人でなし西萩の誘拐
そういえばさ舩江。誘拐って怖いよね。
え、そんな突然何言ってんだって顔しないでよ。ほらこの前妖怪たちの失踪事件があったばっかりじゃない? それで思い出したんだけどさ、僕、小さい頃に誘拐されかけたことがあるんだよね。興味ない? まあまあ、どうせ暇なんだからBGMだと思って聞いてみてよ。
僕、昔は女の子と間違われるぐらい可愛かったんだよ。今もその名残が残ってるでしょ? え? 残ってない? そんなあ。
それで、実は親も男の子じゃなくて女の子がほしかったみたいで、女の子みたいに可愛かった僕はよく女の子みたいな恰好させれて、公園とか裏山とかに行ってたんだよ。
あれは小学校に上がる前ぐらいだから、ちょうど僕が六歳の頃だったかな。いつも通り公園で遊んでた僕は、知らないおじさんに声をかけられたんだ。おじさんが言うには、一緒に来てくれたらたくさんおもちゃをあげるよって。今思えばこんな分かりやすい誘拐文句もないよね。でもその時の僕はそりゃあもう純粋な子供だったから元気な返事をしてついていっちゃったんだ。
おじさんは僕を車に乗せて、裏山の奥深くまで連れていってくれたんだ。裏山に到着した僕はそこにあった小屋に入れられたんだけど、その中にはランドセルとゴミ袋がいくつも置いてあったんだよね。しかも生ごみみたいな酷い匂いがしたし。おもちゃもお菓子もどこにもないから僕はそこでちょっとおかしいなーとは思ったんだ。
舩江、聞いてる? ……あ、聞いてるの。じゃあいいや。
それで、おじさんは僕を小屋に入れると、鍵をかけてどこかに行っちゃったんだ。僕は焦ったね。だって五時までに帰らないと夕飯抜きだって言われてたんだもん。その時にはもう体感的には四時過ぎだったし、僕は慌てて小屋から出る方法を探し始めたんだ。
小屋の中にはランドセルとゴミ袋と、あとストーブが置いてあった。ゴミ袋は汚くて触りたくなかったし、他人のランドセルを開けるのもどうかなと思ったから、僕はストーブを調べることにした。常識がある賢い子だったよなあ僕って。
ストーブを調べて何をしようかとしてたかっていうと、なんとか鍵をこじあけられるものがないかと思ったんだよね。でもストーブにそんなものがあるはずもなくて、ついでに僕はストーブの横にあった灯油っぽいものもひっくり返しちゃったんだ。
最初はちょっと焦ったけど、ひっくり返しちゃったものは仕方ないし、それはそのままにして僕は今度は壁を調べることにした。壁は隙間風がめちゃくちゃ入ってくるトタンでできててね。僕はその隅っこに子供一人ぐらいなら通れそうな隙間を見事見つけることに成功したんだ。
当然僕はそこから逃げるよね。外に出たら太陽は傾きかけてて急いで僕は帰らなきゃって思った。でもあのおじさんに見つかっちゃいけないし、そーっと隠れながら歩いていったらさ、おじさんどこかに電話かけながら煙草吸ってたんだ。今がチャンスだって思ったね。僕は足音を立てないようにそーっとそこを離れてから、おじさんが見えなくなったあたりで、全速力で走り始めた。門限に間に合わないとまずいからね、すっごく慌ててたんだ。
そしたら後ろからいきなり、どかーんちゅどーん! って音がしてさ。振り返ってみたら後ろの方で煙が上がってるの。僕はびっくりしたけど、それより門限の方が大事だから、それはそのままにして無事帰ったんだ。ちなみに門限には間に合わなくてすごく怒られちゃった。まあそれだけの話なんだけど。あれが誘拐だったのかどうかもいまだにはっきりしないしね。あのおじさん今何してるのかなあ。
あ、僕、トイレ行ってくるねー。
*
西萩の話を聞きながら舩江はパソコンを睨みつけていた。モニタに映っているのは、おおよそ二十年前のとある町のとある事件。連続誘拐強姦犯が、山中で謎の焼死体となって発見されたという記録だ。何故そのようなことになったのかは今でも不明で、事故と自殺のどちらかだろう、と記事は締めくくられていた。
舩江は目の間を揉みながらため息を吐くと、何も見なかったことにして、ブラウザを閉じた。
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