終着駅

 ついに迎えたその日は、いつもとたいした違いはなかった。

 布団から体を起こし、気だるさと戦いながら洗面所へと向かう。

 鏡に映った顔はいつもと変わらないはずなのに、私は何故だか憤りを感じた。

 時刻は朝の四時過ぎ。

 ふと私は洗面所の横の窓から外を見た。外はまだ太陽も上らない闇の世界だった。そんな闇の中、私は一筋の輝きを空中に見つけた。それはキラキラと光りを放ち、数秒ほどで大気に溶けてなくなってしまった。私はそれがなんだか分からなかったが、何故だかその輝きに大村の姿を見たような気がした。

 寝癖を撫で付けたり歯を磨いたりして、一通りの身だしなみを整えた私は、一階のリビングへと降りた。

 そこには既に母の姿はなく、用意された朝食と一枚の置き手紙のみが残されていた。


「試験頑張ってね。応援してるよ!」


 母なりの気遣いだろう。私は母の気遣いを邪険にすることは出来なかったし、かといって自分の感情を圧し殺すことも難しかった。

 また、爪を噛んだ。


 朝食を済ました私は再び身だしなみを整え、歯を磨いた。その後制服に着替え、英単語帳をパラパラと捲って時間を過ごした。

 そんなことをしていると、時刻は既に五時を回っていた。

 カーテンから漏れる光で、外が光に包まれていることはわかっていたが、部屋に光を取り込む気分になれなかった私は、結局カーテンを開けて外の確認などもせず、玄関へと向かった。

 電車の時間までは大分余裕があるが早く出た。

 そして、私はいつもと同じ朝という認識を改めざるを得なくなった。それと同時に私が彼を見たそれの正体も見ることが出来た。

 雪だ。

 私が見たのは降り積もる雪だった。

 私はその時、ある考えが浮かんだ。雪こそは自由だなと。

 私は舞い降りる雪に目をやった。それはふらふらと宛もなくさ迷い、まるで自由を謳歌するかのように踊っていた。そして、やがて地表に落ちていく。しかし、彼らは雨やその他のもの土地がって、その地面に積もることでとどまり続ける。自由だけでなく意思までも兼ね備えているのだ。私はそこで、どうして雪に彼を見たのかを完全に理解することが出来たのだ。

 私はしんしんと降る雪の中、駅へと向かった。

 私は嬉しかった。

 それは本当の自由の化身を見たからだろう。

 今すぐにでもはしゃぎたい気分だった。

 しかし、駅が見えてくるにつれてその気持ちは溶けていった。

 きっとこんなときでも彼は動いているのだろう。時間通りにくそ真面目に。

 私はむしろ尊敬した。

 なぜここまでの余裕があるのだろう。それはわからない。


 駅のホームで待つこと数分。電車は一向に来なかった。

 私は疑問に思った。あんなに時間通りに来る電車なのにどうして。

 そんな疑問の答えはすぐに出た。

「お客様にご迷惑をお掛けします――――」

 運休の知らせだった。

 電車が止まったらしい。雪の影響で。

 私は詩人気質なのだろうか。彼が語りかけてきたように聞こえた。

「僕もたまには休むさ」

 その声はどこから聞こえてきたのかわからない。けれども私はそれに後押しされたに違いない。

 私はすぐに担任に電話を掛けた。

「もしもし、僕、一般入試でいきます」

「は?ちょっとまてどうい」

 携帯の電源を切り、ポケットの奥不覚にしまう。

 私は雪の中をすすんだ。

 レールに沿うことなく。


 私は最後には彼らに助けられた。

 私はレールを歩かない。

 自分で作ったレールはきっと運行しにくいものだろう。

 でも、私はそれを楽しいと言える人間になりたい。

 レールは沿うものじゃない。作るものだ。



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rail 勝次郎 @takekuro9638

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