カルテ③屋根裏部屋での団らん

 チーンという音とともにエレベーターが屋根裏部屋についた。武骨なつくりの木造建築で荒々しく太い柱やら長押やらが目立つうす暗い空間に、電子的な操作パネルやら金属の配管なんかもむき出しになっている。ぷっち、みーこ、プラチナの3人はエレベーターを降りてから、目の前にさらに現れた引き戸をみんなで左右にガラッと開けた。

「よおっ、よく来たな」

人柄のよさそうな壮年期のたぬきがイケてる声でそう言った。右手でゴリゴリと音の立つコーヒー豆を挽くミルを回しながら、左手で電子タバコを吸っていた。薄暗い間接照明の、あまり広くない屋根裏部屋で円卓に腰かけて、卓の上には指しかけの軍人将棋、飲みかけのコーヒー、卓の周囲の本棚にはいろんな本がびっしり並んでいた。この人がダン・ベル空軍参謀官たぬき。通称ダン参謀であった。

「お久しぶりです参謀官殿」

「どうもです」

プラチナとぷっちが順番にあいさつした。そしてみーこがキノコソテーの包みを頭の上に掲げて、

「こんばんは!」

と明るくかわいくあいさつした。

「ははは、まあ座ってくれ。コーヒーを飲むだろ?あと稲荷寿司があるぞ」

ぷっちとみーこは目が輝いた。プラチナは、

「恐縮です参謀官殿」

とかしこまったが、目は嬉しそうだった。円卓を囲んで、ダン参謀の正面にプラチナ、プラチナの右にぷっち、左にみーこが座を占めた。

「プラチナよ、これの腕前はなまってないだろうな?」

キノコをはしでついばみながらダン参謀が四角いルービックキューブを出した。プラチナは稲荷ずしを口に放り込むとキューブを受け取って瞬く間に六面体の色を全部そろえ、そしてごっくんと稲荷ずしを飲み込んでコーヒーをすすった。ぷっちとみーこはこのプラチナの特技を初めて見たので、目を白黒させた。みーこはプラチナからキューブを受け取ると、

「種も仕掛けもないわ!感動的だね!」

と叫んで、何度もいろんな面を眺めた。窓からの星明りに照らされてキューブが神秘的に輝いている。プラチナはすました顔で、

「ぷっちもやってみようよ」

と勧めたが、ぷっちはしり込みして汗をかいた。ダン参謀官は、

「ぷっちよ、これ、次は何を指す?」

と言って、手元のスイッチをぽんぽん操作すると、円卓の上に軍人将棋の局面図が緑色の光で浮かび上がった。

「ええ?!困ったな、もう寄せられてしまう。スピード勝負だけど、うーん、4D迫撃砲兵打ち!」

「ほう!その心は?!」

「同軽装騎兵に対して同ファルコンで6筋のゴールドリーダーと4筋の突破のどちらかが…」

「お見事お見事!ちゃんと勉強しているな!」

ダン参謀は手をたたいて喜んだ。みーこは、

「つまらないな、どっちもわからない。キューブも将棋も!ぬり絵の話しようよ!」

と言ったから、みんな笑った。

ダン参謀は、

「さて、集まってもらったのは他でもない、こんな要件なのだが」

と言った。みんな、

「なんだろう?」

という顔をした。ダン参謀は、

「みんなでおやっさんを訪問だ!」

プラチナは少しズッコケた。そしてこう言った。

「お、おやっさんなら元気ですよ。...でもみんなで来てくれたら喜ぶなあ」

「それが目的だとも!」

ダン参謀が拳を握ってそう言った。

ぷっちとみーこもノリノリになってきた。ぷっちは、

「じゃあ、いろいろと訪問してから食べればよかったのに」

と言った。みんな笑った。特にダン参謀は頭をかいて笑った。

「まあ、おやっさんにはこれだよ!」

と言ってダン参謀は、薬酒のビンを本棚の上に、図書館みたいなハシゴで昇ってとった。プラチナは受け取ると、

「いいのありますね、いろんな生薬が入っていそうだ」

と、栓をとって匂いをかいだ。

「そうとも、それは味も凄いんだぞ」

ダン参謀は得意であった。みーこが、

「じゃあ早速行こうよっ」

と言ったので、みんな屋根裏部屋からエレベーターでカフェテリアに降りて、たぬきプレハブに乗り込んだ。

ぷっちがハンドルコントローラの前へ、ほかの3人はおコタツの座イスに着席して、出発進行である。砦内のガレージを、小天守のカフェテリア付近から移動し、おコタツ広間の方面も向こうに見ながら、たぬきプレハブはモンスタータイヤでガレージのスロープをおりて、飛行艇ドックに向かった。プラチナとダン参謀は向かいあって、おやっさんの近況について話した。みーこは聞きながら、へえー、という顔をした。立体駐車場みたいなスロープをおりると、目の前に防水隔壁が現れた。ぷっちは、災害用LEDランタンに手をかざすと、空中に現れた画面に向かって、

「通行許可申請、遊撃隊プレハブ車両弐、ぷっちたぬき」

と言った。すると女性らしい声で、

「通行許可申請提出、許可、隔壁開きます」

とアナウンスが響いた。

金属質な隔壁が、音を立てて少しづつ上に、シャッターが上がるように上がっていった。

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