第1章 魔法少女誕生編

「ワイと契約して魔法少女にならんかいな」

 ヒロノブは後悔していた。


 童貞を卒業するために風俗へ行ったのに、それらしい理屈を並べ結局怖気付いて帰ってきたのである。




「あー…くっそ…あのおっさんさえ現れなければ俺も一発ぶちかましてやったのに…」



 風俗から出てきた、普通のその辺にいるような少し小太りのおっさん。

 ヒロノブはあのおっさんのせいにしようとしているが本当はただ自分が怖かっただけ、恥ずかしがっていただけだということに気づいていた。

 今までもこうやってなんでも他人のせいにして生きてきた。

 小学生のとき、クラスで飼っていたウサギの小屋の鍵を閉め忘れ逃がしてしまった時も、自分は絶対に鍵を閉めた。自分が帰ったあと誰かが開けたに違いない、という一点張りで押し通したこともあった。

 高校の時も部活のバスケの最後の大会の時、自分がパスミスして負けたのにパスをしっかり受け取らなかったと後輩のせいにした。


 ただ罪悪感だけは人一倍感じるので自分の犯した罪は全部覚えていた。





 いつの間にか自宅に到着していた。古い木造建築のアパート。家賃3万。

 101号室の鍵を開け、中に入る。


 靴も冬用と夏用のスニーカーとビニール傘が1本しかしかないお粗末な玄関。


 短い廊下を少し歩き部屋の電気をつける。


 LEDではない白熱電球が部屋を照らす。

 どこか薄暗さを感じるこの部屋の雰囲気にすっかり慣れていた。



「とりあえず着替えるか…」



 今日、風俗の女の子にダサいと思われたくなくて久しぶり買った勝負服を脱ぎ捨ていつものスウェットに着替える。

 この黒のスウェット、履き心地が良さすぎて5年間も愛用していた。


 

 一人暮らしをする際知人から譲ってもらったテレビをつける。

 夕方のニュース番組が始まっていた。


 見出しには【グループで大学生の女性一名を強姦】と書いていた。


「んーレイプ事件ねぇ…。」


 人間には欲を抑制できる力がある。ようは我慢ということなのだが、それは神が人間にだけ与えた人間にしかできない誇るべきものなのに、それを跳ね除け自分の性欲の思うがままに女性を襲う強姦魔はもはや人間ではないと思う。

 ただのサルだ。




 しばらくなんとなくニュースを眺め、腹が減ったのでカップラーメンのお湯を沸かす。

 給湯器なんてものは無いのでヤカンに水を入れお湯を沸かす。




 しかし、ヒロノブはもうこの時点で限界が来ていた。

 自慰行為がしたくてたまらなかった。

 性行為一歩手前で引き下がってきたこと、さっきのレイプ事件のニュースと引き金が多くてとにかく自慰行為をし、賢者タイムに入りたかった。


「よし。お湯を沸かしてるうちに一発抜いておきますか!」


 気合を入れ、ヒロノブはスマホを取り出しおもむろにエロ動画を検索し始める。


 いつものサイトに入りオカズを探しながらトイレに向かう。

 ヒロノブはトイレで済ませる派だった。

 部屋で済ませた場合、ティッシュに我が息子達をそこに包まなくてはならない。

 そのティッシュを見ると「俺、何してんだろ…」と虚しくなるのでトイレで済まして今自分がしたことと息子達を一緒に水で流してしまいたかった。


 トイレの電気をつけドアを開ける。

 ヒロノブは画面を見つめながら便器にまたがった。

 女教師が男子に襲われる系で自分のタイプの子を発見したので再生する。


 そして自分の股間に手を持っていきブツを握った瞬間だった。



「なんや汚いもの見てしもうたのぉ」



「ふぁ!?」



 ヒロノブは一人暮らしだ。部屋には誰もいれていない。

 聞こえてくるはずない声が聞こえた。しかしどこから聞こえているか分からない。



「お前さんもう30やろ?こんなことして虚しくないんかいな」



 トイレの中に響く声。トイレの中にいるのは確かだ。



「ま、それだけ素質をもってるっちゅーこったな」



「ッ…」



 声にならない声が漏れる。

 何者かが侵入している恐怖より、この自分のいきり立ったブツを握って硬直してしまっている自分を見られているという恥ずかしが上回っていた。

 しかしどこから見られているかさっぱり分からない。




「さっきからどこ見とんねん。下や下。下見ろ」



 ゆっくり下を見下ろす。

 便器と壁のあいだに大きな影がある。


 いや影ではない。真っ黒の何かが動いている。


 固唾を飲み込む。


 その真っ黒いなにかの顔がこちらを見ていた。

 犬に似ているが犬ではない。


 小さなその真っ黒い犬のような生物がゆっくりと足元に近づく。


 そしてその生物が上を見上げる。


 その時お湯が湧いたのだろう。やかんの音が響いて聞こえてきた。しかしそれどころではない。


 ヒロノブと完全に目が合っている。


 その後何分目を合わせていたか分からない。実際、ほんの数分しか経っていないのだが、恐怖と羞恥心によってヒロノブはただその生物と目を合わせることしかできなかった。


 そしてその生物は口を開かずその口を開き、こう言った。



「ワイと契約して魔法少女にならんかいな?」



 やかんのお湯が湧いた音と再生したエロ動画の喘ぎ声がヒロノブの鼓膜から消えていった。



「は?」


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魔法少女 タカハシ☆ヒロノブ 八城 @yashiro7125

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