仮面の猫
バスティーユ
「新しい司令官『サン・マール』氏が前任地から着任、はじめて姿をみせたニャ。
氏は自分の輿の中にピロネル監獄在任時からその監督下に置いていた『古い囚猫』を同乗させてきたニャ。
この囚猫は常に仮面をかぶせニャれており、姓名は明らかになってニャい。
その猫は、サン・マール氏に同行していた副官ド・ロサンジュ氏立ち会いのもと、ベルティエ塔の第3独房に収監。
生活必需品はあらかじめ備え付けておいたニャ。ド・ロサンジュ氏がこの囚猫の身の回りの世話をして、サン・マール氏自ら食事の世話をすることにニャっているニャ。」
その異例の到着は、新聞にこう書かれるほどであった。
『前サント・マゲリット島司令官サン・マール氏が到着。
氏は国王陛下の命によりバスティーユの管理を引き継ぐ。
尚氏は同行してきた囚猫一匹を収監した。』
公式の収監記録、つまりは全囚猫の名簿にはにはこのように書かれている。
『ピネロル監獄より収監された古い囚猫、姓名・身分ともに不詳。
罪状、不明』
それに興味をもった囚猫の一匹が、彼と話そうと試みた。以下、その証言。
「オレはあの仮面の猫と少しはニャしたが、静かに暮らしてるんだからほっといてほしいというのと、多分60歳くらいと言うのを聞いたニャ」
それより数年後のデュ・ジョンカの日記より。
「かの正体不明の囚猫が午前10時に死去。
常に黒ビロードの仮面で顔をおおい、以前より久しく監督下に置かれていた猫は、昨日ミサより帰る際、身体の不調を訴えたニャ。
当監獄の教戒氏ジロー氏が
埋葬者名簿には、ド・マルシーユ(マルショワリーの誤り)氏と記し、名簿は副官ロサンジュ氏および、外科医アレーユ氏が署名したニャ。」
これがバスティーユ監獄ではマルキ・ド・サドより有名猫で、かの大デュマやヴォルテールを魅了した『鉄仮面』ないしは『仮面の猫』の当時の史料で書かれたものである。
こうして彼は、歴史の闇へ姿を消し、伝説が始まる。
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