ダブル西萩のハウダニット(解決編)
「整理しようか」
ほんの十分前にも言った台詞を僕は繰り返す。舩江たち三人は椅子に腰かけたままの僕を真剣な面持ちで見た。
「犯行時刻は午後十時二十八分。その時刻、被害者は通話をしていて、通話相手たちが被害者の悲鳴と物音を聞いている。犯行に使われたのは拳銃。それは被害者の近くに落ちていて、部屋は荒らされていた。ついでに部屋には鍵がかかっていて密室で、防犯カメラに不審な人物は無い、とこんな感じだったね?」
「はい。簡潔な説明ありがとうございます、西萩さん!」
僕は回転椅子をちょっと回して三人から視線を逸らし、人差し指をぴんと立てて推論を述べ始めた。
「ここで注目すべきなのは、音声に残されていた物音だよね。あの物音は、事件発生後にはほとんどしなかった。部屋は荒らされていたっていうのに」
「あっ、確かにそれっておかしいですよね。強盗の犯行なら、被害者を殺した後に部屋を物色するはずなのに」
「そう、それなんだよ」
くるんと椅子を一回転させて、川越くんに向き直る。
「じゃあいつ物音がしたのか考えてみよう。明日香、さっきの動画、犯行直前だけ流してもらえるかな?」
「はいっ、ただいま!」
明日香はタブレットを操作して、犯行前後の映像を流した。
サプライズをすると言って通話を離れた被害者。何かが倒れるような物音。悲鳴。銃声。そして無音。
「……物音がしたのは、銃声が聞こえる前だった?」
「その通り。犯人ともみ合った時に倒れたにしても、悲鳴一つ聞こえないのはおかしいよね?」
見回すと、三人はそれぞれで首肯したりしてそれを肯定していた。
「部屋は密室で、防犯カメラに不審な人物は映っていなかった。そこで犯行直前の彼女の言動を思い出してみよう」
『私、アサちゃんがトップ3に入ったらサプライズをしようと思っててさ!』
僕の言いたいことに思い至ったのか、舩江はさっと顔を青ざめさせた。
「まさか――被害者はサプライズで自殺したっていうのか?」
「正確にはちょっと違うかもね。完全に自殺だとしたら、自分で部屋を荒らす意味が分からないし」
そう、部屋を荒らしたのは彼女自身だったのだ。彼女は通話を離れた直後、自分の部屋を物取りの犯行のように見せかけて荒らし、それから自分で引き金を引いた。彼女にそんな奇特な行為をするような自殺願望がないとすれば、答えは一つ。
「彼女、誰かに嵌められたんだろうね。まあ具体的には縁くんの差し金で動いた誰かに」
「嵌められた……っていうと、もしかして銃の中身は空だと思わされていた、とかですか?」
「多分それだろうね。通常なら引き金とグリップに彼女の指紋が残って自殺だって警察もすぐに分かるはず。そこで彼女がしていた手袋だ」
明日香はパンと手を叩いて合点がいった顔をした。
「なるほど! 犯人は彼女が家で手袋をしていたのを知っていて、指紋が残らないってことも分かっていたってことですね!?」
「そういうこと。まあ、今回の真相はこんなものかな。全部ただの推測だけど」
僕の推理を聞いていた三人は、三者三様に緊張が切れたような仕草をしていた。僕は一応ではあるが推理が完了したことに嬉しくなって、椅子から飛び降りるようにして立ち上がり、るんるん気分で事務所から出ていこうとした。
「おい待て西萩。どこに行くつもりだ」
「え? 縁くんの家だけど?」
きょとんとした顔で僕は舩江を振り返る。そうして、今まで秘密にしていた僕にとってのメリットを暴露してあげたのだ。
「この事件の推理が合ってたら、縁くんのこと、一発手加減なしにぶん殴っていいんだってさ!」
にっこりと笑った僕に、三人は言葉を失っているようだった。僕はそんな三人にひらりと手を振ると、事務所のドアを開けて軽くスキップをしながら縁くんの家に向かっていった。
「じゃあ、いってきまーす!」
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