金をかけますけど、私は歌えればいいので・・・あと・・・」
「ツチノコが居れば」というのは、プレッシャーをかけてしまうだろうし、何より恥ずかしかった。どんどん身体が熱を帯びてくるのがわかる、顔も真っ赤だろう。
「どうした?大丈夫かぁ?」
「だだだ大丈夫です!///お気になさらず!」
「・・・?」
「・・・コホン。あと大事なのは担当飼育員さんですね」
「タントーシークイン?」
「要は、私フレンズのお世話をしてくれるヒトのことです。フレンズパスわ手に入れれば自立させてももらえるんですが、なにせツチノコはまだですから・・・」
「・・・トキと離れなきゃダメか?」
ツチノコとして、それは最も避けたい事態だった。しかし、トキとしてもそれは同じであった。お互い相手の気持ちは知らないが。
「う~ん・・・場合によっては有り得ますね・・・」
「私もそれは嫌なので、なんとかそうならない最善を尽くしたいですが・・・」
「でも、飼育員さんもいい人を知ってるので今度相談に乗ってもらいましょう!きっとなんとかなります!」
「次は細かいことですが・・・」
昼過ぎまでトキによるパークの説明は続いた。
ツチノコは飲み込みが速く、もうパークについての基礎知識は大体覚えてしまった。
「ふぅ、こんなところですかね?」
「よくわかった、ありがとうトキ」
「本当に速いですね、私なんて、スクールを出る頃やっと覚えたのに」
「この様子ならテスト合格は割と簡単そうですね」
「そうか?」
褒められて嬉しさのあまり尻尾をぶんぶんと振るツチノコ。ニコニコするトキ。
「さて、このあとはどうしますかね?」
「その・・・教授とやらに会ってみたい・・・」
「お?行きますか?」
「出来れば・・・歩いて」
「えー?歩くと結構ありますよ?」
「大丈夫です!もう学習しました!三度目の正直ってやつですよ!」
「信用するぞ?」
「はい!」
そして、彼女たちはジャパリ図書館に向かった・・・
「・・・」プルプル
「無理してないか?」
「ゃばいです」
「やっぱりぃぃぃ!!もう降りるぞ!?だから無理をするなと!」
「ごべんなざい・・・」
ツチノコは、デジャブを学んだ。
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