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深夜 帰って
なんとか泣かずに、お弁当を食べた。
部屋を暗くして
ベッドで何度体勢を変えても眠れずに
朝になって、やっと眠った。
お昼過ぎに起きて、だらだらと煙草を吸う。
今日は 休もう。
明日はもともと休みだから連休になっちゃうけど
暇な時期だから、金曜日と土曜日以外なら
うるさくは言われない。
どうせ、こうやって誰かが突然休んでも
お店はまわるようにシフトは組んであるんだし。
売上げ すごい上げてる訳でもないし
私が休んだって、お店も困らない。
自分に言い訳を重ねると、主任に電話する。
「生理痛がひどいので休みます」って伝え終えると、気がラクになった。
のんびりコーヒーをいれて、煙草に火をつける。
寝る前は、どうして
あんなに泣きたくなったんだろう。
冬人のことじゃなかった。
それは はっきりわかる。
何だったんだろう
煙を見ながら、私のなかを探してみるけど
胸のなかも頭のなかにあるものは
どれも漠然としていて、何なのかわからない。
それとも。
自分では違うって思っているだけで
やっぱり冬人がいなくて、さみしいのかな····?
冬人は、誰かと一緒にいる。
わかりきったことを、改めて考えてみても
胸のなかは疼いたり痛んだりしなかった。
それが かなしいのかな
よくわからない。
煙草を消して、またベッドに転がる。
泣きたくなったとき
感情的には、さみしい感じに似てたんだけど
そのまま またすこし
眠りに落ちた。
********
目が覚めたのは、もう夕方。
カーテンのすき間から
オレンジの夕暮れの色が見えた。
普段は開けることないカーテンを開けると
ベランダの窓越しに
部屋の中もオレンジに染まる。
ああ そうだ
私は夕暮れがすきだった。
ずっと忘れていたけど。
夕暮れのなかにいると、小さな頃を思い出す。
私が育ったのは、海の近くの田舎町。
夏の夕暮れは息を飲むほど美しかった。
それは、燃えるようなものではなかったけれど
ピンクやオレンジ、むらさきの色が
海の向こうに空を静かにいろどる。水彩画みたいに。
母はいつも忙しかった。
父と喫茶店をやっていたのだけど
父は母に店をまかせて、よく麻雀に出かけた。
母は東京の人だったけど
上京した父と出会って、私が生まれ
父の田舎に戻ることになった。
母の母、おばあちゃんも一緒に。
私は、おばあちゃんに育てられた。
起きて、学校から帰って寝るまで
ずっとおばあちゃんといた。
弟が生まれてしばらくすると
父は店を母にまかせて、工場に入った。
時々、父の休みの日は
母も店を早じまいして一緒にいた。
だけど、そういう時は
父の友達が何人か家に来ていて
トランプや花札をしてた。
いつも怒った顔をしていた母は
その人たちの前では笑ってて、父も笑ってた。
私は さみしかった。いつも。
おばあちゃんも弟もいたのに
やっぱりさみしかった。
母に 笑ってほしかった。私に。
今なら わかる。
若くで私を生んで、田舎に越して
父の実家の近くで暮らすのは大変だったと思う。
夕暮れを見ると
きっとかみさまがいる って、思ってた。
あの きれいなところに。
窓の向こうはもう 空気までが青い。
ほしいものは手に入らない いつも。
カーテンを閉めると、煙草に火をつけた。
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