六駅目

私は彼に失望していた。例えそれが彼の意思による結果では無かったとしても、私はその結果だけは許すことは出来なかった。私が呪いに呪ったあのレールは全てを壊すのだ。私はレールへの認識を改めた。あれは地獄への道なのだと。


彼は転校をする前日まで私と帰路を共にした。なに食わぬ様子で、いつも通りに私と接してくれた。

私は彼だけが心の支えだったのかもしれない。彼にだけは何でも話し、何でも打ち明けた。しかし、私は彼がいなくなる最後の最後(私には彼がいなくなるタイミングなど知りもしなかったのだが)まで性だけは打ち明けることは出来なかった。流石にそれだけはしてはならないと私の心が、いや、細胞が訴えかけていた。

私は結局最後の最後まで信用できなかったのだ。あんなにも親友と思っていた彼にさえ打ち明けられなかったのだ。それは決して彼に非があるわけではない。すべては私の責任なのだ。私が彼を信用しきれなかったことと、性の重圧に押し負けてしまったことが問題だったのだ。

私はふと窓の外を見た。もう「帰ろう」と誘ってくれる本当の友人を持ち合わせない私は、教室に一人何にすがるでもなく、残っていた。

窓の外に広がる景色はなにも変わらなかった。各部活が各々の活動に清を出し、グラウンドを駆けずり回る眩しいそれは、私に絶望が降りかかる中でも変わらず光輝いていて、直視できないほど眩しくて、崇高で、犯しがたくて、何より羨ましかった。

仮初めの自由を楽しむことすら出来ない私はこれからもレールを走り続けるのだろうか。誰にも悩みを打ち明けられない私は、これからも一人でこの醜くねじまがった性を抱えて生きていくのだろうか。私は……私は……


私はふと彼の言葉を思い出した。それが起こったのは何の脈絡もなく、なんのきっかけもない唐突なものだった。しかし、私の頭の中に彼のその言葉は姿を表した。


「でも、自分で決められないのって不便だよね」


それは何故、今浮かんできたのかわからない。だが、意味なんてないのだろう。これは私の願望なんだろう。もう一度私の性を受け止め、否定してくれる何者かに出会いたいだけなのだろう。

私は家へと帰った。

推薦試験までは既に残り一日をきっていた。





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