カルテ②ダン・ベル空軍参謀官たぬきとプラチナリーダーたぬき
ふすまがなんの前触れもなくスラッと開いて、賑やかにぷっちとみーこが入ってきた。ここはおコタツ広間。ちょっとガヤついて、男女の声で談笑している。
「おっ、ひょうきん者コンビが来たぞ!」
広間に8つも置かれた長コタツのひとつに当たっていた若いたぬきが言った。広間はよくある和風の旅館の宴会場みたいな雰囲気で、ふすまの柄は唐草模様、床の間には陶器のたぬき、それぞれ長コタツの上にはたぬきの彫り物の箸立てやらテーブルコショーやらがある。
「やあ!みんな!」
とぷっちは叫び、右手でお腹を、たぬきぽんぽん!ってした。おくれてみーこもたぬきぽんぽんした。するとおコタツ広間にいた10名ほどのたぬきたちも一斉にたぬきぽんぽんした。たぬきどうしのご挨拶らしい。
ふすまを閉めたみーこは、ぽたぽたと一番奥のおコタツに駆け寄っておコタツに当たり、
「ふぅー!あったかーい!」
と満面に笑った。ぷっちもぱたぱたと駆け寄ってとなりに当たって一息ついた。2人の向かい側には、1人の精悍なたぬきがニコニコ笑って、ぷっちとみーこに番茶を急須で入れてくれた。
「ありがとう、プラチナリーダー」
みーこが言うと、ぷっちも、
「サンキュ!調子どう?」
と言った。プラチナリーダーと呼ばれた精悍なたぬきは、
「ボチボチかな。最近は訓練ばかりでさ。腕がなまるよ」
と笑った。
「それにしてもぷっちよ、お前忘れちまったのかい...」
と言いかけたプラチナリーダーを思いっきりさえぎって、
「わーかってるよ!もうすぐお前の誕生日だな!」
「ケーキ?ケーキ?!きゃハハ!」
と、ぷっちとみーこは同時に言ったから、広間に笑いのうずが巻き起こった。
強化ガラスの窓の外に、轟々と吹きすぶ暖かい風が、砦全体を揺らしている。和風の城を思わせる漆黒と白壁の天守閣が、凛と湖に浮かんでいる。6基の巨大なフロートで、湖に浮かぶ砦、たぬきたちの砦、たぬぽん城である。突然、広間の隅に置かれたレトロな壁掛けテレビがパッとついた。画面にはこれまた精悍かつ屈強そうなたぬきが映り、素晴らしいイケボでこう言った。
「俺だ、ダン・ベルだ。プラチナリーダーたぬき、いるか?」
「空軍参謀官殿!なんでありますか?!」
「おお、ぷっちたぬきもいるようだな、ちょっと参謀室まで来てもらいたい。」
何やら急ぎのようだ。みーこはつまらなそうな顔で、
「なによなによ、私はお呼びじゃないわけ?しらけちゃうわー」
と言った。
「おお、ぷっちたぬきを呼んだらみーこたぬきも当然呼んでいる!ははは!」
ダン・ベルと名乗ったアラフィフがらみのたぬきは笑っている。
広間は騒然となった。
「なんだなんだ、おい、参謀官様から急に。実戦でもあるのか?」
「ただ事じゃないのかな?」
そんな風にいぶかしがった。
「では行こうかぷっち、みーこ」
プラチナリーダーは言った。他のたぬき達は自分たちのしている話に戻った。
「行こう、プレハブで」
ぷっちが長コタツを立って、さっき入ってきたふすまの方へ向かった。プラチナリーダーとみーこもあとに続いた。ほかのたぬき達は、ワイワイと談笑を続けた。
ガレージに出て、プレハブに乗り込むと、プレハブはガレージ内を走行して小天守のカフェテリアへ向かった。ちょうどカフェテリアを閉めている所らしい。ガレージすみにプレハブを停めて、自動ドアからカフェテリアに入る3人のたぬき。
「何か買っていこう」
ぷっちたぬきがチケットを出した。砦内の作業やなんかに出るともらえるものだ。
「いらっしゃい、もう閉まるよ」
と、カフェテリアで働いてるカオルさんたぬきが言った。カワイイエプロンをして、メイドさんみたいなカチューシャをしている若いたぬきだ。民芸造りのカフェテリアには、コーヒー飲んでる砦のケースワーカーたぬきが2人、向かい合って話していた。
「今日は何がある?買ってすぐ出るから」
ぷっちが言うと、
「おう、おまえら、キノコソテーなら沢山あるぞ」
カフェテリアのマスターの親父たぬきが野太い声で言った。
「それいいわねっ!ねえねえぷっちたん、キノコがいいなっ」
「ははは、ぷっち、僕もそれがいいよ」
プラチナも言うので、それを4人前包んでもらって、ぷっちがカオルさんから受け取った。
「エレベーター借りるよ?」
プラチナが頼むと、
「おう、参謀官殿かい?」
とマスターの親父。
「ああ、なにか急ぎのようだ」
神妙にプラチナが答えると、マスターの親父とカオルさんは顔を見合わせた。
ぷっちとみーこも顔を見合わせた。3人はエレベーターの前で、マスターの親父とカオルさんに手を振って、屋根裏部屋の参謀室へ上がって行った。マスターの親父とカオルさんが見送って、ケースワーカーのたぬきたちはぼちぼちと帰っていった。
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