ある小悪党の生き方

 ヘンネンホーファーという猫の話をしよう。

 バーデン大公国に仕えた軍人で、1兵卒から少佐にまでなった猫だ。

(退役後も「少佐」と呼ばれていた)

 そして、ルードウィヒ公の元で諜報スパイ活動を任せられていた。

 彼は娼婦を貴族に斡旋して、そこから得られる情報でルードウィヒ公やその側近達の醜聞ゴシップを握ることで、のし上がったようである。

 というのは、同時代の資料に、ほとんど痕跡が残されていないのだ。

(公側も、このいかがわしい人物を利用していた)



 さて、当時のバーデン大公国では、不可解な事件が起こっていた。

 公位に就くはずの人物が、次々と謎の死を遂げたのである。

 そして、ルードウィヒ公1人だけが残った。

 1説によれば、自分の息子エドムンドに公位を継がせようとした、ルイーゼ

(彼女はルードウィヒ公の継母であった)

の陰謀とも言われる。

 ルードウィヒ公の死期を察したヘンネンホーファーは、おそらく陰謀を知っているこをちらつかせて、ルイーゼ側に近づいた。

 ルイーゼ側も、この人物の利用価値を見抜いていたらしく、ルードウィヒ公の死後、外務大臣に出世している。



 やがて彼は、1人の少年の運命に関わる事になるが、それは別の話。

 憎まれっ子世にはばかるというが、彼も外務大臣を引退した後は、悠々自適の暮らしをしていた。

 やがて、バーデン大公国に三月革命の嵐が迫った時、彼は

「お前はあのカスパール・ハウザーを殺したニャ」

と群衆に囲まれたが、泰然としていたらしい。

 群衆は使い走りだと思った彼が、そういう『秘密スキャンダル』をもって立身出世をとげた猫とは、ついぞ気付かなかったのだ。


 ヘンネンホーファーは61歳で亡くなった。

 死因は心臓発作で、顔をしていたという。



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