猫人小伝妙

今村広樹

あわせ鏡

例えば、ある独裁者と喜劇役者が、4日違いの同い年で、風貌も似ていたり(チョビ髭)、好きだけどあんまりしらない書き手が一緒(ショーペンハウアー。喜劇役者は晩年まで主著を読んだことがなく、独裁者は綴りすら間違えていた)だとしても、それは偶然たまたまであるように、世の中には不思議な偶然というものがある。




徳川とくがわ秀忠ひでただは、父と違って将棋が好きだった。

この時代の将棋は、広まっていたものの、本因坊ほんいんぼうのような権威えらそーなモノはなかったという。

秀忠は、父である家康いえやす

「また、将棋にゃんてにゃってるのか」

と、腹をポンポンさせながら言うのを聞いて

「うにゃ~、将棋だっておもしろいにゃ!」

とくやしがっていた。




そんなある日、町一番将棋が巧いということで、呼ばれた猫が、秀忠のいる屋敷にやってきた。

彼を見て、応接した秀忠の小姓は

「なんか、大殿様(家康のこと)にそっくりだにゃあ」

と、笑いともなんともつかない妙な表情になった。

家康は、猫のくせにの、タイコ腹で

「まるで猫というより、狸だにゃ」

と、言われていたが、それと寸分違わぬ猫が来たとなれば、そんな顔にもなるだろう。

当の呼ばれた猫は、別段そんな扱いにも慣れた様子で

「なんにゃ、家康公とは儂にそんなににてるにゃか」

と、一人言を呟いた。

「それで、お前のにゃはなんと申す?」

と、聞かれた猫は、慌てて答えた。

大橋おおはしそうけいと申しにゃすにゃ」

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